03-04 隊商の護衛
冒険者ランクがEに上がったケンジーは、今度は隊商の護衛をする依頼を選んだ。
行先は隣街の一つだ10日前後の日程になるはずだ。
妹のことは両親に任せた。もう慣れたものだ。
依頼人は街でも有名な大商人シーヴァーだった。
普通なら成り立てのEランク冒険者など受け入れない大物だ。
だがケンジーはすでに有名すぎるほど有名だった。
二つ返事で了承されたという。
当日、挨拶すると大変喜び、ケンジーに話し掛けた。
「いやあ、“迷宮の覇者”に護衛して頂けるとは。これは今回は安心ですな!」
「いえ、まだまだ若輩者ですから過度な期待はしないようお願いします。ただ全力を尽くすことはお約束します」
「たいへん謙虚ですな。それに礼儀正しい。最近の若者は自信たっぷりにミスする者が多くて不安だったのですよ。いやあ、これは良い知己を得た!」
何を言っても肯定される。
諦めるしかないか、そう思いながらふと顔を上げると、
そこには観察するような冷静なシーヴァーの目があった。
一瞬で先ほどまでの楽しそうな目に戻ったが、決して夢や幻ではなかったと確信する。
(なるほど、試されている…か)
恐らく、大商人としてケンジーと言う人間を見極めようとしていると踏んだ。
何のために?
ネームバリューと実力のバランス。
要はケンジーが本当に使える人間かどうか。
この試験に合格すれば、きっと繋がりができる。
強大な大商人との強力な繋がりが。
そんなことを考えていると他の冒険者パーティーがやってきた。
彼らはシーヴァー本来の護衛。お抱え冒険者たちだ。
大商人のシーヴァーなら、本来お抱えの専属護衛を持っている。
なのに今回護衛の依頼があったのは、先日の盗賊団のせいだ。
彼らは討伐されたが、大手の盗賊団が潰れた直後というのは、実は他の盗賊からすれば美味しいエリアなのだ。
襲撃は無くなったと安心し、護衛を減らして荷物は多くする。お手軽な獲物となる。
シーヴァーは、反対に護衛を増やした。
そう言う意味でもシーヴァーは大商人と言えた。
「お、もう来てたか、“迷宮の覇者”。俺はCランクパーティー・コリンのリーダーで戦士のバーナードだ。短い間だがよろしくな」
「こちらこそよろしくお願いします。俺はケンジー。こっちの妖精は相棒のプラムです」
「よろしく~」
「おう。ちっこいお嬢ちゃんもよろしくな。念のため言っておくと、護衛全体のリーダーも務める。今回、追加の護衛はお前一人だけだが、結構臨時の護衛が増えることはあるんだ。ま、俺の命令には従ってくれよ」
「了解しました」
「あたしも、りょ~か~い」
「他のメンバーも紹介しよう。おーい、お前らこっちこーい!」
隊商の馬車や荷物のチェックを行っていた人たちの中から、三人が集まってきた。
「ああ、君があの有名人かい。僕はコリンの弓兵アンドリュースだよ。よろしくね」
「俺は斥候のカーシーだ。よろしくな」
「私は治癒士のダニエルです。短い間ですが一緒に頑張りましょう」
つまり戦士、斥候、弓兵、治癒士の四人パーティーという訳だ。
かなりバランスがいいと言える。
(腕のいい冒険者パーティーと一緒の仕事か。いい経験が積めそうだな。楽しみだ)
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そして隣街への移動が始まった。
護衛の配置は前方に戦士のバーナードと斥候のカーシー。
後方に弓兵のアンドリュースと魔術師と戦士を兼任するケンジー。
中央、雇い主のシーヴァーの近くに治癒士ダニエルとなった。
時にバーナードとケンジーが隊列の左右を固めることもあったが、基本はこの陣形だ。
隊商の馬車は中央に大型が一台、前後に挟むように中型が二台の計三台だ。
隊商の人たちは全て馬車に乗り、護衛は各自の馬だった。
ケンジーは騎士の子で戦士の訓練も受けている。当然乗れるよう練習したどころか騎馬戦もこなせる腕を持っていた。
