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02-02 放棄された迷宮

「第二回! 妹を説得しよう! 結果発表~」



プラムが声を張り上げる。



「惨敗でした~」



うん、つまり、そういうことだ。



「惜敗ですらありませんでした。も~勝てる気がしませんでした~」


「うるせぇ。人の傷をえぐるんじゃありません」


「すごかったねぇ。あっという間にご両親がアンジーちゃんの味方に付いたもんね~」



そう、またしても妹に両親が付いた。

今回は納得した訳ではなかった。

前回と違い、ケンジーも引けない理由があったからだ。

けれど、その理由を口にする訳にもいかず、

――感情だけを前面に出す妹には元から理屈は通用しそうもなかったが――

結局、実家から通える範囲の迷宮を全て踏破しなければ、家を出ることは叶いそうになかった。



「普段は、お淑やかなのにね~。ケンジーが絡むと途端に感情的になるんだね~」



そうなのだ。

普段のアンジェラは、殆ど我儘わがままを言わない。



「よっぽどお兄ちゃんが好きなんだね~」


「そんなことは言われなくても分かってる」



なぜなら、そう仕向けたのは他ならぬケンジーなのだから。



    ♢♦♢♦♢♦♢♦    ♢♦♢♦♢♦♢♦    ♢♦♢♦♢♦♢♦



「若い迷宮?」


「ああ、そうだ」



父と会話しながら、散々考えて出した結論を思い浮かべる。


問題は、どこまでを踏破すれば家を出れるのかだ。


妹を説得するのは無理だ。

プラムに指摘されてようやく理解できた。

だから妹を説得するのは他の人たちに任せる。

誰か。

そう、両親だ。

両親を味方に付けて、妹を説得してもらう。

そのためには両親の出す条件をクリアーしなければならない。


その条件を明確にする作業をしていたところ、父が声を掛けてきたのだ。



「領地の外れ、ぎりぎりのところ、ここからだと一日ほど南に行ったところだな」

「そこに出来て五年ほどの若い迷宮がある。潜伏期間を考えれば十年ほどだな」


(領地内全部踏破しろってことかぁ?)

「ふ~ん。若いと何かあるんです?」


「階層が浅い。つまり踏破しやすい」


「おっ。いいですね」


「まぁ、普通は稼げる大きさになるまで討滅の許可は下りないものなんだが…」

「これは事情があってな」


「あ~。ここに限らず、領主にとって領内の迷宮管理は死活問題ですよね」

「…それで、事情とは何ですか?」



    ♢♦♢♦♢♦♢♦    ♢♦♢♦♢♦♢♦    ♢♦♢♦♢♦♢♦



三日後、ケンジーは迷宮の出入口を見上げていた(・・・・・・)



「こりゃ放棄(・・)したくなるわなぁ」


「あはは~」


「入口見ただけでこれだ。聞いた話が本当なら…」

「完全な不良債権だ」



その迷宮は…

崖の中腹に出入口があった。



    ♢♦♢♦♢♦♢♦    ♢♦♢♦♢♦♢♦    ♢♦♢♦♢♦♢♦



出入口が崖の中腹で、出入りが困難。

それだけならば、まだ良かった。

時間と金を掛ければどうにでもなる。

整備することは可能だ。


だが、ここは若い(・・)迷宮。

出没するモンスターは弱く、魔核は期待できない。

回収できるであろう財宝も、大したものはないと予想できた。

人は集まらないだろう。

整備をしても見返りが薄い。


利益の見込めない迷宮。

この迷宮の破棄(・・)が決定したのは当然の流れかもしれない。


だが、今この迷宮が放棄(・・)されているのはそんな理由ではない。

なぜなら・・・


そう、何より関係者を辟易へきえきとさせたのは、内部の罠群(・・)だった。


迷宮の破棄が決定した際、探索者を動員して一気に踏破しようとしたことがあったのだ。

意気込んで迷宮に侵入していく探索者たち。

だが、その意気込みはすぐにしぼんでしまった。


なぜなら、内部は(トラップ)の山だった。

しかも、やたら巧妙に隠されており、しかも解除するのに時間が掛かる精巧さ。

しかし、その殆ど(・・)は、精々嫌がらせレベルの罠で、命を奪うようなものはなかった。

それならばと、人海戦術でもって踏み越えて(漢解除して)行こうとすると、

その先には重大な罠が待ち構えており、行動不能者が続出した。


罠を避けていく方法も試されたが、致命的な罠は手前の罠の数々と連動しており、

順番通り解除しなければ攻略できない仕組みだったのだ。


想像してみて欲しい。

細々と罠を解除する斥候一人。

――前述の理由から、罠の解除に人海戦術は無用の長物と化した――

そこに雑魚モンスターが襲いかかる。

――出てくるモンスターは全て小型で空を飛ぶものばかりだった――

当然、護衛は残してある。

斥候と入れ替わり戦闘となるが…

巧妙にもヤツらは罠の方へ罠の方へと誘導してくる始末だった。


この時点で残った探索者は当初の1/4まで減っていた。


何より彼らの心を折ったのは、

解除した罠、していない罠問わず、

約一日経つと、全ての罠が新しい別の罠(・・・・・・)に入れ替わると言う事実だった。



ここにきて冒険者ギルドは撤退を決定した。

ギルドにそっぽを向かれた領主は、この迷宮を放棄することを決意したのだった。



    ♢♦♢♦♢♦♢♦    ♢♦♢♦♢♦♢♦    ♢♦♢♦♢♦♢♦



「…とは言ってもな、このまま迷宮を放置すれば、迷宮は成長する」

「成長した迷宮は周囲に広がり、やがて近郊の村々を飲み込んでしまうだろう」

「領主としては、このまま放置し続ける訳にはいかんのだ」


「それはそうでしょうね…」


「という訳で、領主に泣き付かれてしまってなぁ」


「父さんへの依頼だったのですか!!」


「まぁ、そうなんだがな。よく考えてみれば、こいつは今のお前に打ってつけだ」

「出てくるモンスターは弱い上に迷宮自体は低階層だ。罠は厄介だが、致命的な物はない」

「これからも迷宮に潜り続けるつもりなら、様々な罠を体で知っておくことは大切だぞ」


「それは…たしかに」



命を大事にしろとは、プラムにも言われたことだし、

今後を考えても、危険に晒される可能性が減るのは有り難い。



「僕にやらせてください」



ケンジーは、この迷宮に挑む決意を固めた。


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