03-03 盗賊団討伐
盗賊団討伐の依頼を受けた。
よくある話だ。
街と街を繋ぐ街道、その途中に盗賊が住み着いた。
これが大人数の盗賊団ならすぐに領主の兵団が動く。
だから連中は兵団が動員されない程度の人数で済ませている。
最初は大したことはないと思われていた。
商人の護衛が倒し損ねた生き残りが数人いた程度だった。
倒し損ねたのも商人の命を優先して深追いしなかったからだ。
護衛に雇われた冒険者はEランクだったが「楽勝だった」と証言した。
だが、次に遭遇した護衛の冒険者は違った。
「負ける気はしなかったが、楽勝とは言えなかった」
もしかしたら危険なのでは?
周りがそう思い始めた頃、次の証言が出た。
「やっぱり大したことなかったぜ」
ああ、問題なかったか、前の冒険者が弱かったのだろう。
みんながそう思った。
だが今回証言した冒険者は、成り立てとは言えDランクだった。
そうやって、問題にしなかったツケが来たのか。
Cランク冒険者の一パーティーくらいでは倒せない程に盗賊団は強く大きくなってしまった。
今、その街道を使う隊商はCランクパーティーと他にDランクパーティーを二つ程度
――合計三パーティー10~12人―― を雇わなければ安心して通れないほどになっていた。
なぜ、そんな相手にケンジーが一人で挑むことになったのか?
それは名声が高まった ――建前上は信頼度になっている―― からだ。
ただでさえ領主に名を覚えられてしまったところに“迷宮の覇者”の二つ名が轟いた。
そんな折に商人ギルドから盗賊団討伐を嘆願する書状が領主に届いたのだ。
兵団を動かすには金が掛かる。
だから領主から直々に指名依頼が来てしまった。
成功したら冒険者ランクを一つ上げるようギルドに推薦することを報酬に。
無論ケンジーは、その依頼に飛びついた。
自信はあったし、早くランクを上げたいと言う欲もあった。
関係者の利害が一致した結果だった。
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「そろそろかな」
言いながら気配感知の領域を広げる。
これは魔術師の呪文による効果を更に広げたケンジーのオリジナルだ。
チートは使っていない。
何気にチートを除いても、もうケンジーは普通とは言えなくなってきていた。
気付いていないのは本人だけだ。
「斥候か見張りらしきヤツらがいるなぁ。……プラム」
「はいは~い。見てくるね~」
すぐに戻ってきて報告する。
「あれは、斥候だね~。少し後ろ側に20人くらい武装した人たちがいたよ~」
「ああ、こっちでも感知した。そっちが襲撃の本命だろう、魔術師はいないな?」
「ダイジョブ~、いなかったよ~」
「よし、なら……始めよう」
「は~い」
そして―――――――― 一方的な虐殺が始まる。
「”移動型対物理結界”」
「武器位階強化はどうする~?」
「いらない。コイツらにはもったいない。プラムは隠れていてくれ」
「りょうか~い。”移行”しておくね~」
“移行”とは、世界の位相を移ることだ。
妖精は元々“妖精界”で暮らしている。
妖精界は半物質世界だ。物質界とは位相が半分ズレている。
そのため物質界の存在には姿が見えない。
以前は多くの妖精が位相を超えて物質界に来ていた。
だが何時からか妖精王がそれを禁じた。
妖精を見かけなくなったのは、そういう事情があったのだ。
閑話休題。
移行すると人間には見えないし触れない。
もちろん攻撃されてもダメージを受けない。
守りに入った妖精を殺せる人間はいない。
ちなみにケンジーとプラムは“繋がっている”ので見えるし会話もできる。
触れないだけだ。
非常に便利である。
戦闘を開始する。
赤ん坊からこの世界でやり直したケンジーは、人を殺すことに忌避感が無くなっていた。
初めから無かった訳ではない。
剣術訓練の際に父から徹底的に仕込まれたのだ。
父は、人間同士の戦闘では相手を殺す際に躊躇うのが一番危険だと知っていた。
故に心を鬼にしてケンジーに経験を積ませた。
そう、ケンジーは盗賊討伐が初めてではなかった。
「”魔法の矢”」
まずは“魔法の矢”を連射し、後続の本命たちを倒していく。
斥候が近づいてくるケンジーを警戒する頃には後ろの本命20人は動くこともできなくなっていた。
漸く斥候が弓矢でケンジーを攻撃してくる。
だが、当たらない。
対物理結界が敵の攻撃をケンジーまで届かせない。
やがて恐慌を来して逃げ出すが、それを許すケンジーではなかった。
「さて、次だ」
斥候と襲撃者20人の止めを刺しながらプラムに告げる。
「は~い。……こっちに足跡が続いてるよ」
「よく分かるな。俺には全く見えない」
「えへへ~、凄いでしょ~」
日が傾いてきた頃に洞窟を発見する。
「あれがアジトか? プラム、見てきてくれ。特に人質がいるかいないかを念入りにな」
「りょうかいで~す」
戻ってきたプラムが言うには、人質と思われる人はいない。
足が付くことを恐れたのだろうか、人質は取らない連中のようだ。
盗賊団は、中にまだ50人ほどいた。
“仕事”は兵団が動かない程度の人数で行う。
そういうことなのだろう。
頭を使い、経験を積み、生き残るためにできることをなんでもやった。
その努力を、もっと別の方面に生かすことが出来ればと思わなくもないが、
“人間は、楽をするためにこそ努力を惜しまない生き物だ”と前世で聞いたことを思い出す。
楽をするために他人を襲い、殺す。
そのための努力を惜しまない相手のことなど思いやる必要はないと思い直し、行動を開始する。
出入り口は他にない。
一網打尽にすることを決めた。
「まず、穏行の魔術を使い中に入る。そして奥でこれを燃やして燻りだし、先に表に出る。最後に出入り口に積層障壁を張って終わりだ。せいぜい苦しんで死ぬがいいさ」
しばらくケンジーを見つめていたプラムが後頭部にしがみついた。
「……ぎゅっ」
「なんだ?」
「……なんでもな~い」
そうっと中に入る。
仮に盗賊に見られてもバレないとは思うが念のため慎重に洞窟へと入り込む。
そして中で、特に煙の出る樹の皮や葉を集めたものを燃やす。
消えないように加工した特別製だ。
そして誰にも気付かれず外へ出ると、息を潜めて中の様子を伺った。
洞窟内の大量の気配が外へと向かっているのが分かった。
「いくぞ、“設置型積層障壁”!」
洞窟の出口に障壁を設置した直後。
“じゅっ”“じゅっ”“じゅっ”………………
そんな連続音が木霊した。
人間が、消滅しているのだ。
積層障壁。
守るだけの障壁ではない。
守備と攻撃の層を含めた積層構造。
魔術という手段を持たない者にはまず抜けることはできない。
洞窟内では、仲間たちが目の前で消える悪夢に足を止めようとする者が現れるが、後ろから押されて止まることが出来ずに障壁に触れ消滅することになった。
何度かそれを繰り返し、ようやく残った連中が足を止めるが、今度は煙が生き残りを襲う。
煙で苦しんで死ぬか、障壁に触れ一瞬で消滅するか、悪魔の二択を迫られパニックになる者もいた。
ケンジーは、感情のない瞳で終わりまでそれを眺めていた。
そしてケンジーは冒険者ランクEを手に入れた。




