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執行者 ~チート嫌いなチート使い~  作者: みやすのりか
第六章 トロールの王
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06-03 亜人との出会い

決闘騒ぎを終えると、心配事の種が無くなったケンジーは積極的に情報を集めていった。

ここのギルド支部の資料室で見つけたということは、この領地内で起きた可能性が高いことを意味している。

俄然やる気が出ると言う物である。


そして過去の討伐依頼や目撃情報から、東の深い森が候補に挙がった。

簡単に森と言っても相当に深く広いのだが……



「まあ、そこは焦っても仕方ない。 時間を掛けて探っていくしかないだろう」


「そうだね~」



ガーラルとの一件以来、ケンジーの中で代行者としての蟠りは徐々に減っていった。

代行者としての仕事は熟す。

けれど自分の人生は自分のものだ。

この人生を楽しむ事まで手放したりはしない。

開き直りに似た心境だが、お陰で力の行使に関しては制限が下がっているのも確かだった。


例えるなら以前の心の壁は城壁とも言える荘厳さだったのが、今やご近所の垣根ほどになっている。

絶対的な拒絶から、その気になればひょいっと越えられる仕切りへと。


(元)日本人としての禁忌に関する事に対しては儀礼を用いた行使が必要だが、それ以外は最早無制限だ。

己の心を律することが出来ているとも言える。

後輩を育てたことで、先輩としての自覚が芽生えたのも大きい。

人として、また代行者として、成長したのである。



(頼もしくなったよね~)



以前はどこか危うい所のあるケンジーだったが、今は安心して見ていられる。

プラムは、ご機嫌だった。

もっとも――



(こうなると女性関係が心配になってくるんだけどね~)



頼もしくなったらなったで、別の悩みが出てきたようである。



  ♢♦♢♦♢♦♢♦    ♢♦♢♦♢♦♢♦    ♢♦♢♦♢♦♢♦



東の森の探索を始めてしばらく経った。

虱潰しに調べなければならないので、それなりに時間が掛かるのだ。

なのだが、今日は少し違った。



「空気がいつもと違うな……森が騒がしい」


「うん、何か普段と違うことが起きてるね~」



――いつも以上に慎重にいこう、そう決めて探索を続ける。

しばらくすると異変を確実に感じ取れるようになった。



「何かが追われているな、これは」



そう判断したケンジーは気配を消しつつ騒ぎの中心と思われる場所に急いだ。

大体、こんな森で騒ぎを起こすのは冒険者と相場が決まっている。

せっかく気付いたのだから、助けられるものなら助けようというのがケンジーの考えだった。

このあたりも後輩育成の影響だろう。



――――近い。

そう感じた直後、斜め前からガサガサッと周囲の草枝を掻き分ける音がした。

そちらへ軌道修正して走る。

すると奥から人が二人ほど、こちらへ向かって走って来ていた。


長い金髪に、マントで良く見えないが、皮の防具らしき装備を身に纏っている。

髪の次に目を引いたのが弓だった。


先頭を走っている方と目が合った。

女だ。

それも美女。

分かっていて近付いたケンジーと違い、女は相当驚いたようだった。



「Attention! Fuyez!」


「……は?」



何語だ。

今度はこっちが驚く番だとでも言うのか。

そのやり取りで、もう一人もケンジーに気付いたらしい。



「Troll! L'évasion bientôt!」


「Humain? Pas de mots et ne savent pas?」



見れば二人とも全く同じ顔だ。

双子だろうか。

何か焦っているような雰囲気は感じられるのだが、何を言ってるのかさっぱりなので、そんな場違いな感想が浮かんでくる。



「Oh, pas plus!」



苛立ったようにケンジーの手前で停止して後方を振り返る。

弓を持って迎撃の構えのようだ。



「ケンジー、この人たちエルフみたい~」


「え?」


「この人たちの言葉ね、エルフ語だよ~」


「そりゃ、分からない訳だ」



相変わらず、そんな暢気な感想しか出てこない。

すると――



“どどどどどどど―――”



地鳴りのような音が響いてくる。

その地鳴りは間違いなく近付いていた。



「なんかでっかいのが団体で迫って来てるようだなー」


「Please prêt à vous même se battre!」



エルフ?の女がこちらを向いて怒鳴った。

意味は分からないが、何か怒られたのだけは理解できた。

プラムに聞いてみる。



「戦えってことか?」


「うん」


「りょ~かい」



とりあえず剣を抜いて構える。

そこへプラムが追加情報を落とす。



「来るのはトロールみたいだよ~」


「お、そうなのか?」


「うん、さっきそう言ってた~」


「なら普通の剣じゃ分が悪いな……」



呪文を用意しておくことにする。



「“魔法の矢(マジックミサイル)”――――“改変(アレンジ)



すると――――



“どどどどどど――――”

“ガサガサガサ――――”



「Kill the intruder!」



謎の言葉を吐きながらトロールの団体が現れた。



(あれ? 英語に聞こえる?)



謎では無かった。

仮にも生前は社会人だったケンジーには、苦手とは言え英語と判別できるくらいの馴染みはあった。

あれ? あった? あったかも? むしろ避けていたような?



(中学生レベルくらいは……いや、最近の中学生は侮れない……いやいや…)



そんなケンジーの苦悩など知らず、エルフ?の二人は弓を射かける。

それは倒すより時間稼ぎが目的のようだった。

足元を集中して狙っているのが分かる。

その矢は魔力が込められているのか、僅かに光を纏っていた。


射掛けられたトロールは転んで後ろから来た別のトロールに踏まれて悶絶している。

また、踏んだトロールも倒れたトロールに足を引っ掻けて転んでいた。



(中々やるもんだな)



気を取り直し、呪文を完成させる。



――――“多段式炎の槍マルチプルフレイムジャベリン!」



空を覆うかのような数の炎の槍が一斉にトロールの集団に襲いかかった。



  ♢♦♢♦♢♦♢♦    ♢♦♢♦♢♦♢♦    ♢♦♢♦♢♦♢♦



「あなた、何者?」



戦闘が終わると美女の片割れがケンジーに問いかけてきた。



「あれ、言葉が分かるのか?」


「会話くらいなら出来るわ」


「それは助かる」



割と本気でそう思った。



「妖精を連れている人間自体が珍しい上に、あんな呪文見たことも聞いたことも無いわ。 本当に何者なの?」



ファンタジーの定番だとエルフは魔術に長けた種族だったはずだ。

”改変”を見せたのは失敗だったかもしれない。

いやしかし、あれだけの数のトロールを相手にしたのだ、仕方ないだろう。

考えた末に出したケンジーの答え(言い訳)は――



「企業秘密だ」


「きぎょうって何?」



まるで通じなかった。





 

”エルフ語”や”トロール語”は意味が分からなくても問題ありません。

次々回あたりで”刷り込む”予定です。

 

 

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