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05-06 ブルードラゴンとの戦い

すぐにドラゴンと戦うことはしなかった。

なぜなら戦うメンバーが増えたからだ。

今まで全く面識のなかった人間が加わった以上、連携を取れるように訓練する必要がある。

とは言え、長い時間を掛ける気はない。

必要最低限に抑えるつもりだった。


元々パウンドは兵士だったのだから戦闘訓練は受けている。

ザカライアとファングに、そこそこ合わせられれば行けると踏んでいた。


むしろパウンドに取ってたいへんなのは、その後だ。

現状は斥候寄りの戦士であるパウンドを完全な斥候として再教育する必要がある。

何より冒険者としての斥候技術を新たに習得しなければ一人前の斥候とは言えない。

ケンジーは罠関連の技術(・・)をみっちりと仕込む気であった。



(ふっふっふ……お蔵入りした技術が、また日の目を見ることになるか。 素晴らしい!)



無駄とまで言われたスキルが再び出番を得て、変にテンションが上がっていた。



  ♢♦♢♦♢♦♢♦    ♢♦♢♦♢♦♢♦    ♢♦♢♦♢♦♢♦



連携の訓練自体はケンジーが相手をした。

ケンジーに師事することで腕を上げているとは言え、ザカライアたちではまだまだ及ばない。

それでも二、三日もすると一応の形にはなってきたのだった。


そろそろいいだろう――ケンジーはドラゴンとの対決を決めた。



「疲れを取るために明日一日休憩を入れて明後日に決行する」



その日の訓練が終了すると、そうケンジーが宣言した。

仲間たちに緊張が走る。



「いよいよ、ですか」


「……ようやくか」


「すー、はー、……ふう、了解だ」


「……戦闘に直接参加しない自分も緊張します」



ザカライアとファングはいつも通りに、緊張し過ぎたのかパウンドは深呼吸をして落ちついてから了承の返事をした。

リッケンバッカーは直接戦闘こそしないが、緊急時の役割は教えられていた。

そのためか多少は緊張したようだ。



「それと一つ予定を変える」


「予定を変える? どう言うことですか?」



こんなギリギリになってから予定を変えるなどケンジーらしくない判断だ。

ザカライアが訝しげに問い掛けた。



「ああ、リッケンバッカーも戦闘に参加させる」



ケンジーは事も無げに答えた。



「え!?」



リッケンバッカーが声を上げた。

当然だろう、全くの不意打ちだったのだから。

驚いたのは仲間たちも同じだ。

反対しようと身を乗り出すザカライアとファングだったが、ケンジーが身振りで抑えた。



「いいから聞け。 お前たちは確かに腕を上げてきたが、ドラゴンを相手にするには幾分心許ない。 全力で勝ちに行かなければならないのに遊ばせておく戦力など有る訳がないだろう」


