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異世界料理バトル  作者: 東国不動
第四章「異世界バーン秘史」
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82 ドワーフの国へ

 翌朝早く、ハヤトたちはエルドア侯に挨拶をして城を出た。

 風の精霊の背に乗って空を飛ぶハヤトたちの目の前に、すぐに険しい山々が連なる山岳地帯が現れた。

 ハヤトが西に叫んだ。


「ひょっとしてあれがドワーフの国じゃないか?」

「そうだろうな。よし! 降りよう!」


 ドワーフは広大な山岳地帯を領土にしているが、実際にドワーフたちが住んでいる村は岩山を掘り進んだ地下にある。

 だから空を飛ぶ大きな精霊は入れなかったし、ドワーフに警戒されて攻撃される可能性もある。

 西は風の精霊を着地させる。

 ハヤトたちは山の手前で風の精霊の背中から降りて歩き始める。

 遠くの空から見ると緑もある山だったが、下から見るとドワーフの国の山々は岩山だった。


「日が出ているウチにドワーフ村を探して入れないと野宿になる。急ぐぜ」


 西が言うように目の前の山々がドワーフの支配する地域というのはわかっているが、具体的にどこにあるかはまったくわからない。

 段々と道が上り坂になっていく。

 辺りがすべて岩山の景色になった頃に三人の前に武装したドワーフが現れた。

「おい! 人間たち、なんのようだ? ここはドワーフの国だぞ」


 背丈は低いが、ガッチリとした筋肉質の体だった。肩などは皮が筋肉ではち切れそうだった。皆、髭を伸ばし放題にしている。


「タコ焼き用の鉄板を作ってもらいに来たんだ!」

「はぁ? タコ焼きの鉄板? なんだそれは!」


 ドワーフたちは持っている槍をハヤトたちのほうに向けて威嚇した。

 西がそれを見てやる気のなさそうに言った。


「タコ焼き用の鉄板っていうのは新型の武器の通名のことだ。俺たちは人間の武器商人だよ」


 ドワーフたちは納得したように槍を下げた。

 ハヤトは「おい! タコ焼き用の鉄板を武器なんかと一緒にすんじゃねえ!」と叫んでいたが、ユミがハヤトの口を後ろから押さえた。

 リーダーらしきドワーフが言った。


「武器商人か。人間はお得意様だ。でもその証拠を見せろ」


 ハヤトの口を押さえていたユミがセビリダで作った商人用のパスを見せた。

 けれどドワーフのリーダーはすぐにそれを見ることを拒否した。


「人間の身分証なんか見せられても俺たちにはわからん!」


 西とユミが困ったかのように顔を見合わせるが、ハヤトはピンと来たようだ。


「美味い食い物をあげれば、通してくれる」


 ハヤトの発言に西とユミは呆れたような顔をする。


「じょ、冗談だって。ユミ、商人用パスの他にセビリダで用意したものがあるじゃんか。あの革袋を出してよ」

「あーアレね」


 ユミはバックパックから水筒ぐらいの大きさの革袋を取り出してハヤトに渡す。

 ハヤトはそれをあけて内容物を手のひらの上に出した。

 さらさらと光る。西が納得した顔になる。


「砂金か! ドワーフに人間の通貨なんか通じないだろうしな」


 ドワーフたちはさらに納得した顔で言った。


「いや、人間の通貨でも構わないが、きんなら尚良しだ! よし。付いて来い」


 ドワーフたちは急に親切になった。


「ペースが早ければ言ってくれよ。人間は体力がないからなあ」


 そもそも人間とドワーフの関係は亜人のなかでも良好と言える。ドワーフ国の産業はなんといっても武器防具の製造なので人間はお得意様なのだ。

 ハヤトたちの話しているイリース語も普通に通じた。

 今はハヤトたちがドワーフの国に来ているが、ヒュルムの街にまでやってくる赤獅子騎士団出入りのドワーフ商人もいる。


「タコなんとかっていうのは新型なんだろ? 人間のヘボ鍛冶屋に頼んだってダメだろう」

「そうなんすよ! だからドワーフに頼もうと思って」

「ガハハハ! 兄ちゃんよくわかってんな!」

「いや~結構、道具にはこだわるほうなんですよ!」


 ハヤトとドワーフのリーダーはお互い微妙に勘違いしていたが、会話は成り立っていた。西とユミは黙々と歩くだけだ。

 ドワーフが岩肌に囲まれた行き止まりに案内する。

 西とユミは警戒態勢を取る一方で、ハヤトがのほほんと聞いた。


「なんですか? ここは?」

「ははは。兄ちゃんちょっと待ってな」


 一人のドワーフが大きな岩を弄ると岩肌が観音開きで開いていく。

 よく見ると分厚い鋼鉄の扉に岩が貼り付けてある。


「この中がドワーフの村だよ」


 岩山の一部をくり貫いて作ったドワーフの村が現れた。


「すげーなあ。こんなの掘るのどれだけかかるんだよ」


 ハヤトの感想にドワーフは笑った。


「俺たちが作ったハンマーを使えばすぐさ。もっとでかい村もあるぜ。人間が入っていい村はここだけだけどな」

「へ~」

「宿屋があそこ」


 岩壁をほった横穴が見える。中の構造は宿のようになっているのだろうか?


