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04-06 変化

有り得るとは思っていた。


あの書が“代弁者”だと予想した時に。

代弁者の敵がいるのなら、代行者の敵もいるのではないかと。



「ま、まさかだよ~、代行者になれる素質を持っているのはケンジーだけのはずだもん!」


「でも、それしか考えられないだろう、この状況はな」


「はうぅ~」



――――“ぱちゅん!”



そんな間抜けな音を残してケンジーの張った対魔力障壁が消えた。

破られたのではない。

消えたのだ。



(チートだチートだと思ってはいたが、敵に回すとやっかいだな、この力は)


「お前もか! お前もだな! 死ね死ね死ねしねしね!!」



火球が雨霰と飛んでくる。



「“設置型積層障壁”」



ガーラルの接近を警戒して、敢えて積層障壁を充てて全ての火球を消滅させるケンジー。



――――“ぱちゅん!”



だが、またしても障壁は消滅した。

無効化ではない。

消えたのだ。



(このままじゃ埒が明かないな……だからと言って殺すわけにもいかないし、とんだハンデ戦だな、これは)



相手も同じことを思ったのか、問い掛けてきた。

冷静とは思えない口調だったが。



「何だお前は。 ……なんだオマエは。 オマエはなんだ? ナンダその力は!」


「教える必要を感じないな」


「このままでは、コノママデハ、勝てナイ。……負けル。 ……負ケる? もっと強くならなケレバ。 ソウダ、こいつよりツヨク。 人間ヨリつよく!」


「――は?」



呪文のように口遊(くちずさ)みながらガーラルの動きが止まった。



「ケンジー! 何かする気だよ! 気を付けて~」


「分かっている」



細身だったガーラルの身体がさらに細くなっていく。

いや、萎んでいくと言う方が正しいか。

骨と皮だけになっていく。

もはや人間とは呼べない姿に変わり果てていく。



「いやああああぁぁぁ! ガーラル兄さまああぁぁ!」


「「ガーラル!」」



リリアーナが悲鳴を上げた。

男爵夫妻が叫ぶ。



「ひいいいぃぃぃ!」


「「ば、化け物!」」


「「「逃げないと!」」」



周囲の使用人からも悲鳴が上がり、騒ぎが更に広がってゆく。

だが、ケンジーも周囲に気を回す余裕がない。



「くそっ! やむを得ないか!」



ついに剣を抜いたケンジーが、ガーラルに切り掛かる。

ケンジーの剣は、狙い過たずガーラルの身体に吸い込まれていった。


だが、まるで手応えが無い。

その手応えの無さを不気味に感じ、ケンジーが振り返る。

そこには――――ガーラルだったモノが立っていた。


ガーラルは、いやガーラルだったモノは、今や眼窩は窪み、頬骨は突き出ている。

油で撫でつけられていた髪は逆立ち、耳まで裂けた口は、三日月を形作っていた。

あまりの変貌に呆けていたケンジーが我に返る。



「何かやばいっ!」



再び剣で切り付けるが、まるで効いている感じがしない。

そこでプラムが叫ぶ。



「ケンジー! ケンジーの予想、当たってるよ! これは“乱れ”の原因!」


「やっぱりか」


「うん! 今のここでの変化が“記録”されてないの! 感知できないの~」


「この変貌も“書き換え”――――代行者の力か」


「強敵だよ! 出し惜しみしちゃダメ~!」


「分かった。 プラム、頼む!」


「うん! 武器位階強化――第五階梯!」



ケンジーの剣が輝きだす。

時間限定とは言え、神にすらダメージを与える剣となった今なら、変貌したガーラルにもダメージが通るはずだ。


そして、ガーラルも変身が完全に終わったようだった。

いや、ソレにはもうガーラルの面影は無かった。

もはや人間では無かった。

化け物――――モンスターと言う言葉がしっくりくる姿だった。



無言のまま双方が仕切り直し、戦いは再開された。



    ♢♦♢♦♢♦♢♦    ♢♦♢♦♢♦♢♦    ♢♦♢♦♢♦♢♦



戦いながら、少しずつ人のいない場所へと誘導するケンジー。

しかし外までは遠い。

やむを得ず壁を破壊し、そこから外へと出る。

そこでケンジーは勝負を掛けた。



「“対人縛り(ホールドパーソン)”」



ガーラルに金縛りの魔術を掛ける。

瞬間、ガーラルの身体がピクリと動いたかと思うと、そのまま停止する。

一気に接近するケンジー。

呆気なく片付くかとの思いが過る―――だが、それも束の間。



――――”ぱちゅん!”



ガーラルは、すぐに動き始める。


だが接近はできた。

そのまま剣で切り付ける。

剣を返し、再度切り付けようとするが、そこにガーラルの姿は無かった。

ケンジーの左手、剣の間合いの外に立っている。


見ればガーラルは傷を負っていた。

確かにダメージは入っていた。



――――”じゅううぅぅ”



しかし、身体の傷は再生を始めている。



(空間跳躍か? おまけに再生とは、やっかいな)



接近戦では埒が明かない、ならばと魔術戦を仕掛けることにする。



「“魔法の矢”」



数十という魔力で出来た矢がガーラルを襲う。

まともに喰らい、ハチの巣になるガーラル。



――――”じゅううぅぅ”



だが、その傷も見る見るうちに治ってゆく。


ケンジーが攻め倦ねているうちにガーラルが攻勢に転じた。

呪文詠唱無しで火球が飛んでくる。



「死ネしねシネしね」


「“移動型対魔力結界(アンチマジックシェル)”」



即座に対応し、結界を張る。

だが――――



――――“ぱちゅん!”



