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04-01 男爵家にて

そこは、全く日の差さない部屋。

地下室だろうか。

そこに僅かな明かりが灯る。燭台だ。


燭台を持った男――20歳前後の青年がその部屋へとやってきた。

不確かな足場で慎重に足を進めている。



「たしか、この辺りに……」



倉庫……なのだろうか。

青年は探し物をしに、この地下室へと降りてきたようだ。


乱雑に置かれた物を掻き分けるようにしながら奥へと進む。

掻き分ける度に埃が舞い、青年へと降りかかる。

すでに頭と肩は埃で真っ白だ。



「――――あった!」



目的の物を見つけたようだ。声に歓びが滲む。

そして、そこまでして見つけた物――――



それは一つの細長いケースであった。



    ♢♦♢♦♢♦♢♦    ♢♦♢♦♢♦♢♦    ♢♦♢♦♢♦♢♦



(――――これって、お見合いだよな……)



ケンジーはこの日、とある男爵家――ヴェルニース家と言うらしい――へ招かれていた。

そもそも招かれたのは両親であり、父親から「お前も一緒に来い」と言われたので着いてきたのだ。



(それが、どうしてこうなった……)



着いて早々男爵夫妻と挨拶した。

そこまではいい。

次に紹介されたのが男爵令嬢で。

今は、お互いの家族がテーブルを挟んで会話に勤しんでいた。



(――――嵌められた?)



とは思うものの、不機嫌に黙っている訳にもいかず、男爵に望まれるままに迷宮探索の話をした。

最初の迷宮では、まだ魔術が使えず最深部で死にかけたこと。

最近ではゴブリン王の変異種に襲われて、危うく死にそうな目にあったこと。

また、ギルドから育ち過ぎた迷宮の討滅を依頼されて、迷宮では常に死の危険に晒されたこと。



「お前は、なぜ死にそうな目にあったことばかり話すのだ……」



父クレイグが呆れていたが、母パーシアは涙目になって聞いており、ヴェルニース男爵夫妻は真に迫る冒険譚に目を輝かせて身を乗り出しており、令嬢――リリアーナは心配そうな表情でハンカチを握り締めていた。



「冒険譚を望まれておられるようでしたので、多少は盛り上がる話をと。簡単に済んだ依頼では自慢話になってしまいますし」


「いやいや、淡々と語っていたが、実際に経験したことと言うのは、こう、心が躍るな」


「楽しんで頂けたのなら語った甲斐があります。家では妹が心配するので、あまり話す機会がないもので」



そこで、それまで積極的に会話に加わらなかったリリアーナが口を挟んだ。



「アンジーは、ケンジーさまのお話を聞いていないのですか?」


「――――あれ? アンジー……妹をご存じなのですか?」


「はい! 幼い頃からの――私が長く静養していたので、最近は会えませんでしたが、大切なお友達です!」


「そうだったんですか、これからも妹をよろしくお願いします」


「はい! もちろんです!」


(儚げな見た目の印象と違って元気だな)


「……あの、ケンジーさま」


「はい、なんでしょう?」


「私相手に敬語をお使いにならないで下さいませ。――――それと」


「それは、お気遣いありがとうございます。――それと?」


「その子……妖精さんをご紹介して頂いてもよろしいですか?」


「――っ!? …………え?」



余りにも予想外だったため、素で驚いてしまった。

そう、プラムは“移行”していたのだ。

ケンジーの傍にいたいが、男爵家に行くのに堂々と着いて行くことも躊躇われた。

そのため“移行”して、こっそりと内緒で傍にいたのだ。

誰にも見えないはずだった。

なのに、リリアーナは見えていると言ったのだ。



(ここでとぼけるのは悪手だろうな……多少ごまかすに留めるか)



少しきょろきょろしながら、プラムに呼び掛ける。



「――――プラム。いるのか?」



意を汲んだプラムがしょんぼり――した振り――しながら“移行”を解いて現れる。



「……ごめんなさ~い。ケンジーの傍にいたかったの~」



驚いたのは男爵夫妻だ。



「まぁっ」


「おおっ、これはまた」


「「なんと可愛らしい!」」



夫妻の声がハモった。

なんとなく仲良くなれそうな気がしたケンジーであった。



    ♢♦♢♦♢♦♢♦    ♢♦♢♦♢♦♢♦    ♢♦♢♦♢♦♢♦



プラムは快く迎い入れられた。

やはり妖精に懐かれる人間と言うのは珍しいと、ケンジーの評価も鰻昇りだ。

リリアーナも初めて見る妖精に興奮しているのか、先程までとは違って饒舌だった。


意外なことに、プラムはケンジーと違い社交的だった。

髪飾りを見せて「ケンジーがプレゼントしてくれたの~」とか、言わなくていいことまで喋っていたが。


ちょっと胃が痛くなる気もするが、ここで止めるのも野暮だろうと、諦めて静観していたケンジーだった。



    ♢♦♢♦♢♦♢♦    ♢♦♢♦♢♦♢♦    ♢♦♢♦♢♦♢♦



その後、ドレイパー家が辞して帰宅の途に就いた後、ヴェルニース家では話し合いが行われようとしていた。

――――そこへ



「ただいま戻りました」


「戻ったか、ガーラル」


「ガーラル兄さま」



――――ヴェルニース家の長男が帰宅した。

どうしても外せない用事が出来たため、出かけていたのだ。



「お見合いはどうだった? リリアーナ」



揶揄(からか)うような口調でそう尋ねるガーラル。



「もうっ! 兄さま!」


「ちょうど、その話をするところだった。お前も聞け、ガーラル」


「――――分かりました」



そう言って席に座る。

それを待って、父ガルガンド――ヴェルニース男爵がリリアーナに問いかける。



「それで、どうだ? リリィ」


「――――はい。 とても穏やかで誠実そうな方でした。 冒険者とは思えないほどに」


「人前から姿を消したはずの妖精が態々出てきてまで懐くほどだ。 誠実なのは、間違いないだろう」


「そして噂に聞く功績の数々。 僅か16歳にして、あの“オールラウンダー”だ。 それも Bランクの探索者。 彼はここ十年現れなかった“超一流”ですよ」


「私は英雄譚は好きですけれど、そういう詳しいお話はよくわかりません。 けれど、アンジーもプラムちゃんも、心の底からケンジーさまを慕っています。 それで充分です」


「では、いいのだな?」


「はい」


「うむ。 クレイグもお前なら、と言ってくれている。 このまま縁談を進めよう」





ケンジーの知らぬところで包囲網が敷かれようとしていた。



と言うか、包囲網は既に完成していた。






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