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異世界料理バトル  作者: 東国不動
第四章「異世界バーン秘史」
92/99

89 軍師走る

 現魔王城の玉座の間に百を超える魔族が集まっていた。

 バーン世界にいる魔族の個体のすべてである。


「魔王様、ご即位おめでとうございます」


 魔王の命令は絶対で、逆らう魔族はいない。

 それが魔族の本能だった。

 その中でも魔貴族と呼ばれる最上級の魔族がブリリアントの覚醒に祝辞を述べた。

 述べられたほうのブリリアントは気だるそうな返事をしただけだ。


「ああ」


 ブリリアントは今や幼女ではない。

 豊満な肉体に際どい衣装を来ていた。


「お前たちを集めたのは他でもない。既に人間に宣戦布告はしているのだが実際に攻める」


 魔族たちはわかっていた。

 ついに魔王は人間へ世界への侵攻をはじめるのだと。

 そしてそれを望んでいた。

 だが疑問がある。

 魔王の隣に立っているの者は人間ではないのか? 人間臭いのだ。

 だが本当に人間なのか。魔貴族たちをも超える形容できないなんらかの力を感じるのだ。

 だが一人だけ魔王の隣に立つものが人間であることを問い質した魔族がいた。

 ハリーがパートナーと言ったエキドナである。彼女は魔貴族に次ぐ上位の魔族だ。


「魔王様。その隣にいる人間はいったい? アッタモス殿はどうなされたのですか?」

「わらわの隣にいるのは大食魔帝殿。今回の人間の国への侵攻作戦の指揮をとられる」

「くっくっく。皆様、お見知り置きを」


 会場は少しざわつくが、魔王に意見を述べるものはいない。

 それでも大食魔帝はあえて言った。


「ご指摘されたように私は人間。そのため人間の弱点もよく知っています。私を使って必ずや皆様は魔王様に勝利を」


 エキドナのもとにはアッタモスの伝言を預かったコウモリが来ていた。魔王は人間と和平を望んでいるという内容だったのだ。

 それが急転直下で、人間の国に侵攻寸前になっている。

 絶対に大食魔帝の奸計に違いない。


「アッタモス殿は人間の卑怯な罠に倒れた」


 エキドナは一瞬で気づいた。

 アッタモスは大食魔帝の手によって既にこの世にいないことを。

 エキドナはこの場で大食魔帝を糾弾して攻撃を仕掛けたかったが、ハリーに侵攻作戦を伝え無くてはならないという思いから耐えた。

 まだ配下の魔物を集めろというだけで、作戦内容は聞いていない。

 ところが……。


「ところでエキドナ殿はセビリダの料理人ギルド本部の重鎮とか?」


 大食魔帝のほうから逆にエキドナに詰問が飛んだ。

 ハヤトたちが住むセビリダは人間の国の盟主イリースの王都だ。そこにある施設のメンバーであることに多くの魔族が不信を抱く。


「りょ、料理人ギルドは人間だけの組織でではない。人間に敵対的な亜人なども構成員として加わっている」


 魔族たちにはそんな理屈は通じなかったが、大食魔帝は薄く笑った。


「知っていますよ。今度の人間侵攻作戦は人間に敵対的な亜人にも参加してもらいますから。ダークエルフ、リザードマン、ウェアウルフ……」

「な?」


 ダークエルフはともかく、リザードマンやウェアウルフは魔族とも敵対的のハズだ。


「今回の作戦は人間の国の中心であるセビリダを電撃的に攻撃すること。特に神殿は徹底的に叩いていただきたい。セビリダはここ暗黒樹海からも距離が近い」


 エキドナはやられたと思った。

 イリースは東西に長い国家だ。王都セビリダは地理的に東西の中心にあるが南下すれば、すぐに暗黒樹海がある。

 ここは魔族とは親交が深いダークエルフの支配地域なのだが、その土地を現魔王城に提供した裏にいるのは大食魔帝に違いない。

 この森に魔族とその配下の魔物を集め、人間の国の中心を一気に叩くつもりだ。もちろん魔族にはそう言っているが、大食魔帝が真に叩こうとしているのは表の料理人ギルド本部だ。