火球を防ぐ前に結界は消滅し、火球が直撃した。



「がぁっ!」


「ケンジー!」



プラムから悲鳴が上がる。

大丈夫だと安心させてやりたいが、ケンジーにも余裕がない。



(――押されている)



そう。

この戦い、ケンジーは押されていた。

代行者になって以来、初めてケンジーは苦戦していた。

しかも苦戦する理由が分からない。

これもまたケンジーには初めての事であった。


だから余計に焦りを覚えた。

同じ世界の理を書き換える能力を持っていながら押されているのだ。

それでも、戸惑いながらもケンジーは分析を続ける。


同じ代行者――本当に同じか?


素体となるケンジーとガーラルでは、明らかにケンジーが上回っている。

当然だろう。

素人のガーラルに対し、ケンジーは魔術師として修行を積み、

戦士として修行を積み、

冒険者として経験を積んだ。

負ける要素は無い。


ならば代行者としてはどうか――互角のはずだ。

なのになぜか押し負ける。



(いや、認めよう)



瞬く間ほど考え、ケンジーは現実から目を逸らすのをやめた。



(”書き換え”に集中を必要とする俺と、必要としないガーラル。 代行者としてガーラルの方が優秀なんだ。 だから俺が押し負ける)



ケンジーはガーラルを各上と認めた。



だが、それは間違いだ。

ケンジーは自分を過小評価している。

自分のことを前世の記憶があるだけの、ただの人間だと思っている。

だから間違いに気付かない。



    ♢♦♢♦♢♦♢♦    ♢♦♢♦♢♦♢♦    ♢♦♢♦♢♦♢♦



この戦い。

ガーラルは代行者の力を使っている。

それは間違いない。

杖――敢えて杖と言うが――の力は“願い”を叶えるだけのもの。

それを使用しているのは、あくまでガーラルだ。

故に”願い”を叶える際にはタイムラグが存在する。


ケンジーには、このタイムラグが無い。

それこそが代行者の素質だからだ。

だから本来この二人が戦えば、ケンジーがガーラルを圧倒できるはずだった。

ケンジーが代行者として本来のスペックを発揮していたなら、ただ願うだけで”書き換え”できるからだ。

なのにケンジーは、代行者の力を集中しなければ使えないと思い込んでいる。

だからガーラル相手に押し負ける。


またケンジーにとって、最大のチートである本気の“お願い”を除外した場合、次に来るのは“呪文の刷り込み”だ。

本人は魔導書要らずで便利くらいに考えているが、そうではない。

ケンジーが時折行う魔術の改変(アレンジ)

これが異常だった。


なぜなら、この世界の魔術師は、例外なくアレンジなど出来ないからだ。


魔術師ならば魔法語の読み書きはできる。

故に呪文の意味は把握している。

だがそこまでだ。


読めるから、その呪文の効果を知ることができる。

呪文を唱えて魔術を発動することができる。

言い換えれば、それは呪文を(なぞ)っているだけだ。


ケンジーは違う。

代行者として世界の理を識った。

そこに、刷り込みが加わり呪文の構成を理解した。

結果、呪文のアレンジが可能になった。


他者には不可能という意味では、確かにチートだ。

ケンジーの観察力や洞察力が下地となっていることも間違いない。

けれど実態は、ただの福次効果だ。


なのにケンジーは、無意識にこう考えた。

他人には出来ない魔術のアレンジは、代行者の力であると。

魔術だけに限定しているから集中が必要ないのだと。

更に、魔術チート(アレンジ)のおかげで成り上がれてしまったことで、その考えが後押しされた。



本人の強い思い込みにより、本気の”書き換え”は冷静に考えられる時しか使えなくなったのだ。



    ♢♦♢♦♢♦♢♦    ♢♦♢♦♢♦♢♦    ♢♦♢♦♢♦♢♦



プラムは気付いていた。

ケンジーは代行者の能力を使うことを極力避ける傾向にある。

その最たる例が“二礼二拍一礼”だ。

儀礼の形を採ることで、感情的な咄嗟の使用や乱用を防いでいる。

つまり自分で自分に足枷を付けた。

それは、ケンジーが自分に作った心の壁だった。


プラムはケンジーの心の壁に気付いていながら放置した。

なぜなら、それがケンジーの良さであると思ったし、代行者として好ましい部分でもあったからだ。


さらに言えば、ケンジーは普段思慮深い割に、時折スイッチが入ったかのように短慮になることがある。

プラムはそれをケンジーのカッコイイ部分だと思っているが、代行者としては見過ごせない部分でもある。

だから、心の壁は有った方がいい。


しかしその結果、同じ代行者相手には遅れを取ってしまう。

今のように。





ならばどうするか。








――――プラムはすでに答えを出していた。





超説明回。

説明って難しい。


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