05-05 新たな仲間
「お前たちが冒険者ギルドの寄越した精鋭……?」
「精鋭かどうかは知らないが、依頼は受けたな。 で、その口ぶりだと事情に詳しいようだが、あんたは誰だ」
無関係の者なら知らない事情を知っている以上、関係者だろうと推測した。
「俺はパウンド。 ドラゴンを発見した子供の保護者だ」
「そうか、なら丁度いい。 現地への案内がてら詳しい話を聞かせて貰えるか?」
「分かった……」
「と言う訳だ。 この村は軽く補給だけで済ませよう」
「「分かりました」」
「了解した」
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主に食糧を補充して目的地への移動を再開する。
その中でパウンドと名乗った男はドラゴンを発見した経緯に自分たちの事情を含めて説明していく。
パウンドは独身だが、男の子と女の子を引き取って育てているのだと言う。
その二人の子とは血の繋がりはない。
パウンドは以前、領主に仕えて兵士をしていた頃に二人と出会ったそうだ。
領主の命で領内を荒らす盗賊の討伐部隊に選ばれて任務に出た際、斥候として偵察に出た先で魔獣に襲われている乗合馬車を発見した。
すぐに部隊に戻り上司に報告したが、下された判断は「馬車を放置して先を急ぐ」だった。
納得のいかないパウンドは命令を無視して馬車を助けに単独で戻った。
殆どは間に合わず魔獣に殺されてしまったが、子供二人だけは何とか助けることが出来た。
きっと親が指示したのだろう、馬車の奥、座席の隙間に隠れていたおかげだった。
それで終われば任務中に人助けした話で済んだのだが、パウンドは命令違反で処罰された。
その挙句、兵士を馘になった。
兵士として信用ならないと判断されたのだ。
親戚はいない(知らない)と言う子供二人を引き取り、生まれ故郷の村へと帰ってきたのだが、すでにパウンドの事は村中に知れ渡っていた。
“主の命令に背いた罪人”
それが、あの村でのパウンドの肩書きだった。
「――で、俺は村の中では暮らせず、離れた場所に棲家を構えているって訳さ」
「なるほどね……」
娯楽のない場所での生活だ。
子供二人は当然の如く外に日々の楽しみを求めた。
パウンドが猟に出ている時に少し遠くまで足を延ばした二人は洞窟の中でドラゴンに出会った。
幸いにも寝ていたために襲われなかったが、起きていたらと思うとぞっとするとパウンドは話した。
「つまり、子供に代わってギルドに情報を提供したのはパウンド、あんただったってことか」
「ああ、そうだ。 子供たちを抱える暮らしで、ドラゴンの脅威にまで曝されるのは御免蒙る」
「そうか、棲家を替えるのは無理か?」
「行く場所が無い。 俺と一緒にいる限り、あの子たちも同じだ。 施設と言う選択肢も有ったが、あの子たちが嫌がった」
「子供はね~、大人を自分にとって敵か味方か的確に見抜くからね~」
ケンジーとパウンドの会話にプラムが加わった。
「そうなのか?」
「そうだよ~、子供は大人をよく見てるものなんだよ~」
――だからパウンドは良い人。 プラムはそう締め括った。
パウンドはテレて酷く動揺していたが、妖精に当たることも出来ないようで、黙って不貞腐れていたのが印象的だった。
その影でザカライアは長く考え込んでいた。
リッケンバッカーとファングは気遣うように黙ってザカライアの傍にいた。
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日が暮れるころにパウンドの家に着いた。
村に泊まらなかった分、到着時間がズレたのだ。
「デューイ、ヘザー、帰ったぞー」
「おかえりなさーい!」
「おかえりなさい、今日は遅かったんですね」
「ああ、丁度お客さんに出会ってな」
「「お客さん?」」
「こんばんは。 俺はケンジー、こっちは相棒のプラムだ」
「こんばんは~」
「「わぁ! 妖精さん!?」」
続けてザカライアたちも自己紹介するが、子供たちの関心はプラムに釘付けだ。
時間が経って落ち着いた頃にパウンドからドラゴンを倒しに来た冒険者だと改めて紹介された。
ちなみに、あの子羊は放牧中に村の者に盗まれたのを取り返したのだが、子供たちには黙っているようにパウンドから言い含められていた。
夕食後、ドラゴンを見つけた状況はプラムが上手く子供たちを誘導して聞き出した。
青い色をしていたと言う。
大きさから言って若いブルードラゴンであろうと意見が纏まった。
一通り話を聞いた後で子供たちを寝かし付けると、パウンドが意を決したように話し掛けてきた。
「俺も一緒に連れて行って貰えないだろうか……」
ファングとリッケンバッカーがピクリと反応した。
ザカライアは黙っている。
少し考えながらもケンジーが答えた。
「……普通はハッキリ断るところだけどな、理由を聞いてもいいか?」
「……この先を見据えてだ。 自分たちの身を守るために」
「それは、竜殺しになれば村からちょっかい掛けられなくなるという意味か?」
「そうだ」
「無駄だな、お前には弱点が多すぎる。 家畜だったり子供たちだったり、手を出されることは無くならない」
「……それでも、やらないよりはマシなはずだ。 報酬なら貰うつもりはない。 ドラゴンを倒したと言う実績だけが欲しい」
「期待させたなら悪かった。 どの道ダメなんだ、ギルドに登録していない人間を戦いに参加させられない」
「くっ……」
パウンドが悔しそうに呻いた。
そこでザカライアが漸く口を開く。
「……先輩、僕からもお願いします。 パウンドさんを一緒に連れて行けませんか?」
「戒律規律遵守なザカライアがどういう風の吹き回しだ?」
「それは……」
再び黙り込んでしまうザカライアだったが、それを許さない者がいた。
「俺もワケを聞きたいな」
「自分もだ。 ライ、理由を話してくれないか」
ファングとリッケンバッカーがそう言って詰め寄る。
ザカライアは俯いて暫く考えていたが、顔を上げると話し出した。
「僕は道中の話を聞いてから、ずっと考えていました。 なぜパウンドさんがこんな目に合わなければならないのか、と」
パウンドが命令違反をしたのは確かだ。
でも任務を優先して今襲われている人たちを見殺しにすることが正しいとは、どうしても思えなかった。
子供たちを救ったパウンドは悪いことをしたのか?
