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執行者 ~チート嫌いなチート使い~  作者: みやすのりか
第六章 トロールの王
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06-05 選択

『……じゅるり』



ホークアイが涎を啜る。



「「ひいっ!」」



エステルとジョエルが短く悲鳴を上げながらびくんと震える。



「…………」



プラムは無言でぷるぷると震えている。

ケンジーの懐で。



三人は、さっきからずっとこの調子だ。

まあ喰われると言うのは、ただ死ぬよりよほど恐怖を誘うものなのだろう。

この反応は仕方ないのかもしれない。


とは言うものの。

これではエステルたちは人間の言葉を話す余裕が無いようだ。

仕方ないので自分にエルフ語を“刷り込み”対応することにした。

トロール語の方はケンジーの感覚的にほぼ英語だし、現在必死に習得中だ。



実のところ、ケンジーはホークアイに感心していた。

食べ物と言われた三人はそれどころじゃないのだろうが、本能のままに生きるトロールが、食事を目の前にしていながら食欲を理性で抑え付けているのだ。

涎を啜るくらい許してやってもいいのではないだろうかと思う。


それだけ、ホークアイは本気だと言うことだろう。

そう、彼はケンジーに対して交渉を、はっきり言ってしまえば勧誘に来ていたのだ。



  ♢♦♢♦♢♦♢♦    ♢♦♢♦♢♦♢♦    ♢♦♢♦♢♦♢♦



『汝は我らトロール族の儀式を知っているか?』


『百年に一度の王を決める儀式の事か』


『そうだ。 知っているなら話は早い。 その儀式を無効化したい、協力してはくれまいか』


『……理由を聞こうか』



ホークアイが語った儀式の内容は、ギルドの資料室で見た本の内容とほぼ同じだった。

候補者を篩にかけて最後の一人に絞り込み、自らの王としての在り方を先祖と秘宝に誓う。


だが、それにはまだ続きがあった。

薄々勘付いてはいた事だが、誓いの後で“願掛け”をするのだそうだ。

秘宝、つまり“杖”を使って。


当然ながら、それには代償が必要だ。

願掛けに失敗すると化け物になってしまうのだとホークアイは言う。

トロールが言う化け物とは何だろうと考える。



「Terrible Troll」



ホークアイはそう言っていた。

つまり、トロールでさえ恐ろしいと思うほどの化け物だと言う事だろう。

そうなると、敵味方見境なく襲うようになるのだと言う。

しかも恐ろしく強くて手に負えないらしい。

Terrible(恐ろしい) Troll(トロール)”とは言い得て妙なのかもしれなかった。


しかも、もう何代も王は現れていないらしい。

数百年もの間、選別の試練を勝ち抜いた者は全て“願掛け”で化け物になってしまったのだ。

その王の選定が、もうじき行われるのだとホークアイは言った。




無論、それは本題では無い。

ここまでは話の前提だ。




今回、その王の選定の儀式にホークアイの乳兄弟が立候補したのだそうだ。

その乳兄弟――名をアルパインスターと言うのだが…



(こいつら、名前がやたらカッコイイのは何故だ。 トロールは皆そうなのか?)



