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05-04 羊の気持ちって考えたことあるかい?

「ドラゴン、ですか?」



ザカライアが不思議そうに呟く。



「ああ、ドラゴンだ。 北の放牧地の先、大山脈の入口と言われる山の中腹に“天然の迷宮”がある。 その一角にどうやら若いドラゴンが住み着いたらしいとの情報がギルドに入った」



ギルドマスターからボーナスと言う名の依頼を受けたことを教え子たちに説明するケンジー。

北の放牧地の外れから山へと向かった先に、生きた迷宮とは別に“天然の迷宮”と言われる洞窟がある。

生きた迷宮と違い、宝物が期待出来ないので誰も入り込まないのだが、猟師の子供が偶然発見したと言う。



「俺たちが勝手に倒していいものなのか?」



ファングが疑問を挟むが、ケンジーがすぐに答える。



「ギルドから俺への指名依頼だ。 情報を精査し、脅威と判断した場合は討伐も可とする、とな」



脅威と判断したらと言ってはいるが、子供が見つけるほど浅いところにいるのなら脅威にならない筈がないのだ。

情報そのものがデマと言う可能性もあるが、生きた迷宮の深奥へ赴くよりは可能性があるとケンジーは判断した。

なんの可能性か? もちろん呪文スクロールを手に入れる可能性だ。



「先輩への依頼ですか……その間、自分たちはどうすればいいのでしょう?」


「お前たちも一緒に行くんだよ」


「「えええ!!」」


「ほう」


「人選も俺が決めていいって話だからな。 呪文スクロールを手に入れるチャンスだぞ、お前ら」



ケンジーが目的を告げる。



「「あ、そうか!!」」


「なるほど」


「当然、無料(ただ)でくれてやるつもりはない。 だから、お前らがドラゴンを倒すんだ」


「「「ぶっ!」」」



――無茶だ!! と声が揃ったまま三人がブーイングするが、ケンジーは言葉を続ける。



「そこで打ち合わせだ。 無論俺も手を貸すが――――」



ケンジーの後輩育成における考えは、とにかく経験を積ませること。

これに尽きる。

したがって、自分はサポートに徹するつもりだ。

そのまま、作戦と言うか行動指針を伝える。


まずファングとザカライアが前に出て、ドラゴンを抑えつつダメージを与える。

ザカライアも前に出るのはファングの傷をすぐに癒せるようにだ。

ザカライアもドラゴンに狙われることになるが、防御力はザカライアの方が上なので、むしろザカライアがターゲットされた方が安定するかもしれない。

リッケンバッカーは今回出来ることが無いので見学になった。

ケンジーが代わりに魔術師として二人をサポートする。



「俺を見て魔術師としての動き、やり方を学べ。 呪文のレパートリー次第になるが、自分ならどうするかと考える際の参考とするんだ」


「分かりました」



そのまま報酬の分配も今から決めてしまうことにした。



「報酬は俺とザカライア、ファングで山分けだ」


「待って下さい、先輩!」


「ライ、お前こそ待つのだ。 いいのだ、今回自分は何もできない、当然だと思う」


「…………」



ザカライアは反論しようとしたが、リッケンバッカーがそれを止めた。

ファングは無言だが不満そうな顔をしている。



「ただし、宝物の中に呪文スクロールがあったら、それは全てリッケンバッカーに与える」


「先輩! それはいくらなんでもダメです! 自分は何も役に立てないのですよ!?」


「本気でそう思うなら、今は黙ってレパートリーを増やせ。 今後パーティーに貢献しろ。 そうすれば俺の報酬も増える」


「……それは」


「使える魔術が増えなければ何時までたっても役立たずのままだぞ? それでいいのか、お前は」


「まさか! 本当は悔しくてしょうがないです!」


