01-11 貴族
その日、気配感知に引っかかる集団があった。
いつもなら避けていくだけだ。それで終わり。
だが、その日は何かが変だった。
バラバラに動く気配と、陣形を取っている気配。
モンスターと探索者パーティーだろうと当たりをつける。
それらの気配を回避しようとしたら、陣形を取っていた気配が急にバラけてモンスターと思われる気配から遠ざかっていくのだ。
(ありゃ。決壊したのか)
どうするかと考える。
ここはまだ表層だ。
自分と同じ駆け出しかもしれない。
(見捨てるのも後味が悪くなるか)
気紛れに救助に向かうことにする。
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急いで現場に向かうと、大量のコボルドが探索者を取り囲み、タコ殴りにしている場面だった。
阿鼻叫喚…に見えて実は、
(なんのコメディーだ、これは)
コボルド達は必死に棍棒で探索者達を叩くのだが、背を丸めて頭を庇い縮こまっている探索者達には、全くダメージが通っていないようだった。
どうやら探索者達の防具が、非常に強力な魔力の付与された逸品のようだ。
(金持ち貴族のボンボンってところか)
溜息を吐きながらコボルド達を駆逐するケンジー。
全ての処理が終わる頃にようやく活動を再開する探索者達。
リーダーらしき人物がケンジーに近づいてくる。
「助力感謝する。私はニール。シーメンス准男爵家の六男だ」
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「私はニール・シーメンス。シーメンス准男爵家の六男だ」
(言い直さなくても聞こえてるし。つか、六男て…)
「自分は、クレイグ・ドレイパー名誉騎士爵の長男、ケンジー・ドレイパーです。」
名乗り返さないと話が進まないと思い、仕方なく返す。
「災難でしたね。これほど大量なコボルドに襲われるとは」
(それだけの防具があるなら、普通はどれだけ居ようがコボルドなんか雑魚だけどな)
「うむ、後から後から羽虫のように湧いてきてな。難儀していたのだ」
ニールの取り巻きなのだろうか、パーティーメンバー?が4人ほど集まってきて自己紹介を始める。
(めんどくさいな。もう取り巻きA~Dでいいだろ)
「では、自分は先を急ぐのでこれで失礼します」
「…え?あ、おい!待て!」
聞こえなかったフリをして、とっとと走り去ることにするケンジー。
(やっぱり関わらなきゃよかったなぁ)
早くも後悔しているが、本当の後悔は、これから始まるのだった。
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(とうとう見つけたぞ、ケンジーと言ったな。あいつをパーティメンバーに加える!)
ニール・シーメンスは准男爵家の六男だ。
永代貴族の男子と言えども、三男以降は貴族籍は貰えない。
成人してしまえば庶民と変わらないのだ。
これが上級貴族ともなれば、なにがしかの職位を継がせることができるのだが、准男爵程度の下級貴族では望めない贅沢だ。
まして、ニールは六男。
子供の頃から親に「何か手に職を持て」と言われて育った。
末っ子と言うこともあり、兄達より我儘を言っても聞いてくれた。
だが決してニールに期待してのことではない。
産まれる前から、成人後は庶民となることは決まっていたのだった。
しかし、幼少から散々我儘を言ってきたニールは堪え性がなかった。
何をやっても中途半端。
歳だけを重ね、取り返しがつかないところまできた。
(もう、冒険者になるしかない)
(探索者なら実績がなくてもランクを上げられるし、装備は親父に我儘を言えば上等な物が揃うはずだ)
そう思ったら上手くいくイメージしか湧かなくなり、似たような状況の取り巻き達を唆してパーティーを組んだ。
成人し、いざ迷宮探索と意気込んではみたものの。
何の訓練もしていないボンボンに戦闘などできるはずもなく。
なのに根拠もなく奥へと赴き、ついには雑魚モンスターの代表とも言えるコボルドにボコられたのは、ある意味当然の成り行きだろう。
なのにダメージは0という。
ケンジーでなくともコメディかと思うシチュエーションは、こうして出来上がったのだった。
とはいえ、ニールもそれに気付かないほど馬鹿ではなかった。
自分のことは棚上げしつつ、取り巻きに一人くらいは戦闘できる者がいると思っていたのだ。
まぁ、結果はアレだったが。
ならば次の手段。
腕のいい戦闘職を加えるしかない。
気紛れで人助けをしたがゆえに、ケンジーは厄介な人間から“ターゲットロックオン”されてしまったのだった。