馬は成人の祝いに父が買ってくれた。何気にいいとこのぼんぼんである。
単なる親バカかもしれないが。
「……右手の50メートル先に反応三つ。恐らく狼です」
「了解。……凄いね、カーシーも初めて見た時は凄いと思ったものだけど、ケンジーはそれ以上だ。……っと、はい仕留めたよ」
「了解。アンドリュースの弓も相当ですね。……では、取ってきます」
こんなやり取りが日に何度もあった。
今は五日目の夕食を取っている最中だ。
旅も半ばに差し掛かっていた。
「いや、凄いよこの子。気配察知の範囲と正確さが尋常じゃないんだ」
「あっはっは、頼もしくていいことじゃないか」
「本当ですね。いや、私はつくづく運がいい。こんなに早く知り合うチャンスが持てるとは」
上からアンドリュー、バーナード、シーヴァーの会話だ。
概ねケンジーは隊商に受け入れられていた。
主であるシーヴァーの好意的な態度に護衛リーダーのバーナードの指示にも素直に従っていることが大きかった。
道中、ケンジーが獣の気配を感じ取り、アンドリューが弓を射て仕留めるといったことが良くあり、食費を浮かせることに役立っていることも、その一助となっていた。
「聞けばこの街道を縄張りにしていた盗賊団を討伐したのもケンジー殿とか」
「そういや俺も聞いたぜ。一人で全滅させたんだろう? 聞かせろよ、その話」
「たいしたことはやっていませんよ。魔術で罠を仕掛けて、そこへ誘導して一網打尽にしたんです」
「魔術とは便利なものですねぇ」
「はっ!お前だって治癒魔術使うじゃねぇかよ」
「確かに“魔術”という言葉が付きますが、私は治すことしかできません」
「反対に俺は治すことができません。適材適所ということでいいのではないでしょうか」
「大人だよなあ、こいつは」
プラムがケンジーの頭の上から白けた目でそんなやり取りを眺めていた。
夜が更けて行くと自然とお開きになった。
見張り番まで仮眠を取るために寝袋に入るケンジー。
「……俺は治すことができません。か~」
「うるさいぞプラム。……余計なことは言うなよ?」
「は~い」
実はケンジーは治癒術も使える。
なぜなら、あの書には治癒術の呪文も記載されていたからだ。
本当にありとあらゆる呪文が記載されていたのかもしれない。
ケンジーには使えない呪文もいくつかあったが、あれはもしかしたら固有魔術の呪文だったのか。
それはともかく、ケンジーは治癒術も含めて、ほぼ全ての呪文を使えるのだった。
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夜、寝ていたケンジーが不穏な気配を感じて飛び起きる。
「……プラム、起きろ!」
「……ん~……な~に~?」
「敵だ。多い」
「うみゅう」
「寝ぼけてないで早く起きろ!」
素早く身支度して見張り番と合流する。
「……気付いてますか?」
見張り番のカーシーに問いかける。
「ほんの少し前だ。おかしいとは思ってた。やっぱり襲撃か、何が来る?」
「すでに囲まれています。僕にも分かりません。ですが、このまま見逃しては貰えないでしょう。みなさんを起こします」
「分かった。すまんが手分けして起こそう」
「了解です」
手分けして素早くみんなを起こして行く。
起きてきた人たちに現状を伝える。
敵は不明、すでに囲まれていて逃げ道はないことを説明する。
そして馬車をバリケードに使い四方を囲む。
迎撃する準備を淡々と行う護衛パーティー。
(大したもんだな。内心じゃ焦りまくっているだろうに)
自分のことは棚に上げるケンジー。
そこにプラムが飛んでくる。
「ケンジー! たいへんだよ、ゴブリンだよ!」
「は?……ゴブリン?……なんだよ、焦って損したわー」
「そうじゃなくって! ケンジーでも危ないんだよ、油断したら死んじゃうんだからね!」
「いくら俺でも、油断したってゴブリンには殺されないよ!」
「だからぁ! そうじゃないの! ザナッシュが来たんだよ!!」
「……ナニソレ?」




