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執行者 ~チート嫌いなチート使い~  作者: みやすのりか
第六章 トロールの王
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06-02 二度目の決闘

“杖”の手掛かり捜索は、いきなり難航した。

この世界に便利な図書館などと言う物は無い。

ケンジーはそれに気付いていなかったのだ。


実家の図書室は当てにならない。

なぜなら父親が成り上がって出来た家だからだ。

当然、この家に歴史などあるはずがない。


次に頼ったのは冒険者ギルドの資料室だった。

ここには支部の特色として、この領地の歴史はそれなりに充実していた。

他の支部に行けば、その土地その土地の歴史は調べられそうだ。


だが、今知りたいのは貴族家各々の歴史なのだ。

その目論見は崩れ去ったと言えた。



「でも、それなりに収穫はあったかな」


「例えばどんなの~?」


「五十年以上前に近海の島で猛毒が発生して生き物が死に絶えたんだって」



それを聞いてプラムが難しい顔をした。



「……それのどこが収穫なの?」


「未確認だけど、島の原住民が化け物になって毒をばら撒いたって話があるらしい」


「うわぁ~、当たりじゃない? それ~」


「未確認だからな? それも何十年も前の話だし」


「それでも調べる価値はあると思うな~」


「それには俺も同意だけどな、その島は未だに毒が残ってて立ち入り禁止なんだとさ」


「あらら~」


「俺たちならどうにでもなるとは言え、進んで行きたいとも思わないな……」


「そうだね……他には~?」


「凡そ百年に一度、トロールが自分たちの王を決める儀式があるらしい」


「また一見関係なさそうだけど……?」



トロールの王を選出する儀式。

それは自薦他薦により選出された候補者たちを、様々な試練で(ふるい)にかける。

最後に残った者が自らの描く王の在り方を一族に語り、その通りに行動すると誓うのだ。



「で、何に誓うかと言うとだな、“先祖と秘宝に誓う”とあるんだけど、珍しく挿絵が描かれていてな?」


「もしかして……」


「“杖”に見えるんだな、これが」



これは意外に信憑性があるのではないか?