「なら受け取ることだ。 それがパーティー全体を見ても一番なんだからな」


「……あ、ありがとうございます、先輩……」



今にも決壊しそうな涙を湛えてリッケンバッカーがケンジーを見つめる。

ザカライアも感動して感極まっているようだ。

ファングも黙って何度も頷いている。



「ま、情報がガセなら、今決めたことは全部無駄になるんだけどな」



雰囲気に耐えきれず、つい、そんなことを口にしてしまう。



「ケンジー。 テレちゃったからって、そこで落とさなくていいんだよ~?」



すぐプラムに図星を刺されてしまった。



「やかましい!」


「「「ぶはっ! ははは、あははははは」」」



散々だった。



    ♢♦♢♦♢♦♢♦    ♢♦♢♦♢♦♢♦    ♢♦♢♦♢♦♢♦



そんな感動的?な、やり取りから5日後。

ケンジーたちは西の放牧地帯を抜けた先の村まで来ていた。

ここまで来ればドラゴンのいると言う山の麓まであと少しだ。


そう、あと少しだったのだ。

だと言うのに。



「人の物を盗んではいけない! さあ、返すんだ」


「盗んでねぇって言ってるだろうが。 おめぇ、耳聞こえてねぇのか?」


「なら君が抱えている子羊は何だ! ここまで堂々としていると、いっそ清々しいな!」



なぜだか知らない男と言い争っているバカ――ザカライア――がいた。



    ♢♦♢♦♢♦♢♦    ♢♦♢♦♢♦♢♦    ♢♦♢♦♢♦♢♦



村の傍まで来たところで、「泥棒~! 羊泥棒だ~!」と叫ぶ声が聞こえたのが、そもそもの始まりだった。


声のする方を見れば、子羊を抱えた男を自警団と思しき青年三人が追いかけていた。

ケンジーは関わる必要無しと、通り過ぎるつもりであった。

近づけば当然話が聞こえて来るのだが、男は子羊は自分のだと主張しているようだった。


ここでヒートアップしたのがザカライアだ。

盗みは戒律に背く行為。

見習いとは言え主神の使徒として黙っていられなかったのだろう。

その勢いに自警団の青年たちが外へ追いやられ、ザカライアと男の口論へと舞台を移したのだった。



「やれやれ、油断したな。 今まで静かだったから、もっと融通の利くやつだと勘違いしてしまったか」


「こうなったら止まらないぞ、こいつは」


「そうだね……」



ケンジーがつい感想を漏らすと、うんざりした口調でファングとリッケンバッカーが追従してきた。



「最近は鳴りを潜めていたから忘れがちだったが、こいつはこう言うやつだ」


「ああ、うん、もっと早く教えて欲しかったかな……」



そんな会話を交わすファングとケンジーを横目に、プラムが子羊の周りを飛んでいた。



    ♢♦♢♦♢♦♢♦    ♢♦♢♦♢♦♢♦    ♢♦♢♦♢♦♢♦



そんな仲間たちを措いて言い争う二人は更に先へと話の段階を進めていた。



「だいたいよぉ、この羊がそいつのだって誰が決めたんだ?」


「親羊が生んだ子なら、子羊は親の物でしょう。 ならば親羊の主人がその子羊の主人です!」


「だからよぉ、その親羊?がソイツの羊ってのは誰が決めたんだ?」


「いや、誰って……そのまた親がいたり、お金を払って購入したり……」


「金を払って買ったとしてだ、その羊は自分で納得してソイツのモノになったのか?」


「納得って、羊が……ですか? それは分かりませんが……」


「納得してないなら、その羊はソイツのモンじゃねぇな。 金のやり取りで納得するのは人間だけで、羊にとってはどうでもいいことだろうしよぉ」



なんだか様子が怪しくなってきていた。



「したがって、この子羊もソイツのモンじゃねぇ」


「待ちなさい! そんな言い逃れは出来ませんよ! そんないい加減なことを言っても騙されません。 神は全てを見ておいでです、いずれ天罰が下るでしょう。 悔い改めなさい!」



