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異世界料理バトル  作者: 東国不動
第四章「異世界バーン秘史」
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88 魔王覚醒!?

 深夜、アッタモスの寝室にコウモリが飛んできた。


「アッタモス様、やはりあの客人。なにやら集まって密談をしているようです」

「そうか」


 アッタモスの予想通りの行動だった。

 このまま大人しくしているわけがない。

 アッタモスは執事服を来たままソファーに座って休んでいた。すぐに行動できるようにだ。


「むしろなにかボロを出してくれねば困るところだった」


 アッタモスが立って部屋から出ようとする。


「私はどうすれば」

「エキドナ殿のところに言って伝えてくれ」

「なんと?」

「お前の意見は正しかった。魔王様も人間と共存のご意向を示された、と」

「はい」


 コウモリは城の窓から月夜に羽ばたいた。

 アッタモスは音もなく廊下を走り、大食魔帝の部屋の扉の前に立った。

 大食魔帝と従者の話し声がわずかに聞こえる。


「では、魔王にはやはり無理矢理にでもこのスープを飲ませるということで」

「そうだ。我がギルドの五十人以上の子供たちの肝臓を超濃縮して作ったものだ。魔王は一瞬で覚醒する」

「しかし、どのようにこれを魔王に飲ませるのですか?」


 大食魔帝は含み笑いをした。

「くっくっく。そのための餌も来ている。ほれ、その扉の向こうに」


 アッタモスの頬を冷や汗が走った。ゆっくりとドアノブを回す。

 大食魔帝とアッタモスが対峙する。


「気がついてらしたんですね。私が餌とはどういうことでしょうか?」

「お前がここ死ぬということだ」


 アッタモスが目を見開く。


「どういうことか教えてもらってもいいでしょうか」

「死にゆくものがなにを知っても意味はあるまい」


 アッタモスの指先から黒い爪が伸びる。鋼鉄をも引き裂く爪だ。

 同時に大食魔帝の四人の部下が一斉にアッタモスに飛びかかる。だが四人が攻撃した場所にアッタモスの姿はない。

 その後ろに回りこんでいた。


「老いたとはいえ、たかが人間ごときに殺される私ではないぞ」


 従者の二人が首筋から血を噴き出して倒れる。

 残る二人がアッタモスに向き直って構えるが、魔族の本気を見て完全に飲まれていた。


「お前たちまで死ぬと雑用をするものがいなくなる。この魔族はワシが相手をしよう。下がってろ」


 大食魔帝が二、三歩とアッタモスに近づく。

 その時、大食魔帝が殺気を出しはじめた。

 アッタモスは思う。

 自分の全盛の力だったらこの化物に勝てるだろうかと。

 きっと勝てはしないだろう。

 ましてや老いた今、全く勝てる気がしない。

 思うことはブリリアントのことだけだ。

 それだけを考えて大食魔帝に特攻した。


◆◆◆


 少女が老いた執事に縋って泣き叫んでいた。


「誰じゃ! いったい、誰がやったんじゃ~!!!」

「勇者と名乗る人間がアッタモス殿と私の部下を二人切り裂き……アッタモス殿の健闘で勇者も怪我を負ったのか去っていきましたが……」


 いつものブリリアントであれば、このような嘘に騙されなかったかもしれない。

 だが、長年の親代わりを失った少女が平常心を失わずに入れるはずもなかった。


「アッタモス殿の今際の際に遺言を受け取っています。魔王様にお伝えして欲しいと……」

「爺が!?」

「ブリリアント様に覚醒されて真の魔王になって頂きたいと。そして人間を皆殺しにして仇をとって欲しいと」


 少女はまた執事の胸に縋って泣いた。


「爺! かならず仇を取るのじゃ!」


 大食魔帝が薄ら笑みを抑えてから言った。


「魔王様。この大食魔帝も協力いたしますぞ。先日言ったように人間の盟主国であるイリースを潰せば、人間を滅ぼすなど容易い」

「だ、だいしょくまてい殿。わらわは未だ魔王として覚醒しておらぬ。これでは魔族や魔物に号令を下せぬ」


 魔王の恐ろしさは本人の超絶的戦闘能力というよりも他の魔族や魔物を従える力だ。

 バーン世界の魔物は人を襲うことはあっても野生動物をそこまで変わりはしない。山や森など自然環境が豊かな場所が魔物の棲家であり、村や街に住む人間とは生息圏も違った。

 だが覚醒した魔王が率いる魔物は違う。

 組織化され、統率され、村や街を侵略する。そして積極的に人を喰い殺すのだ。

 逆に言えば、それが何年もできないブリリアントは魔王として不具であったのだ。

 エキドナなど魔王に親和的な魔族もいたが、無視するものも多かった。

 面倒をずっと見たのはアッタモスだけだった。

 それこそが現魔王城にブリリアントとアッタモスしか魔族がいない理由だ。

 大食魔帝は優しげに笑う。


「魔王様。ご心配なされるな。おい!」


 生き残った大食魔帝の部下があのスープを持ってきた。


「このスープを飲めばすぐに魔王様は覚醒して魔族を率いることができますよ」

「え? わらわが覚醒できるのか?」


 魔王は凝視しながらも飲もうとしない。


「実はだいしょくまてい……殿が、客室で休んでから爺に会って約束したんじゃ。このスープは飲まないって」


 大食魔帝がさらに優しげに微笑む。


「なにをおっしゃいますか? このスープを毎日飲めば、魔王様はきっと覚醒して他の魔族もみーんな魔王様をしたってきますぞ」

「で、でも」

「お友達もたくさんできますよ」


 本能ですら逆らっていたブリリアントが、スープの入ったお玉に手を伸ばしかける。ブリリアントは先代が消えて以来、アッタモスの他はずっと一人だったのだ。


「覚醒したら魔族や魔物にアッタモス殿の仇を討てとご命令なさればいいのです」

「う、うぁ……」

「さあ。一口だけでも」


 ブリリアントがついにお玉からスープを一口飲んでしまう。

 その瞬間、ブリリアントはなにもかもわからなくなってしまった。

 大食魔帝の従者が笑う。


「くっくっく。鍋に頭を突っ込んでまるで犬ですな」


 大食魔帝が低い声で言った。


「魔族にとっての人の肝は魔力の源。それを私が料理したのだ。耐えられまい」


 むしろ長年ほとんど食べていなかったのによく耐えたほうだと大食魔帝は思う。

 いずれにしろ魔王の覚醒ははじまっていた。

 低かった背は伸び、棒のようだった足は根本に近づくに連れ太くなっていき、平らだった胸も今や豊かな膨らみを得ていた。

 幼女が着る小さな服は破れかけている。

 ブリリアントの見た目は完全に女性になっていた。半裸で鍋にむさぼりつく姿を大食魔帝は満足気に眺めた。


「これから忙しくなるぞ。多くの魔族や魔物を従えた魔貴族をこの城に呼び出せ!」


 大食魔帝は部下に命じた。

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