気持ちは分かるが閑話休題。

アルパインスターの話だ。

こいつは、お世辞にも優秀とは言えないらしい。

試練には耐えられないだろうし、仮に勝ち残っても“願掛け”で間違いなく化け物となるだろう。

だがホークアイは、そんなアルパインスターに王になって欲しいのだと言う。



『あれは、トロールらしいトロールで馬鹿だが、他の者と違って愚かでは無い』



ホークアイは常々主張していることがある。

トロールも、もう本能のままに生きる時代は終わった。

頭を使って生き残らなければならない時代がやってきたのだと。

“王の不在”こそが、その証拠なのだと声高に主張してきた。


だがそれは受け入れられない。

そもそも、これまでのトロールの主張は“力こそが全て”であった。

老いたトロールは、その考えに染まっており、試練に勝ち抜くのもまたそんなトロールだ。


だがアルパインスターはホークアイに賛同した。

トロールとして決して優秀ではない彼は、幼いころからホークアイの頭脳に助けられて来た。

ホークアイがいなければ、アルパインスターは今頃生きてはいない。

そんな彼だからこそ、ホークアイの考えに間違いはないと確信しているのだった。


ホークアイは考える。

アルパインスターが王になればトロールは変わる。

自分が彼の補佐になれば、強大なトロールの王国が築けると。


そのために、必要な事を考える。

試練は問題ない。

彼の頭脳を持ってすれば容易い。

脳筋のトロールなど簡単に出し抜ける。

彼の支援を受けたアルパインスターならば勝ち残れる。


問題は、やはり“願掛け”だ。

あれは呪いであろうとホークアイは考える。

ホークアイでは呪いに対抗出来ない。

頭脳はあっても魔力が無いからだ。

ならば魔力の持ち主を仲間に引き込むしかない。

その者の魔力でもって呪いに対抗する。


そんな折、強大な魔術の一撃で大勢のトロールを屠った人間が現れた。



『天啓だ』



  ♢♦♢♦♢♦♢♦    ♢♦♢♦♢♦♢♦    ♢♦♢♦♢♦♢♦



『で、自ら勧誘に来たと』


『その通りだ……じゅるり』



びくん!

びびくん!

また三人が反応する。

これでは彼女たちは冷静に考えられまい。



『ちょっと向こうで考えさせてくれ』


『承知した』



ホークアイに断りを入れて三人を連れて離れることにする。



「――と言うわけなんだ」



三人に一通り簡単に説明する。



「……なんで、あなたはトロール語で会話できるんですか」


「え? 気にするのそこ?」


「エルフ語は分からなかった癖に……ぶつぶつ」


『大丈夫、エルフ語ももう覚えた』



エルフ語で答えてやることにする。



『ええ!? 本当に!?』



エステルが吃驚している。



『で、だ。 俺は彼に応えてやろうと思う』


『え、ちょっと、本気?』


『ああ、本気だ。 彼の望みは過去との決別だ。 俺の目的にも合致する』



ジョエルの突っ込みに理由を述べるケンジー。

そう、ケンジーの目的は、あくまで“杖”の破壊なのだ。



「私たちの味方には、なってくれないのですか……?」



エステルが態々人間の言葉で問い掛けた。



「だからと言って敵対するつもりも無いけどな。 そこから先は君たち次第だ」


「どう言う意味でしょうか」


「最初に追われていた時、君たちは俺たちを見捨てなかった。 そのまま通り過ぎる事もできたのにな」


「……私たちは世界樹の巫女です。 そんな事出来るはずがありません」


「それでもだ。 その後、俺を味方に引き入れようとしたな。 それも、まあいい」


「仰っている意味が分かりません」


「打算で動くのは構わない。 だがその後がダメだ。 色仕掛けは同盟後にするべきだったな」


「それは!!」


「初対面で、打算で動いてると分かっている相手から誘われてもね、警戒するだけさ」


「でも、あなたは敵対しないと言ってくれたわ。 真意はどこにあるのかしら?」



今度はジョエルが言葉を継いだ。



「言った通りさ。 初対面の人間を君たちは見捨てなかった。 そこは信用に値すると思っている」


「でも私たちを助けてはくれないのでしょう?」


「手段が間違いだと言ったはずだけどな? アレは使ってはならないモノだ」


「なら、どうすれば良いと言うの!? 世界樹が枯れてしまったら、私たちは生きていけないのよ!」


「それも、これからの君たち次第だと言った。 自分たちが救うに値する存在だと、俺に証明してみせろ」


「……何を言っているのよ……」


「そうすれば、俺が世界樹を治してやる」


「「…………」」



ジョエルは絶句した。

エステルもまた絶句していた。

それはそうだろう。

自分たちエルフでさえ治せなかった世界樹を人間が治すと言っているのだ。

そこへ、もぞもぞとケンジーの懐から顔を出したプラムが口を出す。



「ケンジーなら間違いなく治せるよ~」



二人は驚愕の眼差しをプラムに向ける。

“妖精は嘘を吐かない”

二人はそれを知っている。

だからこそ、信じられないのだろう。


ちなみにプラムは嘘を吐ける。

代弁者となったプラムは、ただの妖精では無いからだ。

プラムが嘘を吐けないのはケンジーに対してだけである。

もっとも、長く妖精として育った環境と、態々嘘を吐く理由もないことから、基本的にプラムは嘘を吐かないのだが。



「別に今すぐ答えを出せとは言わない。 答えられたところで信じない」



二人の答えを待たずにケンジーは言葉を続ける。



「今後の行動で俺が勝手に判断するだけだ」



それは二人にとって最も過酷な宣告かもしれなかった。





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