01-13 暗雲
「くそぉおおおお!くそっくそっくそっ!許さんぞ!」
「あの成り上がりの息子ごときが、この私に恥をかかせるなど!」
自室でニール・シーメンスが荒れていた。
さすがに、あの場では素直に冒険者ギルドを後にしたが、その後は大荒れだった。
取り巻き達は、そそくさと離れて行った。
一人になったニールは荒れたまま自宅へ帰り、自室で物に当たり散らした。
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一通り当たり散らして発散したニールは、多少落ち着いたようだった。
(この恨み晴らさずに措くものか)
(だが、どうやって…戦いではどうやっても勝てん)
(自分が何をされたのか全く分からなかった)
(となれば…)
そのまま、ニールは自分の考えに深く埋没していった…
この集中力を他に使うことができたなら、と思うものは実は意外に多い。
が、その思いが届くことは無く今まで来てしまったのがニールの不幸かもしれなかった。
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決闘騒ぎから2週間経った。
あれ以来、ニールの顔を見ることは無く、平穏な探索生活が送れているケンジー。
迷宮の到達深度は深層にまで届いていた。
(上手くいけば今日にも最深部に手が届くな)
そう思った時に何か違和感を感じた。
(…ん?笑い声みたいな音が…いや違う、音じゃない)
(イメージ?ちょっと違うけど、イメージが一番近い表現…)
(…消えた…?何だったんだろう)
(うーん、気になるけど、どうしようもないな。今は忘れよう)
知らないところで悪意が形を持とうとしていることにケンジーは気付かなかった。
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その頃、ドレイパー騎士爵家にて事件が起きていた。
当主クレイグの同僚騎士が、領主よりの命令にて屋敷を訪れていた。
「ドレイパー卿、貴殿に反逆の意志ありとの密告があった。疾く登城なされよ」
「おいおい、いきなり何を言い出すんだ?」
「登城せず弁明無き折には容疑が確定される。疾く参られよ」
「…………」
同僚騎士は、命令を遂行するというよりは、まるで祈るような面持ちでクレイグに登城の意志を促していた。
「…了承した。しばし待たれよ」
「承知」
屋敷の使用人達は、何が起きたのか分からず、お互いの顔を見合わせるだけだった。
パーシアがクレイグの支度を手伝うべく、着いていく。
「…お母様」
「アンジェラ。あなたは、お部屋で待っていなさい。決して家から出ないように」
「わかりました…」
そこに騎士が口を挟む。
「反逆罪の容疑が掛かっております。無実が認められるまで外には出ないようにお願いします」
「分かっていますわ。アンジェラ聞いていたわね?」
「…はい、お母様」
自室のソファに腰掛けるアンジェラ。
疲れたような、その姿には、いつもの無邪気さは感じられない。
(何が起きているの? 頭がぐちゃぐちゃで何も考えられない…)
(お兄ちゃん、早く帰ってきて…)




