01-10 地味なチート
とうとう迷宮探索が始まった。
冒険者の活動は街中のお使いがメインだったので特に感慨はなかった。
危険もなかったし。
つまりここからが本当の始まりだ。
などと気負いつつ始めてはみたものの。
仮にも元高位冒険者かつ現役騎士の父から一流と互角と言われたケンジーだ。
特に危険を感じることもなく、拍子抜けするほどあっさりと一日を終えたのだった。
(思ってた以上に体が動いた。補助魔術を使うこともなかったしな)
ここで補足しておくと、5年やそこら真面目に修練したところで一流になるなんてことは例え異世界と言えども、そうそう無い。
ならば、なぜケンジーは一流になれた ―厳密には経験を積んでいないので一流ではない― のか。
その答えは、産まれた直後から前世の記憶があったことと、その後の行動と言える。
つまり、赤ん坊の体に大人の意識、自由の利かない体でできることは観察しかなかったのだ。
言葉が通じないことも手伝って、とにかく“見て、聞いて、考える”ことが癖になった。
言い換えれば、物事をよく観察し、その本質を捉える、その訓練を赤ん坊のころから続けていたのだ。
そこに「チートがないから仕方がない」と努力を加えた。
普通に何をやっても、そこそこ時間さえかければ一流になれる下地はできていたのだ。
天や神からの授かりものではなくとも、人から見ればチートと言えるモノを手に入れていたのだ。
もっとも、ケンジーがこれを聞けば「こんなのは俺の知ってるチートじゃねぇ!」と叫ぶだろうが。
名誉のために付け加えておくと、
魔術にしろ剣術にしろ、師匠が一流だったこともプラスに働いたのは間違いない。
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ケンジーが赴いているのは“討滅された迷宮”だ。
この世界では、迷宮は生きていると言われている。
討滅されるということは、迷宮が死ぬということ。
ならば、なぜ討滅された迷宮が活動を続けているのか?
そこに一般には知られていない冒険者ギルドの秘密がある。
冒険者ギルドは、討滅した迷宮を生かし続けるノウハウを持っているのだ。
迷宮を放置すると際限なく大きくなり、やがて周辺の村や街を飲み込んでしまう。
なら、さっさと討滅すればいいと考えるのは早計だ。
迷宮からは財宝だけでなく、様々な素材や道具、その道具を使い続けるためのエネルギー源である魔核など、有益な品々が産出される。
領内に迷宮を持つ領主たちは、安全と利益を両立するために、迷宮管理を冒険者ギルドに委託する。
冒険者ギルドは、その対価として国々の柵から解き放たれ、独立した機関として存在することを勝ち取ったのだ。
閑話休題。
迷宮の探索は順調だった。
ケンジーは、探索開始から一月経つ頃には中層に到達していた。
父親からの助言が有ったにせよ、登録したての探索者が潜れるような階層ではない。
そこには当然のごとく、他者には使えない補助魔術の存在があった。
気配感知、罠感知などの定番から始まって、休憩時に欠かせない守護結界まで何でもござれだ。
探索が捗らない訳がない。
そしてケンジーの都合のいいことに、ここまで深く潜っても、それを誰にも知られることがない。
気配感知を使えば、他の冒険者パーティーに気取られることなくどこまでも潜ることができる。
検証の点からいえば、充分な成果が得られた。
本番に向けて次の迷宮に挑んでもいいのだが…
家族との約束もある。
経験を積むという点でも有益だろう。
最深部まで行くことにする。
そんな決意を新たにした頃。
いつもとは違う場面に出くわした。