いや、それは絶対に違うとザカライアは確信している。
ならばなぜパウンドはこんなにも不遇な目に合っているのだろうか。
「――いくら考えても僕には答えが出せなかった。 なら彼の行動をもう少しの間、近くで見れば答えが出るのではないかと考えたのです」
「そうか、分かった」
「なるほど……」
ファングとリッケンバッカーは理由を聞いて納得したようだ。
今度は三人が揃ってケンジーに詰め寄った。
「俺たちからも頼む。 パウンドを一緒に連れて行ってくれ」
「役立たずの自分が言うのも憚られますが、戦える人が増えるのは良いことなのではないかと考えます」
ケンジーは考える。
別に戦いに参加させるかどうかを考えている訳ではない。
実はケンジーはパウンドをザカライアたちのパーティーに加えたいと思っていたのだ。
パウンドは兵団で斥候をしていたと言っていた。
つまり基本は出来ていると言っていい。
あとは罠関係の技術や探索者としての経験を積んで行けば立派な冒険者になれるだろう。
事情を聞けば人柄にも問題は無さそうだった。
どうやって誘うか、またザカライアたちをどう説得するかを悩んでいたのだ。
(悩んでいたのがバカらしくなるくらいだなぁ……)
あとはパウンドを引き込むだけだが、ここまで来たら問題ない。
一番の難関はザカライアたちだったのだから。
「――お前たちはそう言うが、パウンドは冒険者では無い。 これは事実だ。 そこはどうするつもりだ?」
「う、そ、それは……」
「ぬ……」
「自分に考えがあります。 パウンドさんを仲間にしましょう。 冒険者としてパーティーに加入してもらいます」
「……さすがリッケンバッカーは頭が回るな。 それなら事が済んですぐに登録すれば緊急措置として認められる」
「じ、じゃあ!」
「まて、慌てるな。 まずは本人の了解を取ってからだ」
ケンジーは、パウンドに向き直る。
自分を置いて話がどんどん先に進んでしまい、パウンドは眺めていることしかできなかったのだ。
「そう言うわけで、お前が今後こいつらのパーティーに加わって冒険者になるなら連れて行ってやる」
「ちょ、ちょっと待ってくれ! 今後って、この先ずっとってことか!?」
「当然だろう、今だけなんてそんな都合のいい話は許さん」
「お前、俺の話聞いてたのか? 俺は疎まれている。 あの村だけじゃない、どこに行っても同じなんだよ」
「そうか? 俺はお前の話なんて、今日初めて聞いたぞ。 恐らく村の誰かがたまたま耳にしたとかそんなところだろう」
「冒険者ならそう思うだろうがな、隊長にどこにも俺たちの居場所はないと言われたんだよ!」
「それも含めて聞いたことが無いと言っている。 お前は知らないだろうが、俺はドレイパー騎士爵家の人間だ。 そんな触れが出ているなら間違いなく知らされている」
「……は? 騎士爵家……? ――――あ、迷宮の覇者?」
どうやらパウンドはケンジーの噂を知っていたようだ。
呆けた顔で動きが止まっている。
「それでも心配なら、ドレイパー家の名に於いて誓おう。 あの子たちはドレイパー家で守ると。 二人を連れて家に来い」
言いながらケンジーはパウンドに向かって手を差し出す。
「あ、あ……本当に?」
「誓いは守る。 俺はコレでも跡取りだからな」
パウンドは差し出されたケンジーの手を両手で掴み膝を着いた。
「……あ、ありがとうございます」
こうして、ドラゴン討伐を前にして仲間が一人増えたのだった。




