94 邂逅
暗黒樹海の入り口では現魔王城に残っていた魔王の親衛隊と赤獅子騎士団、そして神殿騎士団が激突していた。
清田は砦の仲間をずっと思い、涙を流しながら隠れていた。
食欲もまったくわかなかったが、吉田から魔王戦に備えて絶対に食えとパンと干し肉をもらっていた。
清田は泣きながら食った。
赤獅子騎士団と魔王の親衛隊の激突は清田のアクションの合図だ。
清田は戦闘を避けて、隠してもいない強大な魔力を追った。
それがおそらく魔王のはずだ。
西、ユミは暗黒樹海の入り口での戦争に参加している。ハヤトは二人の後ろに隠れていた。
精霊魔術で戦いながら西が叫ぶ。
「星川! 清田を探して追えるか!?」
ユミは森の守り手という上級職だ。森のなかでの感知スキルはどの職業にも劣らない。
「多分! なんで?」
ユミも矢を放ちながら叫ぶ。
「ハヤトと一緒に清田を追え! アイツはバカ過ぎるから心配だ! それにハヤトはおにぎりと漬物を作ってるだろう! 届けてやれ!」
戦いになる前に三人はハヤトが作ったおにぎりと漬物を食べたのだ。
清田を探しだして合流するつもりだったが、戦闘がはじまってしまった。
「わかった! ハヤト来て!」
「おう!」
背を低くして樹海の奥に入っていく二人。西は二人に襲いかかる魔物を土の精霊術の土の槍で貫いた。
ハヤトがユミに話しかける。
「清田の位置わかるのか?」
「うん」
「追いつくか? 確かにアイツ一人で魔王に戦わせるのは心配だ。おにぎりも届けたいし」
「方法があるからやってみるね」
ユミはそういうと狙いをつけないで斜め上に矢を撃った。
◆◆◆
魔王がいる方向に入る清田。
「むっ」
なにかが飛んで来ることに気がつく。
だが自分には当たらない。少し目の前にそれは落ちるだろうと思う。
予想通り自分の数メートル目の前に矢が落ちた。
「これは星川の矢か? おそらく追いつくまで待てということだろう」
そのまま魔王のところに行こうかとも思ったが、清田はユミを待つことにした。
「清田くん」
「星川、ハヤトも一緒か!」
ハヤトは清田に包みを投げた。
「なんだこれは?」
「握り飯と漬物さ」
一瞬、清田は嬉しそうな顔をした。しかし清田はそれを突き返そうとした。
「お、おい! なんでだよ?」
「砦で時間稼ぎをしてくれた仲間が皆死んだんだ。食えない」
機密上、言ってなかったがハヤトはもう言ってもいいと判断した。
後は清田が魔王に勝つか負けるかだ。全力で戦えたほうがいいだろう。
吉田の件は黙ることにした。
「……というわけでイリース中央軍の志願者は死んじまったけどクラスメートは生きてるハズさ。でもお前が負けたら終わりだ。飯食って力出しとけ」
「ありがとう……握り飯いただかせてもらう! 漬物も!」
「なにいってるんだ。作戦上とはいえ、騙しちまってすまなかった。ところで魔王の場所はわかってるのか?」
「もんひゃいない」
清田は泣きながらおにぎりを口の中に詰め込んでいて、なにを言っているかまったくわからない。
代わりにユミが言った。
「私も……魔王だと思う魔力を感知しているんだけどまったく動かないの」
「え? どういうことだ? 戦闘が起きても?」
「うん」
「罠かもしれないな」
清田はおにぎりを口に詰め込んで、漬物をボリボリさせた。
「もう罠があっても噛み砕くだけさ。そして魔王を倒す」
三人は頷いた。
そうしなければ、民間人だらけの王都セビリダに向かっている魔王軍がそのまま残ることになる。
◆◆◆
暗黒樹海を走る三人。
途中に現れる魔物も清田とユミが一瞬で倒す。ハヤトは息を切らしながら一生懸命に走っている。
二人はハヤトのペースに合わせて慎重に進んでいたが、結局、なんの罠もなかった。
「魔王はこの先だな。星川はハヤトを守っていてくれ。俺が魔王を倒す」
ユミは頷いた。
木々が少し開けている場所にたどり着いた。
そこに一人の女性が立っていた。ハヤトでもわかる。魔王以外にない圧迫感。
魔王は背を向けて、なにやら盛り土をずっと眺めていた。
ハヤトはその悲しげな姿を見て直感的に思った。あれは墓なのだろうかと。
「お前が魔王か?」
清田が立ち止まって叫ぶと魔王はゆっくりと振り返った。
魔王の瞳は自分を殺そうとする敵ですら感心を持たない虚無だった。魔王の瞳にふさわしいと誰もが思うことだろう。
ところが魔王は清田の顔をみた瞬間、急に瞳に色を戻した。
「キ、キヨタ……?」
清田のほうもどうして俺の名を知っているのかと驚きの表情を隠せなかった。
「魔王は女だったのか」
心のどこかが目の前の少女を斬ることを拒否する。
だが二人は人間の勇者と魔族の王だった。
戦う定は避けられない。
9月29日に異世界料理バトルの3巻が発売されます!
是非、書店で手にとって見てください。
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