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05-07 卒業

ブルードラゴンは莫大とは言えないが、それなりに宝物を集めていた。

殆どが金貨や宝石だったが、呪文スクロールも三つ見つかった。


・眠り

・盾

・魔力検知


初級のオーソドックスな呪文ばかりだが、見方を変えれば定番とも言える。

“眠り”と“盾”は戦闘で役立つし、“魔力検知”は調査等で役に立つ。

十二分に“使える魔術師”と言えるラインナップだ。


宝物は結局人数で等分した。

それでも一般家庭なら三年は暮らせる額だ。

リッケンバッカーは恐縮していたが、スクロールはパーティー財産として扱った。

全員が恩恵を受けるのだから、それでいいだろうと言うことで落ち着いたのだった。



デューイとヘザーの二人はケンジーの家で保護することになった。

と言っても二人はパウンドに懐いていたので三人に借家を用意した。

家賃は一年分を今回の報酬から先払いするそうだ。

パウンドが依頼で長期不在にする時は、ドレイパー家で預かることになる。

パーシアとアンジェラが喜んでいた。


パウンドの過去に関してはクレイグに伝えた。



「ああ、それはアレだ。 お前が片付けた盗賊団の件だな。 顛末は聞いた覚えがある」


「え、では御触れが出ているのですか?」


「そっちじゃない、討伐隊を組織したが失敗したってことだ。 恐らく、その隊長ってのが責任を被せたんだろう」


「また随分と姑息で卑劣な男ですね」


「……それは俺の方で対処しよう」


「すみません、お手数をお掛けします」



それで、その話は終わりとなった。



ドラゴンを倒した功績はケンジーの物となった。

ザカライアたち四人からは不満も出なかった。

元々ケンジーの指名依頼であったし、ケンジーの指導と作戦がなければ倒せなかったと理解しているためだ。



彼らはすぐに日常へと戻った。

その中でパウンドはケンジーから斥候としての技術を教え込まれていた。

迷宮での探索中はもちろん、地上に戻ってもギルドの練習用罠を借りて徹底的に仕込まれた。

そのおかげか二か月ほどで基本は全て合格ラインに届くまでになっていった。




そうする内にザカライアたちを預かってから四か月ほどが経過していた。

ケンジーは彼らが一人前と判断した。

初心者のようなミスはもちろん、一人前になったと油断することもない。

彼らは胸を張って自分は冒険者、探索者だと言えるようになったのだ。



それは――――別れの時が近付いていることを意味していた。



  ♢♦♢♦♢♦♢♦    ♢♦♢♦♢♦♢♦    ♢♦♢♦♢♦♢♦



その日、いつもの食堂に集まった。

次の行動予定を打ち合わせる際などによく利用していた店だ。



「次の予定が決まったのですか? 迷宮ですか? 依頼ですか?」



ザカライアが問い掛けてきた。



「いや、違う」


「では指名依頼のお手伝いですか? 頑張ります!」



リッケンバッカーが言う。

あれ以来、彼は幾分か前のめりだ。

よくファングに窘められている。



「そうじゃない、お別れを言いに来たんだ。 お前たちはもう充分に一人前と言えるまでになった。 卒業だよ」


「「え?」」


「「なんだって?」」



ザカライアとリッケンバッカーだけでなく、ファングとパウンドも固まっていた。



「おいおい、初めからそう言う話だっただろう?」


「それは……そうですが……」


「「「…………」」」



この反応はケンジーには嬉しいことだった。

彼らが心からケンジーを仲間として受け入れてくれていた証なのだから。

ケンジーにとっても彼らといるのは心地よかった。

このまま一緒に冒険者をやっても良いのではないかと思うほどに。


でも、だからこそ別れなければいけないと思い直した。

ケンジーはただの冒険者では無い。

代行者としての使命があるのだ。

彼らを巻き込んではいけない。



「しけた顔するなよ。 ほら、俺からの選別。 卒業証書代わりだ」



そう言って大袋から品々を取り出す。



「これはザカライアに、こっちはファングだ、一本しか無くて済まないが、んで、これはパウンドと、最後にこいつはリッケンバッカーだ」


「これは……」


「いいのか…?」



ザカライアは呻き、パウンドは躊躇する。

ケンジーが取り出したのは、過去にケンジーが踏破した迷宮で手に入れた品々だった。


ザカライアには魔力付与されたチェインメイル。

ファングには同じく魔力付与された小剣。

パウンドには認識を阻害する魔力が付与されたマント。

そしてリッケンバッカーには、“光”と“魔法の矢”の呪文スクロール。


リッケンバッカーは泣き出していた。

――相変わらず涙もろいやつめ。

そう思いながらも、悪い気はしない。



「最後に軽くアドバイスだ。 まずザカライア」


「はい!」


「お前の真っ直ぐなところは美点だが欠点でもある。 もう少し本質を見るようにしろ。 それだけで対応された相手も感じ方が変わるだろう」


「分かりました!」


「次にリッケンバッカー」


「はい!」


「お前も最近、猪突猛進なところがあるぞ、気を付けろ。 魔術師は常に冷静に、だ。 迷うことがあったらパウンドに相談しろ」


「はい、了解です!」


「次、ファング」


「おう!」


「お前はこのパーティーの良心だ。 ザカライアとリッケンバッカーが行き過ぎてると感じたらお前が止めろ」


「わかった」


「最後にパウンド」


「おう」


「お前にはパーティーの眼になって欲しい。 お前は誰よりも客観的に物事を捉えることができる。 常に俯瞰で物を見れるお前が最後の砦だ。 このパーティーが生きるも死ぬもお前次第だ」


「責任重大だな……分かった、任せておけ」



最後に頼もしい言葉を聞けた。

充分だろう。

これで安心して本来の仕事に戻れる。



「まあ、同じ冒険者だ。 特にパウンドは子供たちのこともある、ちょくちょく顔を合わせるだろうさ」


「これっきりと言う訳じゃないですもんね」


「そういうことだ」


「「「「お世話になりました!」」」」


「ああ、俺にお前たちの噂話を聞かせてくれ。 すげぇ新人が現れたってな」


「分かりました、必ず!」


「ケンジー先輩に恥を掻かせるような真似はしません」


「確実に前に進む!」


「とりあえず死なないように注意するよ」



湿っぽい空気は消えた。

皆、前を向いて良い顔をしている。


教え子、いや、もう後輩か。

後輩たちの頼もしい言葉を聞いて、安心して立ち去るケンジーであった。



「じゃあ、またな」







頭の上ではプラムが号泣していた。



「ふぇぇぇ~ん、寂しいよう~」


「静かだと思ったら……」



帰ったら全力で宥めないとだめそうだった……







~第五章 完~





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