05-02 後輩たち
「初めまして、先輩。 僕は主神ヴァステトールの使徒見習い、ザカライアです」
真っ白なローブの下に鎖帷子を着こんだ、鍛えているであろう体格の少年が自己紹介した。
「初めまして、自分はライ――ザカライアと同郷で魔術師のリッケンバッカーです」
続けてベージュ色のローブに杖を持った、こちらは一目で鍛えていないと分かる細身の少年だ。
「俺はコナリー。 だが氏族ではファングと呼ばれている、だからそう呼んで欲しい。 戦士だ」
最後に、目元から下の顔一面に牙の入れ墨――獣の口だろうか――をした青年が自己紹介を終えた。
どこかの少数氏族には顔に入れ墨をして、その入れ墨で互いを呼び合う習慣があると言う知識だけはケンジーにも有った。
きっと彼はそこの氏族出身なのだろう。
「「「よろしくお願いします」」」
「ああ、こちらこそよろしく。 俺はケンジー、戦士と魔術師を兼任する。 こっちは相棒のプラムだ」
「よろしくね~」
ケンジーがギルドマスターから受けた指名依頼。
それは、この三人を一人前まで育てろと言うことだった。
実際に会ってみて思う。
パッと見、職はバランスが取れているように見える。
だが、実態は違うだろう。
試しに各々何が出来るか問うてみたところ。
「僕は神官戦士ですが、まだ見習いなので神の奇跡は使えません」
「自分も独り立ちしたばかりで、発火の魔術しか……」
「小剣の二刀流だ、盾は使えない」
予想した通りの答えが返ってきた。
やはり尖った連中――良く言えば大器晩成型――の集まりだった、と納得した。
もっとも、装備を見れば分かることだったが。
とは言え――
「ファングが前に出て、僕がリッケを守りながら補助的に戦います」
ザカライアの重装備と言って差し支えない防具を見て予想はしていたが、やはり自分たちの戦い方は出来上がっているようだった。
「ああ、悪くない。 後は使える魔術のレパートリーを増やすべく迷宮に挑む、ってところだな?」
「はい、そうです」
「なら、もう一つ。 君たちに決定的に欠けている能力を持つ人物を勧誘するべきだろう」
そう、彼らはまず呪文のスクロールを手に入れなければならない。
ケンジーが最初に躓いたことだ。
他人事とは思えなかった。
そうなると、まずは迷宮に――――当然の帰結だ。
だが、それだと彼らには決定的に欠けている技能があることになる。
「勧誘ですか? 誰でしょうか」
「斥候だよ」
迷宮で絶対に必要になる職。
それが斥候だ。
斥候の能力次第で迷宮内での危険度は大きく変動する。
斥候は、いて当然。
いないなど自殺行為でしかない。
「と言われても、全く当てがないのですが」
「今すぐとは言わない。 そのために俺がいるんだしな」
「先輩が、ですか?」
「ああ、俺はずっとソロと言うか、プラムとのペアだったからな。 二人揃っていれば斥候代わりもできる。 俺がいるうちに見つければいいだろう」
「見つかるでしょうか……自分で言うのもなんですが、僕たちは個性的過ぎるきらいがあるので……」
(自覚はあるんだな……)
「合う合わないも含めて考えなければいけないからな。 合わない奴と無理に組んだところでマイナスにしかならない」
「……分かりました。 それも考えながらやって行きたいと思います」
「そうしてくれ」
そんな先輩探索者としてアドバイスをしながら、ケンジーはギディオンとの会話を思い出していた。
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渋い顔でギディオンが言う。
「問題の一つがな、その神官が主神ヴァステトールの使徒見習いってことなんだ」
「主神の神官だと何か問題があるか?」
「戒律に厳しい宗派でな、はっきり言えば融通が利かない。 人間関係で問題を起こす可能性が大だ」
「……うわぁ」
思いっきり面倒事だった。
予想通りとは言え、人間関係のごたごたはヴェルニース家ですでにお腹一杯だ。
勘弁して欲しいところだった。
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(割と素直に助言も聞くし、思ってたほど問題にはならないで済みそうだな)
気構えていた反動か、初対面の印象が良かったためにケンジーはこの問題を大きく捉えることなく過ぎてしまった。
「では、まず迷宮に慣れるために近くの浅瀬にしばらく通おうと思う」
「「はい!」」
「ここの近くと言うと、討滅済みの迷宮ですよね……」
元気に返事をする二人と対照的に、がっかりしたような声音でリッケンバッカーが反応する。
ケンジーとしても、それは予想出来ていたので理由を言う。
「慣れるまでと言ったろう。 当面の目的が呪文スクロールである以上、本番は未踏破の迷宮だ。 だが、まずは迷宮での戦い方の基本を身に付けるんだ。 それが出来ないうちに急いで先を目指しても、目的を果たせず死ぬだけだぞ」
「わ、分かりました、先輩」
「お前も呪文を使えないなら、使えないなりに自分の役割を覚えるんだ。 呪文が使えないから何もしなくていいってことは無いからな」
「は、はい。 頑張ります!」
多少突き放すような言い方だったが、リッケンバッカーはむしろ嬉しそうに頷いていた。
やはりパーティーに貢献できないというのは彼の精神に負担を掛けていたのだろう。
人柄としては文句なしと言っていい。
(なかなか良いパーティーじゃないか。 成長するのが楽しみだな)
気が付けば、この後輩たちを育成するのが楽しみになっていたケンジーであった。
(一通り基本を覚え込ませたら、ギディオンに郊外の若い迷宮討滅でも回して貰うか)
少々肩入れし過ぎな気もするくらいには、入れ込んでいるようだった。
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各々準備をして迷宮前で待ち合わせる。
予定の時間になるとすぐに全員が揃った。
改めて彼らの装備を見る。
ザカライアは片手棍に盾、鎖帷子の上からローブと鉄籠手に皮の脛当てに鉄靴と防具は万全と言えた。
リッケンバッカーは両手杖にローブと魔導書を入れていると思われる背嚢が目を引いた。
もっとも今回はケンジーも魔導書持参だ。
人の目、それも同類が見ていることを忘れてはいない。
ファングは小剣二本に皮の防具で纏めている。
スピード重視なのだろう。
自分の戦い方をしっかり理解していると言えた。
「まずは俺が先行し、敵の位置や数を把握する。 その情報を元にお前たちが自分で戦法を決めて戦うんだ。 途中の罠は俺が解除するが、どこにどんな罠が設置されていたか、リッケンバッカー、お前が覚えろ。 そして今後、設置場所を予測するんだ。 いずれ斥候が加わったとしてもだ、いいな」
「分かりました! ……あの、理由を聞いてもいいでしょうか?」
「迷宮で一番気を付けなければいけないのが罠だ。 それまでどれだけ上手く行っていても、罠に掛かれば一発で帳消しどころかマイナスまで落ちる。 最悪誰か、もしくは全員が死ぬ。 だから斥候だけに頼らず、常に複数人で注意をしておけ。 それが迷宮で生き残る最低限の心構えと覚えておくんだ」
そのうち罠発見の魔術を覚えたら不要になるが、それで油断すれば一発で全滅することも有り得るため、癖を付けさせることにするケンジー。
「よく分かりました!」
そうして、今後長く付き合う事になる彼らとの初めての迷宮探索が始まったのだった。




