03-09 所持
成長した迷宮は、さすがに一筋縄ではいかなかった。
ケンジーは、これまでの ――冒険者ギルドで管理できる―― 迷宮ならば、二週間もあれば踏破できるようになっていた。
その二週間が過ぎたが、ケンジーは現在漸く中層に食い込んだところだ。
これには一応理由がある。
これまでであればケンジーは一つの迷宮を踏破するのに1,2度地上に戻るくらいで、あとは一気に踏破してきた。
だがさすがにここでそれをするには、今のケンジーを持ってしても不可能だった。
なにしろ出てくる敵が強い。強い上に多い。
油断すれば手傷を負う。
手傷を負えば更なる傷を負う。
常に集中を強いられる戦闘を引切り無しに行わなければならないのだ。
止むを得ず、慣れるまでは二日に一度は地上に戻ることを決めた。
最初に地上に戻った際、報告を兼ねてギルドへ赴いた時に、ケンジーは驚愕を持って迎えられた。
不可解だったが、受付嬢に話を聞いて納得した。
ケンジーは死亡したと思われていたのだ。
なぜか?
初日ですでに一組が壊滅していた。
そんな中、二日も不在 ――行方不明扱いされていた―― にしていたので、もう死んでいると思われていたのも頷ける。
集められた探索者はケンジーを含め七組いたのだが、
初日に壊滅したのが一組。
半日で逃げ帰って来たのが三組。
一日潜っていられたのが二組。
二日潜っていたのはケンジーとプラムだけであった。
ちなみに、一日に一度戻ってくるのは探索者としてスタンダードなスタイルだ。
まともに探索出来ているのは二組だけと思われていた中、けろっとした顔でケンジーが現れた。
驚くのも無理はないと思われた。
ちなみに初日に壊滅したのは、その他Aのパーティーと言うことだった。
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二週間が過ぎた現在の探索状況は、
・中層に到達した一組:ケンジー&プラム
・表層部の最奥を攻略中一組:オールラウンダー組(オールラウンダーはボルドウィンという名前らしい)
・表層部中程を行ったり来たり一組:その他B組
・逃げ帰った二組:その他C~D組
・壊滅した一組:その他E組
攻略の目があるのはケンジーとオールラウンダーだけという有様であった。
(ゆえに名前を覚えたのはオールラウンダー組のみ。他の組はケンジーにその他扱いされている)
(予想通りだったなぁ。でも、今回は収穫だったな。色々覚えたし)
各上の迷宮探索は、ケンジーに新たな経験を積ませていた。
代表的なものを述べると装備品の使い方が挙げられる。
装備品 ――剣や防具―― は、当たり前だが使えば摩耗する。
それを丁寧に手入れをすることで長持ちさせることができる。
ケンジーはそう思っていた。そして、それは正しい。
だがそれだけでは無かった。
剣など、特にそれが顕著だ。
斬り方でも剣の寿命が変わるのだ。
即ち、摩耗し難い斬り方がある。
即ち、損耗しない受け方が ――剣も防具も―― ある。
ケンジーは、今までそれを知らなかった。
ケンジーだけがそれを知らなかった。
新人が最初に覚える大切な技術。
それが、これだった。
迷宮に潜る生活。
街と違って迷宮に武器防具屋などない。
フィールドとてそうだ。
野外に武器防具屋はない。
武器防具の寿命を延ばす技術はそれだけで自分の命を危険から遠ざける。
それを知らねば冒険者・探索者などやっていられないのだ。
ケンジーは、それを知らなかった。
なぜか。
卓越した実力で、簡単に踏破出来てしまったからだ。
魔術を使えるということも、それに拍車を掛けていた。
「なあ、プラム」
「ん~? な~に~?」
「明日から攻めるぞ」
「!! ……わかった~!」
これまで、慎重に慎重に、探索を進めてきた。
それは、観察を重ねることだ。
そして、各上の迷宮を相手にすることで新たな技術を身に付けた。
ここへ来てケンジーはギアを一つ上げた。
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さらに一か月が経った。
ケンジーは深層に到達していた。
梃子摺ったとしても、あと2~3日もあれば最深部に届くだろう。
「……ケンジー。そろそろ一度帰ろう~?」
(焦る必要はない。一度体を休めるか)
「わかった。ギルドへも一度報告を入れておく頃合いだしな。……プラム、一旦戻ろう」
「うん!」
地上へと戻り、ギルドへと足を向ける。
今回の素材等を清算しつつ、受付嬢に現状を報告する。
宿へ戻ろうした時、死角のテーブルから話声が聞こえた。
「……このまま手を拱いていて、いいのか。ウィン!」
「またか、ハロルド。もうその話は済んだだろう」
「しかし! このままでは我々の面目は丸潰れだぞ! あんなガキの後塵を拝するなんて、オールラウンダーの名折れだ!」
「仕方ないさ。あいつの方が上だった。それだけのことだ」
オールラウンダーのパーティーは四人組。言い争っているのは、そのうち二人のようだ。
しかも話題は自分かと思うと、関わりたく無いと判断してそのまま外への扉をくぐった。
「プライドを拗らすと害悪だな。俺も気をつけようっと」
「あの人たち、要注意だね~」
「リーダーっぽい人が止めてはいたようだけどな。ま、注意だけはしておこう」
「りょうか~い」
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更に一日、体を休めた翌日、最深部へと探索を進めていると、先日までは感じなかった他者の気配を見つけた。
「ケンジー……」
「ああ、あいつらだな。奮起したのかね? 先日の言い争いも無駄じゃなかったってことか」
「ダイジョブかな~?」
「良い方向に転んだなら問題ないだろう。まぁ、勝つのは俺たちだけどな」
「うん! がんばろ~」
その場は、それだけで済んだ――――のだが。
変化があったのは翌日、最深部に着いた時だった。
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ケンジーが最深部 ――守護者の間―― に着いた時、そこには人間が倒れていた。
見覚えがあった。それも最近だ。
そこに倒れていたのはボルドウィンと言う名のオールラウンダーと、その仲間たちであった。
「……う……ぐ……」
息があるのは一人だけだった。
「……言い残すことはあるか?」
だが大きな傷を受けていた。致命傷だ、助かる見込みはない。
「……うぅ…さ、さすがだな、“迷宮の覇者”。ソロでここまで……無傷とは……」
頭の上で「ソロじゃないもん! あたしもいるもん~!」と騒いでいるのがいたが、全力でスルーした。
「……ハロルド、……うちの魔術師……」
そこまで言うとボルドウィンの体から力が抜けた。
「……ハロルド? …………ああ、あの俺に文句があるやつか」
そう言うとケンジーは倒れている三人からギルドカードを抜き取って鞄に入れた。
三人が死んだ証明にギルドへ提出するためだ。
そして守護者の間への扉を開ける。
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守護者との戦闘は終わっていた。
倒れている、守護者だったと思われる物体。
立っている、一人の人間。
それは魔術師のようだった。
「早かったね。さすがは“迷宮の覇者”と言ったところか」
「………………」
ケンジーは応えない。
その目は魔術師 ――ハロルド―― の手元に向いていた。
ハロルドの手には――――
―――――――― 開かれた、あの書があった。
”7~10日もあれば”を
”梃子摺ったとしても、あと2~3日もあれば”に修正。
翌日に最深部に届いてますからね……
プロット変更したの忘れてた……




