01-17 縁起悪いチート
なんとなく緊張感のない空間になっていたが、それも終わり。
ようやく戦いが再開されようとしていた。
「ケンジー、時間が動き出すよ~? 心の準備はいい~?」
(いつでもいいぞ。と言いたいところだけどな、心はともかく体はボロボロだ)
「体治れ~とか回復しろ~って願い事してみて?」
(ん? 治れ~! これでいいのか?)
「うん、ほら治った」
(うお!まじか…すげーな代行者)
「動くよ~! まず、地竜ね。その後、あの本を倒して!」
そして停止していた世界が動きだした。
「まずは目の前の地竜からだな。さて、どうするか…」
なんとなく前世の何かで読んだ大技が思い浮かんだ。
「…できるよ。やってみて」
「…また心を読んだのか」
「えへへ」
「まったく! どりゃあああ!」
ケンジー裂帛の気合。
すると、どうだ。
目の前の体長10メートルはあろうかという地竜が縦にすっぱり真っ二つとなった。
前世の漫画だかラノベだかにあったと思う攻撃方法。
空間そのものに亀裂を入れて、そのままズラしたのだ。
その名も次元と…
だめだ!これ以上は危険だ。
あっさりと倒した地竜の死亡を確認すると、
あの書へと振り返る。
振り返り様に“魔法の矢”を発動した。
それも連射だ。
数十発という数を一斉に撃ち込んだ。
だが敵も然る者。
あの書は無傷だった。
しかし、表紙の表情には余裕がない。
あの、時間が止まる前の嗤い顔は消えていた。
「行くよ、ケンジー」
プラムから声が掛かる。
「武器位階強化!第五階梯!」
すると、突然ケンジーの持つ剣が輝きだした。
これほどの光は、以前に式典で見た、領主の魔剣ですら放ってはいなかったはずだ。
領主の剣は、迷宮の最深部で見つかった逸品で、国宝にすら匹敵するという話だった。
それを遥かに超えるというのか。
然もありなん。
これこそはプラムがケンジーのための代弁者に選ばれた最大の理由。
限られた時間だけ起こせる疑似奇跡。
駆け出しが持つ、どこにでもある、ありふれた剣。
それを、神をも殺せる宝剣に変えてしまう、プラムだけが持つ固有魔術。
元来、妖精は代弁者に選ばれやすい。
その種族としての在り方が、世界の意思に好まれるためだ。
そんな妖精たち中で、プラムが選ばれた理由がこれだった。
たった一人で世界の脅威に立ち向かわなければならないケンジー。
彼に対する世界の意思からの、せめてもの思い遣りだった。
「そのまま切っちゃって~」
「おう!」
念のため逃げられないように“金縛り”を掛ける。
このあたりは実にケンジーらしい心配り?だ。
「とりゃ!」
狙いを外すことなく、剣は書に当たり真っ二つにした。
“ィィイエエエエエエエエエエエエエ”
哭き声なのだろうか。
心がざわめくような、落ち着かないような、そんな感覚を残して、あの書は消滅した。
「倒したのか?」
「うん。大丈夫、ちゃんと倒したよ~」
「そうか、よかった…」
「それで、家族のことだけど。どうすれば助けられる?」
「えとね。ケンジーが過去に、あの本を見つけないようにお願いして?」
「それだけでいいのか?」
「うん。それだけで、みんな助かるよ~」
「わかった。…よし!」(パン!パン!)
なぜか正月の神社でお参りするかのように“二礼二拍一礼”でお願いするケンジー。
「ふぅん。ケンジーの前世の世界の正しい作法なんだ~」
「正しいっていうか、これでも略式らしいって聞いた気がするけどな」
「へぇ~。まあいいや。さ、帰ろう~」
「…コイツ」
「…ああ、帰ろう」
一瞬で実家の裏庭に現れる二人。
そこから徒歩で玄関に回り込む。
「何ていうか、便利だけど堕落するな。これは」
「でもこれ、理を“書き換え”てる訳じゃなくて、ただの魔術だよ?」
「ほ~、プラム便利だな。一家に一人フェアリーの時代がくるかもな」
「なんかやだ。…じゃなくて、ケンジーが使った魔術だってば」
「え? おれの魔導書真っ白だぞ? 使える訳ないじゃないか」
「…さっき“魔法の矢”を連射したよね?」
「…そういえば…あれ?」
プラムによると、無意識のうちに脳内?に魔術を“書き加えて”いたのだと。
それもどうやら記憶の中にある、例の書に記載されていた呪文を全て。
つまり、今後は魔導書いらずという訳だ。
「ち、チートすぎる。しかもなんか縁起悪い気がするし」
「チート欲しかったんじゃないの~?」
「…考えが変わったっていうかなぁ。過ぎた力は身を滅ぼすって実感したんだわ」
「いいと思うよ~。便利な力をばんばん使う人って代行者に向いてないからね~」
「そうなのか?」
「そうだよ~。慎重に慎重を重ねて、ここぞ!」
「ってところで少しだけ使う人がいいんだって~」
「なるほどなぁ」
そんな会話をしながら玄関を開けると。
そこには笑顔でケンジーを迎える使用人達がいた。
そのまま居間に顔を出せば、やはり笑顔で迎えてくれる両親と、
「お兄ちゃん!お帰りなさい!」
輝くような笑顔で駆け寄ってくる妹がいた。
(ああ、俺はちゃんと家族を守ることができたんだ)
ようやく実感する。
いつもの我が家に無事に帰ってきたのだと。
「…ただいま」
この時ケンジーは、
チートを手に入れたことを重荷に感じた、人としての安心感と、
それに付随する面倒事が手招きしている、未来への不安と、
プラムのことをどう説明するか、考えないまま帰ってきた後悔が、
ごちゃごちゃに混ざって、もう開き直るしかないと考えていた。
ハッキリ言えば、全力で目の前の現実から目を背けていた。
なんか色々と台無しだった。
~第一章 完~
またまた会話多め。
文字数も多め。(当社比)
クライマックスからエンディングまで区切らない方がいいかな、とね。
代わりに第四話が三記事になりました(しろめ)
とはいえ、これでやっと一区切りです。
やっとケンジー君が主役になってくれました。
ヒロインも出てきました。
ケンジー君の活躍は、まだまだこれからです。
ケンジー君のお話のネタは、まだまだありますが、
とりあえず、閑話を一つ週末にでも投稿できたらいいなぁ、
なんて考えています。