 あるいはハヤトかもしれない。エキドナもハヤトが大食魔帝を苦戦たらしめたという話を聞いている。

 一部の魔族が大食魔帝に質問した。


「神殿を叩くのは神殿騎士団とかいう人間の国の騎士団を潰すためでしょうか?」


 魔族のなかには人間を個人的に調べている者もいる。裏の料理人ギルドとは情報交換している者もいた。

 質問したのはそんな魔族の一人だ。

 彼はイリースの神殿騎士団が精強であることも知っていた。


「それもあります。ただ神殿騎士団の真の強みは歴代の魔王様を倒してきた救世主たちを召喚しているからです」


 魔族も人間から救世主たちと言われる強力な戦士たちがいることは知っている。


「なるほど。セビリダの神殿か。まずはそこを叩かねばなるまい」


 会場の空気はますますエキドナに不利になってきた。戦争を止めるどころかセビリダに関係が深い自分の身も危うい。

 大食魔帝が言った。


「エキドナ殿。ワシの作戦はセビリダに電撃的に侵攻することなのだ。貴公の魔王様への忠臣を疑うわけではないが……作戦が漏れるとまずい……おい……」


 大食魔帝が声をかけるとエキドナの周りから魔族が避けていく。

 代わりに裏の料理人ギルドと親交がありそうな複数の魔族にエキドナは囲まれてしまった。

 エキドナが笑う。彼女もただの魔族ではない。機知と勇気のある魔族だった。

 エキドナは魔族の羽を生やして魔王城の玉座の間でまっすぐに跳ねた。

 いくら天井が高いとはいえ空に逃げることは出来ない。だが彼女は天井に足をつけ、蹲踞そんきょのような体勢をとって、魔族の羽を羽ばたかせた。

 風力で天井を大地にしたのだ。天井から見れば一直線に大食魔帝が見える。


「大食魔帝、覚悟!」


 天井にしゃがむエキドナがそう叫ぶと彼女の体の周囲に薄紫色の魔法陣がいくつも浮かぶ。

 そこから紫色の魔法のレーザーが無数に発生し、大食魔帝に殺到した。

 大食魔帝と通じていた魔族たちは一斉にしまったと思ったことだろう。そうでない魔族も人間ごときがアレを躱せるとは思わない。死んだと思った。

 ところがレーザーは大食魔帝に当たると雲散霧消する。


「な? どうして?」


 エキドナが疑問の声をあげると同時にブリリアントがふうと小さく溜息を吐く。

 それは魔法の詠唱でもあった。

 黒い稲妻の柱がエキドナを焼いた。エキドナは玉座の間の床に落ちた。深刻なダメージを負ったようで動けないようだ。

 ブリリアントはかつての幼女ではない。今や強大な魔王に成長した。

 大食魔帝の息がかかった魔族がエキドナに攻撃をしかけようとする。


「いい!」


 ブリリアントが叫んだ。


「命を取る必要はない。魔力封じの結界を張った牢に繋いでおけ」


 大食魔帝に従っている魔族も魔王の命令は絶対である。

 エキドナは城の地下へ引きずられていった。


◆◆◆


 ハヤトがゼロ号店を開店するその日、営業時間前にもかかわらず、クラスメートの吉田がやってきた。


「おい。吉田。この店は完全予約制って言っただろう」


 ハヤトの新しい店は完全予約制で、ハヤトとユミだけですべに目が行き届くこじんまりしたカウンター中心の店だった。


「予約してきてくれ。それに今日は初開店の支度で忙しいんだ!」

「そんな場合じゃない。セビリダの街の危機だ。いやイリース王国。それどころか人間の」

「ええ? どういうことだ?」


 訳がわからなかったが、吉田の真剣さを見ると嘘とも思えなかった。


「一刻を争う。説明している時間はない。だがハヤト協力してくれ」


 ハヤトは魚を捌くのを止めて、出刃包丁を洗って、勢い良く水を弾き飛ばした。

ハヤトにとって新しい店の開店はもちろん大事だ。

 だがクラスメートの言うことも無条件に信じた。


「どうすりゃいい!」

「俺について来てくれ」


 吉田は説明せずに店を出た。

 ハヤトは店の入口に準備中の札をかけて、走る吉田に付いていった。


「どこに行くんだ!? 吉田」

「王宮だ」

「王宮? 王宮に行ってどうする」

「王宮に行って他になにをすることがある。王に会う」


 ハヤトが怒鳴り返した。


「会えるわけねえだろ」


 当たり前だ。急に王に会うなどできない。

 ハヤトたちは救世主と思われていたので王に会ったこともあった。ただし、あくまで王の方からの呼び出しで謁見が許されただけだ。

 団長や大臣をやっている先生を通せば、そのうち謁見できるかもしれないがすぐには不可能だ。


「それでも会うしかない。会わなければ王都セビリダは落ちる!」

「お、落ちる~? 陥落するとか、占領されるとか、そういう意味か?」

「そうだ」


 吉田が妄想のなかでなにかと戦っているようにも、ハヤトには思えた。

 理由を聞けば、納得できることもあるかもしれない。

 だが吉田はクラスメートだ。そいつが真剣に言うならば信じる。


「会う方法があるのか?」

「そのためにお前を連れてきたんだ」

9月29日に異世界料理バトルの3巻が発売されます!

是非、書店で手にとって見てください。

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