「理屈は分かりますが、戦う手段のないリッケを戦わせるのは間違っています!」


「だから戦う手段を用意した」


「え!?」



そう言ってケンジーは一本の棒を荷物から出すとリッケンバッカーに渡した。



「これは……?」


「“火球”の魔術を使える短杖(ワンド)だ。 使用回数は9回分残っている」


「これで自分も戦えと?」


「そうだ。 不満か?」


「まさか! 嬉しいです、これで自分も戦える!」



頭では理解していても、やはり心では納得出来ていなかったのだろう。

そう言ったリッケンバッカーの顔は本当に嬉しそうだった。

仲間たちも彼に駆け寄り祝福している。


ケンジーは今日になって考えを改めた訳ではない。

ドラゴンと戦うと決めた当初から、こうすると決めていた。

戦力が足りてないのは確かだし、早い段階から仲間たちに教えなかったのは甘えが出てしまうことを危惧したからだ。


用意したワンドは“火球”の他に“雷撃”があったが、ブルードラゴンが相手なので今回は出番が無くなった。

無論これらは、ケンジーがこれまで踏破した迷宮の深奥で手に入れた宝物だ。



「さあ、これで本当に準備は整った。 気合入れて行け、明後日は決戦だ」


「「はい!」」


「「おう!」」



  ♢♦♢♦♢♦♢♦    ♢♦♢♦♢♦♢♦    ♢♦♢♦♢♦♢♦



翌々日、ドラゴンを倒すべく“天然の迷宮”へと赴く。

入って1時間ほどの場所に広い空間があり、そこを巣としているようだ。


普段のケンジーなら事前に潜入し様子を確認する。

だが今回、ドラゴンを倒すことも含めて後輩の育成がメインだ。

本来の目的を忘れてはならない。

偵察も後輩たちに経験させるつもりであった。



「じゃあ行って来る。 デューイ、ヘザー、ちゃんと留守番しているんだぞ」


「はーい」


「行ってらっしゃい、パウンドおじさん」



最初は子供たちも付いて来たがったが、さすがにそれはケンジーも断った。

当然パウンドが必死に説得したし、プラムもそれに加わって止めた。


行程は順調で、家を出て3時間もするとドラゴンの巣まで来た。

途中、魔物や魔獣に出会うことも無く、拍子抜けするほどあっさりと辿り着いてしまった。



「ドラゴンの気配が強くて棲み付けないんだろうな」


「そうなんですか?」


「ああ、だから子供二人も無事に帰って来れたんだろう。 まぁ、こっちは楽が出来ていい」



そう言った後、ケンジーとパウンドは先行してドラゴンを確認に行く。

これも斥候としての教育だ。



「いたぞ、確かにブルードラゴンだ。 目は閉じていたが起きているな、あれは」


「……不意打ちは出来ませんね」


「真っ向勝負だ。 最終確認するぞ――」



戦いの基本は変わらない。

まずは散開し、ドラゴンの“息吹”に巻き込まれないよう互いの距離を取る。

ドラゴンは高確率で初撃に“息吹”を持ってくるからだ。


その際ファングとザカライアは前に出て、出来るだけザカライアがターゲットを取る。

ケンジーが魔術でフォローを交えつつ攻撃。

リッケンバッカーはドラゴンに狙われない程度に火球のワンドで攻撃する。

そしてパウンドだが、気配を消して移動を繰り返し、死角から急所を狙った一撃を放つ。

これもまた、ドラゴンに狙われないように適度に間を開けて行う。


緊急時として、ケンジーとリッケンバッカーが狙われた場合、前衛陣は全力で攻撃してターゲットを前衛に戻すこと。

ケンジーは別に狙われても問題ないのだが、パーティーとしての訓練も兼ねている以上、セオリーは守るように言い含めたのだ。



そして、ドラゴンとの戦闘が始まった。



  ♢♦♢♦♢♦♢♦    ♢♦♢♦♢♦♢♦    ♢♦♢♦♢♦♢♦



“キシャアアアアアァァァァ――――”



ブルードラゴンが吠えた。

空気が固形化したかのような威圧感が五人を襲った。



「“鎮静――恐れよ退け(リムーブフィア)”」



ザカライアは予定通りに“神の奇跡”を使い、威圧感を消して前に出る。

それに構わずブルードラゴンは続けて行動する。

口を大きく開けて息を吸い込む――――

自らに危害を加えようとする愚か者に死を。



「ブレス来るぞ! 散開!」



ケンジーは警戒しつつ、合図を送るため声を上げる。



「おう!」


「はい!」



ファングとザカライアがケンジーに応えて前に出ながらも互いの距離を取る。

同時にケンジーとリッケンバッカーもお互いに離れるよう動いていた。

パウンドは、まだ身を隠している。



“ボボボ……ゴゴゴアアアアァァァァァ――――”



