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05-01 指名依頼

ヴェルニース家の使用人に案内されて屋敷へと入るケンジー。



「ケンジーさま! ようこそおいで下さいました!」


「本日はお招きにあずかりまして……」



ケンジーは来訪の挨拶もそこそこのうちにリリアーナに手を引かれて居間へと入った。

先日のごたごたで? 個人的にも気に入られてしまったようだ。



    ♢♦♢♦♢♦♢♦    ♢♦♢♦♢♦♢♦    ♢♦♢♦♢♦♢♦



ケンジーの手により世界を改竄しても、ドレイパー家とヴェルニース家の付き合いは変わらなかった。

むしろ様々な案件が片付いたため、より親密になったと言える。

リリアーナとの縁談も変わらず婚約者のままだ。


完全に無かったことにしても良かったのだが、リリアーナには気になる点もあったので、多少有耶無耶になるくらいでいいかと思ってしまったのだ。

完全に縁を切ってしまえば近づくのが困難になる。

そんな打算が無かったと言えば嘘になる。


結果から言えば消そうとしなくて正解だった。

なにせリリアーナ本人に改竄前の記憶が残っているのだから。


事ここに至ってケンジーは覚悟を決めた。

婚約の話ではない。

自分を取り巻く事情だ。

リリアーナに明かすことを決めた。

今日ヴェルニース家を訪ねたのは、そんな理由があった。


ケンジーはリリアーナに訥々と語った。

自分とプラムが世界の意志を受けて活動していること。

その問題にヴェルニース家が関わっていたらしいこと。

今後、世界中を回らなければならないこと。

その上で理解者になって欲しいと告げたのだ。


リリアーナは納得してくれた。

その上で言った。



「やはりケンジーさまは英雄だったのですね! 私にもケンジーさまのお力になれることがあるのでしょうか!?」



心持ち誤解もあるようだが、快く協力を申し出てくれたのだった。


――――と思っていたのだが、

どうやら双方の思いに齟齬があったようなのだ。

理解者として協力を乞うたケンジーに対し、リリアーナは違う意味の言葉を続けた。



「夫を支えるのは妻としての務めです! 何でも仰って下さい!」



代行者の話ばかりで、婚約云々に関しては全く口に出していなかったことにようやく気付いたケンジーであった。

きらきらした眼で力強く言葉を紡ぐリリアーナに返す言葉が見つからない。

もはや手遅れである。



(あ、あれ? なんか思ってたのと違う……)



頭の上ではプラムが溜息を吐いていた。



とりあえず、身近なところに協力者がいるのはありがたい。

そう思うことにした。



    ♢♦♢♦♢♦♢♦    ♢♦♢♦♢♦♢♦    ♢♦♢♦♢♦♢♦



翌日、密度の濃いヴェルニース家との問題に一段落したケンジーは、日常に戻るべくギルドに顔を出した。


すると受付嬢からギルドマスターより話がある旨を受けたのでギディオンの待つ部屋へと向かった。



「おう、来たな。 待ってたぞ」



すっかり砕けた口調に落ち着いたおっさんがそこにいた。

初めて会った時の緊張感を伴う威厳はどこに行ってしまったのだろうか。



「話があると聞いたので」



ついそっけなく返してしまうケンジー。

もっとも、そういう反応を返すあたり、ケンジーもなんだかんだ言ってギディオンに気を許しているのだろう。



「早速だが、俺からお前に指名依頼だ」


「お断りします」


「おおぃ! まだ何も言ってねぇだろうが!」


「面倒事なのが目に見えるので」


「ぐ……いいから、まぁ聞け」


「……ち」


「このやろう…… うほん! 聞けと言っておいてなんだが、お前は神殿……宗教、宗派についてどこまで知っている?」


「宗派……派閥ですか? えーと……」



この世界に神は多く存在する。

それぞれが自らの主義を主張し、多くの信者を持っているが、宗派となると派閥は大きく分けて三つになる。

一つは、厳しい戒律の元、正しい行いを旨とする一派。

一つは、心の赴くままに行動することが正しいとする一派。

一つは、そのどちらにも当て嵌まらない一派。

ここまでが一般的な認識である。


だが、ケンジーは代行者である。

神とは世界を構成する因子の一つでしかなく、世界の意志そのものに仕えているとも言えるケンジーは、神より上の存在と言えなくもない。

そして世界の理を識るケンジーは、その宗派の”派閥”と言う考え方が間違っていることも知っていた。


神々は自分が超越者であることを知っている。

故に主義主張を曲げることをしない。妥協しない。

多少似たところがあるからと言って一つに纏まるなんてことはないのだ。

なら、なぜ派閥が存在するのか?

それはあくまで人間側の都合だ。

宗教に限らず、人数が多い方が事を進める際に有利であり、弾圧されにくいと言うメリットもある。

そうやって”人間が”纏まった結果が派閥なのだ。


もっとも、ここで問われているのは一般的な事だろうと、当たり障りのない範囲で告げるケンジー。



「――――その通りだ。 では次だ。 僧侶と神官の違いについてはどうだ? 分かるか?」


「今度は治癒師(・・・)ですか。 ――えーと」



僧侶と神官。

一般的には双方を纏めて治癒師と呼ばれる。

どちらも傷を癒すことを得意とする者たちであるが、そこには明確な違いがある。

それは神に仕えているかどうかである。


僧侶は神殿に仕えることは無い、自らの信仰に身を置き各々が日々修行するフリーランスだ。

信仰する対象も特定の山であったり滝であったり、果ては己の信念であったり様々だ。

自然崇拝のドルイドなどもここに含まれる。

そして、自らの技術、“魔術”によって人々の傷や病を癒す。


対して神官は神殿、つまり神に仕える使徒である。

彼らは神に代わって直接奇跡を起こし、人々の傷や病を癒す。

そう、神官は神の奇跡、“魔法”を使うのである。


ケンジーは、今度もまた無難な答えを返した。



「――で、結局何が言いたいんですか?」


「実は先日、うちの支部に神官が冒険者として登録された」


「――は? ……えええ!? 嘘でしょう!?」



ケンジーが驚くのも無理はない。

普通、神官は冒険者にはならない。なる必要が無い。

彼らの働く場は神殿であり、迷宮やフィールドでは無いのだ。

だからこそ、冒険者には僧侶がなる。

そう言った神官のいない場所での需要に応えることが修行になると考えているからだ。



「別に誰が冒険者になろうが構わないんだが、もしそいつに何かあれば神殿から問題視されかねん」


「まさか、俺に依頼って――――」


「ああ、違うぞ? そいつのパーティーメンバーは他にいる。 戦士と魔術師が一緒だ」


「あ、そうなんですか。 じゃあ、俺に何をさせたいんです?」


「監督だ。 教育と言ってもいい」


「さっそく後輩を育てろと……」


「ずっと付き添えとは言わないさ。 凡ミスで死なないようにしてくれればいい」


「はぁ……」



引き受けざるを得ないのは分かっていた。

契約上、この支部に貢献しなければ外へは出られないのだから。

それでも迷宮で死にそうな目に遭っている方が気楽で良かったと思わずにはいられないケンジーであった。





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