01-03 落胆
両親は貴族だった。
ただし、最下級の騎士爵だ。
一代限りの名誉爵という話だった。
(あれだな、イギリスだっけ?で言う“サー”の称号。あんな感じなんだろう)
(サー・ランスロット、サー・ガウェインとか“サー”は騎士を指すもんな)
どんな名誉なことをしたのかと聞けば。
この地の迷宮を討滅し、領地に貢献したのだという。
そして、永代の騎士爵の三女だった母を娶った。
その二人の間に産まれたのがケンジーという訳だ。
(おっ、やっぱあるのか迷宮)
わくわくしてきた彼は、冒険者時代の父の話を聞かせて欲しいと強請った。
そんな息子に気を良くした父親はドヤ顔で話しだす。
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父のパーティは、戦士の父と斥候、魔術師、治癒術師の4人で構成された非常にバランスのいいものだった。
そこでいきなりケンジーの興奮は最高潮に達した。
(やっぱ、あるのか!魔術!)
(異世界転移は、こうでなくっちゃな!)
ドヤ顔の父の話はどんどん進むが、ケンジーの耳には全く入っていない。
とりあえず最後まで気分よく話させてやろうと、途中で口を挟まないのがせめてもの思いやりだ。
そこそこ長い話が終わった時、徐にケンジーは言った。
「僕も魔術が使いたい!」
あっけにとられた父親は、正気に返るとまず戦士の良さを息子に伝えることから始めたという。
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ことある毎に戦士の良さを説く父親に負けることなく、ケンジーは魔術師を目指した。
頑として首を縦に振らないケンジーに、根負けした父はついに折れた。
絶対に投げ出さないこと、師匠の教えは必ず守ること、などなど条件を出しはしたが、冒険者時代の仲間であった魔術師エイブラムを息子に紹介したのだ。
同じ領地内に私塾を開くエイブラムは、優れた指導者だった。
そんなエイブラムをして、優秀と言わせるほどにケンジーは頑張った。
だがそれでも、駆け出しとはいえ一人前として送り出して貰えるまでには5年を要した。
普通は、才能のある者でも7~8年。10年かかるのが当たり前の世界だ。
親しい友人の息子だからと、特別目をかけていたことを差し引いても、ケンジーが優秀だったことは誰もが認めることだろう。
だが実家に戻ったケンジーは落胆していた。