「他の横穴は大体みんな鍛冶屋兼住居さ。じゃあ俺たちは警らの当番だから行くぜ」

「ありがとう」


 ハヤトたちを案内したドワーフは行ってしまった。


「まずは宿屋で荷物を置いてタコ焼き用の鉄板を作ってくれそうなドワーフを探すか」

「さっきのドワーフどもの話を聞く限りじゃタコ焼き用の鉄板を作ってくれるヤツを探すのは大変そうだけどな」


 ハヤトの提案にネガティブな意見を言うのは西の習性みたいなものだ。

 二人は反応せずに宿屋に向かった。


「人間ね。商人でしょ。ただで泊まっていいわよ」

「おお、ありがとう」


 宿屋の主人はハヤトの礼の言葉に冷たく言い放った。


「別に。村からお金が出るのよ」

「ああ。なるほどそういうことですか」


 どうやらドワーフは人間の商人をかなり歓迎してるようだ。


「二階は個室になってるからどこでも好きな部屋を使いな」


 三人はそれぞれの部屋に荷物を置いて宿屋の外に集まった。

 ハヤトが疑問に思ってたことを言う。


「なあ。あの宿屋の主人だけど、なんでオネエ言葉だったんだろ?」


 西も気になっていたようだ。


「わからねえ。オカマのドワーフかもしれないな」


 ユミだけが一人キョトンとしていた。


「え? あのドワーフさんは女だと思うけど?」

「「い?」」


 ハヤトと西は驚愕する。

 宿屋の主人のドワーフは、ゴリゴリの筋肉で警らをしていたドワーフたちとなんの違いもなかった。

 そういえば……確かに髭は薄っすらとしか生えてなかったような。

ハヤトはユミに確認した。


「あれが女?」

「え? そうでしょ? 胸もあったよ」

「胸……」


 胸と言われてハヤトは考えてみる。

 そういえば確かに胸が膨らんではいたような気がする。分厚い胸筋かと思ったが、あれはオッパイだったのだ。

 ハヤトと西はドワーフの女性を可愛い幼女のように考えていた。二人は日本のファンタジー諸作品の嘘を呪った。


「ともかく鍛冶屋を探そうぜ」


 ハヤトたちは鍛冶屋を探す。といってもその辺にある横穴がすべて鍛冶屋だ。

 鍛冶屋自体を探すのはなんの問題もない。

 しかし……。


「タコ焼き用の鉄板!?」

「これこれ。これと同じようなもんで穴をもっと真ん丸にして欲しいんだ。できれば鉄はもっと厚く」

「うるせー出て行け!」


 武器防具を主に作っているドワーフの価値観ではおかしな料理器具を作るというのは、どうもプライドを損なうことになるらしい。

 今頼んでいる鍛冶屋はまだマシなほうだ。回転するハンマーが頭の間近に飛んできたこともあった。


「くそっ。全然ダメだ。取り付く島もないぜ」


 ハヤトも必死に食い下がっているのだが、ドワーフは強敵だった。

 西はそもそもやる気がなく、ユミの交渉能力は皆無だった。


「まあ、そろそろ夕飯だ。飯屋を探して、これ以上は明日にするか」

「そうしよう。ここに来るまでに精霊術を使ってるからもう疲れたぜ。山道も少し歩いたしな」


 西がハヤトの提案に賛成する。

 その時、ハヤトが急に大きな声をあげた。


「そうだ! 麺だと! 麺料理が一番うまい店に行こう」

「はあ? 麺料理? なに言ってんだお前は」


 西はまたハヤトの料理狂いがはじまったという顔をした。


「ドワーフの郷土料理は麺料理なんだ。ともかく一番美味い麺料理を出す店に行こう」


 ハヤトは村の中心広場で遊んでいるドワーフの子供に美味しい麺料理を出す店を聞いた。

 どうやら普通の幼女のようだ。多少筋肉質ではあったがゴリゴリの体もしてないし、薄っすらと髭が生えているようなこともない。


「この村ではマグマ焼きそばが有名ですっごく美味しいよ! マグマみたいに熱々のあんがかけてあるの」

「おお、あんかけ焼きそばか! 早速、行ってくるわ」

「人間のお兄さんは私にマグマ焼きそばの話をさせて自分だけで食べてくるの?」

「え、でも……いいか。よし! 奢ってやるから案内してくれ!」

「やったあ!」


 ハヤトが持ち前の適当さを発揮する。

 西とユミは亜人種の子供を勝手に連れ回して大丈夫かと言う。

 しかし、ハヤトは子供に美味い飯のことを思い出させといてそれを食わせない、そんなことは教育上よくないという謎の理屈を優先した。

 ドワーフの幼女は中央広場の奥にある大階段を更に降りていく。


「すげーな地下もあるのかよ」

「まだまだ地下に行くよ」

「うへえ」


 岩山に掘ったドワーフの村は何層にもなっているらしい。ドワーフの幼女によれば、マグマ焼きそばを出す店は最下層にあるようだ。下に行けば、下に行くほど地熱でどんどん暑くなっていった。

 既に三人は汗だくになっていた。


「おい! 暑すぎるぞ……こんななかでくっそ熱いあんかけ焼きそばなんて食うのか!?」


 ハヤトの耳にもう西の言葉は聞こえなくなっていた。

 こんなくそ暑いところで出されるマグマ焼きそばとはいったい!? にもかかわらず、幼女にすら愛される料理は只事ではない! もちろんそれを作る料理人も同じだ!

 ハヤトのクッキングスピリットは既に燃え上がっていた。

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