01-02 人生ハードモード
その赤ん坊、男の子はケンジーと名付けられた。
前世の名前が研二だったのとは何の関係もない…はずだ。
ケンジーは慎重に観察することから始めた。
まだうまく目を開けられないので声や音を聞くことからだったが。
(何を言ってるのか全然分からねぇ…言語自動翻訳は異世界転生時のデフォじゃなかったのかよ)
(ハードモードだぜ。まずは言葉からかぁ)
いきなりやる気を削がれた。
が、すぐに思い直す。
(いやいや、そういう異世界ストーリーが無かった訳じゃない。こんなのは想定の内だ)
(そうだ!他にやるべきことがあった!なんで忘れていたんだ、俺!)
(いいか?…いくぞ?)
(ステータス!)
(…………)
何も起こらなかった。
(なんてこった…そこまでハードだというのか)
(いやまて、口に出さないとダメなのかもしれん)
「ぅいぇゃふぃ(ステータス)!」
何も起こらなかった。
いや、厳密に言えば起きたことはあった。
お腹が空いてむずがっていると思われたのか、おっぱいを与えられたのだ。
(味は濃厚で美味いんだが、ちょっと生臭い…)
特に知りたくもない事実だった。
(赤ちゃん言葉じゃだめなのかも…いや現地語で言わないと効果が出ないのかもしれん)
研二、いやケンジーは諦めの悪い男であった。
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3年が過ぎた。
結果として、前世の記憶があるだけの、それ以外は普通の赤ん坊だったケンジーは、それを除けば多少成長が早いだけの子だった。
ちなみに現地語での“ステータス!”は不発に終わったとだけ記しておく。
その後の変化と言えば、妹が産まれたことくらいか。
アンジェラと名付けられた妹は、可愛らしかった。
前世でも妹が欲しかったケンジーは懐いて欲しくて、それはもう甲斐甲斐しく世話を焼いた。
ちょっと両親に引かれるほどに。
そんな、ちょっと物足りないけれど充実した日々を送っていた頃。
徐々に自分の両親がどんな人物か分かり始めてきた。