ブルードラゴンの“息吹”は、やや正面に近いザカライアを捉えた。

態々正面に近い場所に位置取る、これは無論狙ってのことだ。

重装備で足が遅く避けることを放棄せざるを得ないし、また軽度の怪我なら自分で治せるザカライアが狙われるのが一番安定するからだ。



「ぐうぅ…、“神の奇跡をここに――癒し(ヒーリング)”」



酷い傷を負ったがそれも予定通り。

自らを癒しながら前に出るザカライア。



「リッケンバッカー、まだ撃つなよ。 前衛陣が攻撃してドラゴンの狙いが安定するまで待機だ」


「……ふぅ、分かっています。 今までずっと我慢してきたんです。 あと少しくらい!」


「その意気だ。 よし、“(ライト)”――“反転(リバース)”――“(ダークネス)”」



ケンジーはリッケンバッカーを抑えつつ、前衛陣が接近し攻撃を始めたタイミングでドラゴンの視界を奪う魔術を放つ。

それを確認し、パウンドが遠回りにドラゴンの背後へと近づいて行く。



「よし、リッケンバッカー!」


「は、はい! “火球”!」



リッケンバッカーが振った短杖から魔力が漏れ出し“火球”の魔術となってドラゴンへと飛んでいく。



(よし、ここだ!)



それを待っていたようにパウンドが“背後から攻撃(バックスタブ)”した。



「……“多段攻撃(マルチプルアタック)”!」



その攻撃にタイミングを合わせて、ファングが手数を活かした攻撃を繰り出す。



“キシャアアアアアァァァァ――”



ブルードラゴンが怒りに震える。

ケンジーたちは確実にブルードラゴンにダメージを与えていた。


だが、ブルードラゴンもただではやられない。

目が見えないにも関わらず、確実に攻撃を当ててくる。

怒りによってか一撃が重い。

だが目が見えないため、常に移動を繰り返すファングやパウンドを捉えることができない。

その攻撃はどうしても正面にいるザカライアに集中するのだった。

だが、それはケンジーたちの狙い通りだ。



「はぁはぁ…、“神の奇跡をここに――癒し(ヒーリング)”」



ぼろぼろになりながらも自ら傷を癒し、なおもドラゴンの攻撃に耐えるザカライア。

ケンジーの魔術による守りを施す訳にはいかない。

そんなことをすればドラゴンは冷静に戻り、逃げるかもしれないからだ。

怒りに熱くなっている今の状態が望ましいのである。


勝利まであと一歩。



「――“蜘蛛の巣(スパイダーウェブ)”」



更に勝利を確実にするため、足止めの魔術を加えるケンジー。



全てが想定通り。

ブルードラゴンはケンジーの掌の上にいた。



だがこれは、あくまで相手が年若いドラゴンだからだ。

経験を積み狡猾となったドラゴン相手では、こうも簡単にはいかない。

ケンジーとしても、高確率で経験の少ないドラゴンであろうと読んでいたが、万が一と言うことも考えていた。

もっとも、その際の作戦は四人に経験を積ませるのは諦めて、ケンジー自身がドラゴンを倒すと言う、何とも力押しな手であったが。



  ♢♦♢♦♢♦♢♦    ♢♦♢♦♢♦♢♦    ♢♦♢♦♢♦♢♦



“ずずうぅんん……”



やがて力尽きたブルードラゴンは、その巨体を横たえた。



「あー、やっと終わったか」



ケンジーは肩を解しながら周りを見渡した。



「はあはあはあ……」



ザカライアは息も絶え絶えと言った感じだ。

無理もない。

今回一番負担が大きかったのはザカライアだ。



「おおおおおおお」



ファングは興奮して雄叫びを上げている。

まあ、気持ちは分からなくもない。



「や、やった? やったのか?」



リッケンバッカーは、まだ信じられないのか何度も問い掛けていた。

誰にかは知らないが。



「勝った……勝ったぞー!」



一番素直に事実を受け止めているのはパウンドだった。

こう言うのも年の功と言うのだろうか。



「さあ、お宝を回収するぞー! 目的を忘れるな!」



ケンジーはブルードラゴンの討伐証明部位を確保しつつ、呆けている仲間に激を飛ばす。

我に返った四人は、ワタワタと動き始める。



「ああ、すまん。 ザカライアはもう少し休んでいろ、これは命令だ」



いつもなら反論して自分も行動するところだが、さすがに疲労困憊しているのだろう。

ザカライアは素直に腰を下ろして、そのまま寝転んだ。



(まあ、なんとかなって良かったな)



ケンジーは全員が無事に済んだことを素直に喜んだ。





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