プラムと二人、同じ意見に纏まった。



「そんな訳で確かめたいと思う」


「うんうん、いいよいいよ~」


「まずはトロールの集団がどこにいるか調べないとな……」


「あう~、そこからなんだね……」



まあ、ヒントを見つけただけでも収穫と言えた。



  ♢♦♢♦♢♦♢♦    ♢♦♢♦♢♦♢♦    ♢♦♢♦♢♦♢♦



調べている内に、いい時間になったので帰ることにする。

すると一階で知っている顔に出会った。



「先輩!」



つい先日、涙の別れをしたばかりの後輩たちだった。

再会が早すぎて、少々気まずい気分のケンジーだったが、ザカライアたちは気にしていないようだった。



「わ~い、みんな~」



――まぁ、いいか。 プラムも嬉しそうだし。

そう思うことにする。



「――さすがにオールラウンダーともなると注目されるんだな、周りの視線が集中してるぜ」



ギルドの一角にある打合せ場のテーブルで、お互いの今後の方針や目的などを話し合っているとパウンドがそう告げた。

確かにケンジーがギルド、それも衆目の場に長居するのは珍しい。



「それだけじゃないのだ、パウンド。 先輩はこの前のドラゴン討伐で冒険者ランクもBに上がったのだ」


「そうだ、先輩は数十年ぶりに現れた逸材で、Aランクになるんじゃないかって言われている人だ。 注目されて当たり前だ」



そうなのだ。

ケンジーはブルードラゴンを倒したことが評価されて、冒険者ランクがBとなった。

これはギディオンの思惑も絡んでのことではあったが、それだけでギルド本部がランクアップ申請を受諾するはずもない。

今やケンジーは冒険者だけでなく一般人までが次代の英雄最有力候補として注目していた。



「そう考えると、俺たちは凄い人に教わっていたんだな」


「そうだな」



リッケンバッカーとザカライアの言葉に、パウンドとファングの年長者組がそう相槌を打っていた。



  ♢♦♢♦♢♦♢♦    ♢♦♢♦♢♦♢♦    ♢♦♢♦♢♦♢♦



ケンジーたちが話し込んでいるのを遠巻きに見守っていた周囲の冒険者だが、その輪から一人の男が近づいてきた。



「おい、お前が最近調子に乗っているケンジーとか言う冒険者だな」


「……見覚えが無いが、誰だお前」



初対面の人間に、ここまであからさまな敵意を向けられるのは珍しい。

ケンジーの返事もいい加減なものになるのは仕方のないことだと言えるだろう。



「……隊長」



そこへパウンドが呆然とした顔で呟いた。

それでケンジーは全てを察した。



「ああ、なるほど。 お前が卑劣で姑息な()隊長か」


「貴様!」


「それだと長いな、卑屈でいいか。 お前、今から“卑屈”って呼ぶから」


「俺の名は、モラン・ランドールだ!」



討伐隊の元隊長はそう名乗るが、ケンジーは更に追い打ちをかける。



「嘘吐け、知っているぞ。 お前、騎士を馘になった上に不祥事の咎で廃嫡されたろう」


「きっ、キサマ!」


「それで、ただのモランとやらが何の用だ? おっと悪い、卑屈が何の用だ?」



態々言い直すケンジー。

あの一件にはケンジーも相当腹に据えかねていたらしい。

いつになく挑発的だ。


ついでとばかりにケンジーは事のあらましを全てその場でぶちまけた。

実家が名誉騎士爵で長男だったため功績に焦っていたこと。

盗賊団討伐に失敗し、評価が下がることを恐れて部下に責任を押し付けたこと。

あまつさえ、放逐された部下が真実を広めないように、彼の行先に予め噂を流していたこと。


パウンドはと言うと、その辺りの事情は聞いていなかったようで、驚愕の表情が収まらない。


収まらないのはモランの怒りも同じようで、真っ赤な顔を俯かせていたが、とうとう我慢できなくなり、言ってはならない言葉を口にした。



「けっ、決闘だ!」


「了承した。 誰か立会人を頼む」



承知した旨を即答し、後には引けなくする。

ケンジーはこれを狙っていたのだ。

この男がいる限り、パウンドと子供二人は不安の種を抱え込むことになる。

後顧の憂いを断つために、ここで殺しておくつもりだった。



「お、おい旦那……」


「お前はダメだ、関係者だからな」


「…………」



呆然としたまま声を掛けるパウンドに対して、素気なく的外れな答えを返すケンジー。

止めるな、と言う意思表示だ。

その意を受けて黙り込むパウンド。



こうして決闘が決まった。



  ♢♦♢♦♢♦♢♦    ♢♦♢♦♢♦♢♦    ♢♦♢♦♢♦♢♦



決闘のルールは公平を期して魔術無しとなった。

武器以外の道具の使用も無しだ。

そして殺し有り。

これはケンジーが決して譲らなかった結果だ。

その代わり、それ以外はモランの主張を全て飲んだ。

もっとも、あまりにも不公平なルールはギルドが排した。


そう、この決闘は殺し有りと言うことで、ギルドが仕切ることになったのだ。



「ファング、俺の動きをよく見ていろよ」



ついでと言ってはなんだが、この決闘でケンジーはファングに軽装の戦士としての技術を伝えるつもりであった。



「……?……分かった」



突然のことに戸惑いながらも、そう答えるファング。


そして決闘が始まった。



  ♢♦♢♦♢♦♢♦    ♢♦♢♦♢♦♢♦    ♢♦♢♦♢♦♢♦



「それでは……始め!」



ギルド職員が務める立会人が合図をする。

じりじりと足を運ぶモランに対して、不動の構えを崩さないケンジー。



(あー、なんか久しぶりだな~、ここで決闘するのも)



ケンジーは暢気(のんき)に、そんなことを考えていた。

それを隙と見たか、モランが一気に駆け寄って来た。

そして先手必勝とばかりに剣を叩き込む。



「喰らえ! “多段攻撃(マルチプルアタック)”!」



必殺技とも言える攻撃を繰り出すモラン。



“―――しゃりんんん……”



その場に金属の擦れる音が響く。

ケンジーは、その全てを受け流して見せた。



「あの男、ファングと同じ技を……」



リッケンバッカーが思わずと言った風に呟くが、パウンドがそれに応える。



「仮にも盗賊団討伐隊の隊長に選ばれるような男だ。 腕はあるんだよ」


「なんでそんなにあっさりしているんだ? 腹立たしくないのか?」



そこにザカライアが加わる。



「だってなあ、もう終わったようなもんだろ? 旦那が仕損じるとは思えん」



パウンドが答える。

そう、ケンジーが殺すことを決めているのだ。

モランがどれだけ腕が立とうが結果は同じだとパウンドは言っていた。



「「ああ、確かに」」



ザカライアとリッケンバッカーはその言葉に納得した。



「…………」



ファングは会話に加わらず、ケンジーが言った通り、戦いに没頭していた。



「――――くそっくそっくそっ、なぜだ、なぜ当たらない!」



モランは罵声を上げながらケンジーを攻撃するが、その攻撃は当たらない。

ケンジーは全てを避け、受け流し、逸らしていく。



(そろそろいいだろう)



この茶番を終わらせることにするケンジー。

ちらりとファングに目をやる。



「……次で決まる」



ぼそりと呟くファング。

仲間たちはそれに気付き、お喋りを止めて決闘に集中する。

それを確認すると、ケンジーはモランの攻撃を往なして攻撃に転じた。



「“多段式強撃(マルチプルスマッシュ)”」



それは“多段攻撃”の上位技。

一瞬のうちに全力の強打を複数回叩き込む、まさに必殺と言う言葉が相応しい技であった。


それをまともに喰らったモランは、血塗れとなって地に伏せた。

即死だ。


こうしてパウンドの運命を変えた男は人生の幕を下ろした。



「こういうのも因果応報って言うのかね?」


「さあ~?」



直接その手で幕を下ろした男は、随分とマイペースであった。






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