03-10 オールラウンダー
例の書を手にした魔術師――――ハロルドは吠えていた。
「はははははははは、言葉が無いかね? 驚いたかね? 私一人で守護者を倒したのが不思議かね? “覇者”などと大それた二つ名を持っていても、所詮子供だな」
「魔術を極めた魔術師には造作もないことなのだよ!」
「 君も多少は使うようだが、所詮は戦士。知能の足りない脳筋だ。 ――――そう、あのウィンのように!」
「――――そうだ。ウィンは、あいつは所詮、脳筋だ」
「オールラウンダーなどと呼ばれてはいても、何も分かっちゃいない!」
「魔術こそ至高! 魔術こそがこの世の理! 魔術師こそが世界を統べるべきなのだ!」
止まる気配が無かった。
もー、ワンマンショーだった。
「……ケンジー。 あれ、止めない~?」
「………………」
プラムが声を掛けるがケンジーは応えない。
ケンジーは自分の思考に埋没していた。
ケンジーは考えていた。
(あの書は、どこから来た? ……深奥への扉は閉まっている。なら、あれはこの迷宮の書ではないはずだ)
そう、この迷宮の書であるはずがない。
この迷宮の書は ――あるのならば―― この先の部屋で眠っているはずなのだ。
ならば、あの書は別の迷宮から生まれたモノであるはずだ。
ヤツ ――ハロルド―― は、どこか他の迷宮であの書を手に入れていたのだろう。
そしてまだ、その書を手にしている。
戻れる余地はあるのか――――――――俺のように。
そこまで考えて、考えるのをやめた。
なぜなら、ヤツはもう戻れないところまで来ていることを思い出したからだ。
ボルドウィンと言ったか、あのオールラウンダーと仲間たちの倒れた姿が思い浮かんだ。
ヤツは戻れない、戻してはならない。
あの書に運命を操られ、しかし抵抗することをせず、挙句仲間をその手に掛けたのだから。
ケンジーの心が冷めていった。
ケンジーは、もうアレを殺すことに決めた。
「プラム、頼む」
「はいは~い。……武器位階強化――第五階梯!」
「―――― おや、脳筋が何かするつもりか…ね…?」
魔術師がケンジーとプラムの動きに気付くが、そこに異変を感じた。
その視線の先でケンジーが魔術を行使する。
「“移動型積層結界”」
積層結界を自らの周囲に展開し、接近を試みる。
「な、なんだと!それは高位の――――」
有無を言わせず、間合いを詰めるケンジー。
確かに移動型積層結界は高位の呪文だが、高位の魔術師には無効化される可能性がある。
ましてや、ヤツはあの書を手にしているのだ。
多少の時間を掛ければ確実に無効化されてしまうだろう。
だが、言い換えれば
――――――多少の時間ならば確実に稼げるのだ。
当然の結果と言うべきか、ハロルドは積層結界の無効化と引き換えにケンジーの接近を許してしまっていた。
そこは既に戦士の間合い。
戦士の独壇場だ。
駆け込んだ勢いのまま、ハロルドの腕を斬り落とし、
返す刀で書を切り捨て、
振り向き様にハロルドの喉に剣を突き入れる。
「があっ………」
ハロルドは喋ることもできず、喉からは“ヒューヒュー”と空気の抜ける音だけがしていた。
「……じゃあな、三流魔術師」
言いながら喉に刺した剣を捻る。
白目を剥き、首と腕から血を噴き出し倒れるハロルド。
最深部にいるのは、ケンジーとプラムだけとなった。
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オールラウンダー ――ボルドウィン―― たち三名はケンジーが魔術で燃やし、荼毘に付した。
仲間に裏切られ、殺されてそのまま迷宮に喰われるというのが、余りに気の毒と思ったからだ。
偽善だとは思うが“それで自分の気が済むのならやればいい”とはプラムの弁だ。
ハロルドの死体は、そのまま放置した。暫くしたら迷宮に喰われて消えていた。
その後でダンジョンコアを迷宮から切り離した。
ようやく、育ち過ぎた迷宮の討滅が終わったのだ。
そして予想通り、深奥には”この迷宮の”書があった。
「仮にもオールラウンダーのパーティーだ。他の迷宮を討滅した際に、そこで手に入れていたんだろう。そして、時間を掛けて破滅へと仕向けられた」
「……そうだね~。それで、この本だけど――――」
その場で書を切り裂きながら二人は会話する。
「……ああ。推測だがコイツらは、プラムと同じ代弁者だ。理や記録を“書き換え”るのではなく、”読んだ上で誘導”する。 自分たちの望むように、破滅へと」
「……なんかやだ、それ。 考えは、合ってると思うけど……」
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大量の宝物は、一旦宿へ転移して運び出す。
その後、素知らぬ顔で迷宮から出てギルドへと向かい報告した。
自分たちが最深部に入った際、オールラウンダーたちは守護者と相打ちになって死んでいたこと。
その場にいたのは三人だけで、あと一人は恐らく迷宮に吸収されたであろうこと。
ダンジョンコアと共に、証拠として三人のギルドカードを提出した。
冒険者ギルドからは検証と確認に10日ほど掛かることを告げられた。
実際には五日もあれば済むらしい ――死んだ迷宮からは三日程度でモンスターが消える―― が、今回関わったギルドマスターたちを呼び集めるのにそれくらい掛かるとのこと。
結果、ギルドからは異議が出ることもなく、事態は収拾した。
地元に戻り、ギディオンからは謝礼とともに冒険者と探索者のランクアップを告げられた。
「おめでとう。これで君は“オールラウンダー”だ。また、今後Sランカーとしても活躍してもらうからね。仲良くしよう、よろしく頼むよ」
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「やれやれ、今回は長かったなー。さすがに疲れたぜ」
「そうだね~、しばらくゆっくりしようよ~」
「そうするかー」
そんなことを話しながら実家に向かって歩いていると、不意に悪寒が走った。
「――――なんだ? なんか嫌な予感がする……」
「……あ! たぶん、あれじゃないかな~」
プラムが指差す方を見ると家族や使用人たちがケンジーを出迎えようとしていた。
恐らくギディオンが隣町に向かう前に帰宅予定日を教えていたのだろう。
だが少し様子がおかしい。
「……なあ、プラム」
「……なぁに~?」
「アンジーがいつにもまして怒っているように見えるのは、俺の気のせいか?」
「あたしにもそう見えるよ~」
「俺には身に覚えがないんだが……」
「あたしも分かんない~」
碌に考えようともせずそう答える相棒に、頼り甲斐の無いやつめと内心で文句を言いながら覚悟を決める。
(さて、今回はどうやってアンジーの機嫌を取ろうかね~)
ケンジーは平和な日常に帰ってきたことを実感していた。
~第三章 完~