さすがに、あんな暴論ではザカライアを言い包めることはできなかったようだ。

それはそうだろう。

しかし、男の話はまだ終わってはいなかった。



「ほう、神様ねぇ。 俺の知ってる神様は“自由にしろ”“生きたいように生きろ”って言ってたぜ?」


「それは、悪い神です! 私の信ずる神とは違います! 耳を傾けてはいけません!」



――また流れが怪しくなってきた。 そう思いながらも成り行きを見守る。



「するってぇとなんだ? 神様によって言ってることが違うのか?」


「そうです! 我が神こそが偉大なのです! 信ずるべきは主神のお言葉です!」



ザカライアが誇るように胸を張り宣言する。

勝負は決まったかに見えた。



「あー、つまり神様ですら一つの意見には纏まってない、ってことで良いんだな?」



男がぼそっと決定打を放った。



「なっ!?」


「なら俺たちのような、ちっぽけな人間ごときが諍い合うのも仕方のないことだよなあ」


「ぐぐっ」


「なぁ、あんた。 そこんとこ、どうなんだ? ん?」


「むぐぐっ」


「ほらほら、どうしたぁ?」



形勢はここに逆転した。

もはやザカライアは言い返すことが出来ない。



(たいしたもんだなー。 この世界で、ここまで達観できるやつがいるなんて思わなかった)



ケンジーの素直な意見だが、そこに更に燃料を投下したバカがいた。



「うーん、確かにその通りだな」



リッケンバッカーがうっかりそう呟いたのをザカライアは聞き逃さなかった。



「リッケ! お前は! いったいどっちの味方なんだ!!」



ザカライアの矛先はリッケンバッカーに向いた。



「いや……しかし、言われてみればこの人の言ってることは筋が通っているのだ」


「ぐはぁっ!」



血でも吐くのでは、と思うほどの呻き声を発してザカライアは崩れ落ちた。



「ぐぬぅ……負けぬ、負けぬぞぅ……」



血の涙でも流しそうな表情だった。



    ♢♦♢♦♢♦♢♦    ♢♦♢♦♢♦♢♦    ♢♦♢♦♢♦♢♦



「放っておこうと思ってたが、どうやら埒が明きそうにないんで、口挟むぞ」


「なんだよ、今度はあんちゃんか?」



男がうんざりしたような顔で言う。



「いや、俺が用のあるのはそっちの兄ちゃんたちだ」


「え!? 俺たちかい?」



まさか自分たちに振られるとは思っていなかったのか、にやにやしながら成り行きを見守ってた青年が驚いていた。



「この子羊は、盗まれたんじゃないだろう?」


「へっ!?」


「プラムがな、この子羊は自分がこっちのおっさんの家の子だって言ってるって言うんだよ」


「えへへ~、あたしはごまかせないよ~」


「プラムは動物とも意思疎通ができる。 そして妖精は嘘を吐かない」


「間違いないよ~、この子はこっちの男の人の家の子で~す!」



プラムが飛び回りながら、そう宣言する。



「よっ、妖精!? なんでこんなところに……」


「最初は誤解が発端かと思ったが、どうやらそうでもなさそうだ。 このまま続けると困ることになるのは、あんたらじゃないか? 今なら見逃してやるけど、どうする?」


「くっ」


しばらく何か言いたそうにしていたが、結局、青年たちは悔しそうにしながらも大人しく去って行った。



    ♢♦♢♦♢♦♢♦    ♢♦♢♦♢♦♢♦    ♢♦♢♦♢♦♢♦



「言い掛かりにしても酷いもんだけど、いつもああなのか?」



ケンジーが男に問い掛ける。



「日常茶飯事だ。 俺たちは疎まれているからよぉ」


「疎まれてる?」



男が“しまった”と言う顔をして黙り込んだ。



「あ、あの……」



そこに声を掛けたのはザカライアだ。



「先入観で勝手に思い込み、酷いことを言ってしまいました。 申し訳ありませんでした」



そう言って、男に対して深々と頭を下げた。



「ふーん、素直に謝れるんだな」


「己の間違いを認められなければ、ヴァステトール様の使徒にはなれません」


「それは心底どうでもいいがな、謝罪は受け入れよう」


「……ありがとうございます」



少々複雑そうな表情だが、ザカライアは謝罪を受けて貰えてほっとしたようだ。



「今日はこの村で休んでドラゴンの巣まで一気に行こうと思ってたんだが、これじゃ予定を変えた方が良さそうだな」



つい、そう口に出したケンジーだが、その言葉に男が反応した。



「ドラゴンの巣だと? なら、あんたたちはギルドが寄越した冒険者か」





~ファングの傷をすぐに癒せるように~

ザカライアは迷宮探索で成長したので、初歩の魔法なら使えるようになっています。



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