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異世界料理バトル  作者: 東国不動
第四章「異世界バーン秘史」
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78 タコ焼きパーティー

 西がイライラしたように吉田に言った。


「この状況でなにがたこ焼きだ」


 だが吉田は冷静に言った。


「この状況だから意味があるんだ」

「は?」

「最近ハヤト思いつめた顔してただろ?」


 赤原は吉田がたこ焼きとか言い出した時からその理由がわかっているようでニヤニヤしながら言った。

「神殿の病室に可愛い子が寝てるだろ。ハヤトは三日と開けずに見舞いに来る」


 他のクラスメートもハヤトの見舞い帰りに会っていたが、声をかけても気が付かれないほどだったようだ。


「いつものほほーんとしてるムードメーカーがガチになっちまってる。料理のことでガチになってくれるならいいんだけどな」


 赤原の解釈に吉田が頷いた。


「バーンでたこ焼きを作るのは鉄板とか食材の問題もあるだろうし、今のハヤトにはちょうどいい課題だろ?」


 西が感心する。


「なるほど。お前が関西出身なんか聞いたことなかったしな」

「もちろん嘘だ。孫子の兵法にも兵は詭道なりと書いてある」


 吉田は戦いとは欺くことだという古代の軍事理論を説いた。


「お前、嘘ばっか吐いてるのな」

「戦いではいかなることも許容されるのだ」

「お前は、いったいなにと戦ってるんだよ!」


 まあこれでいつものハヤトに戻るだろうと西は思いながら、授業を受けるために二人と聖堂に向かった。

 だが三人は忘れていた。

 ハヤトのクッキングスピリットに火がついたら大変なことになってしまうことを。


◆◆◆


 神殿の敷地を出たハヤトが真っ先に向かったのは市場だった。

 この時間になるとプロの取引は終わっていて生鮮品は少なくなっているが、情報は収集できる。

 たこ焼きとは言えば、まずはタコが無ければ話になるまい。

 イリースではタコはそれほどポピュラーな食材ではない。一方、試験に使ったようにイカはかなり使われている。

 日本ではタコよりも安いイカ足でたこ焼きを作って、実際にはそのほうが美味い場合もあるという知識も持っていたが、ハヤトのポリシーがそれを許さなかった。


――タコ焼きにはタコだ。


 ハヤトは魚屋に走る。


「あ”い”~らっしゃいらっしゃい」

「オッサン! 久しぶり!」

「今日はユミちゃんと一緒じゃねーのか?」


 卸売の魚屋のオッサンのダミ声は相変わらずだった。

 やはりこの手の業界の人が異世界も地球も同じようにダミ声になることに安心した。

 この魚屋のオッサンにはハヤトが屋台で独り立ちするときに世話になった。

 よくユミと一緒に訪問したものだ。それも遠い昔のことのようだ。


「お前、S級料理人試験に通ったらしいな」

「ああ。なんとかな」

「その上、決勝戦では汚いルール違反をする悪の料理人を倒したとか。いやー偉い! ついこないだ屋台をやってたのに偉いやつだぜ!」


 微妙に間違っているが、修正するほどではない。

 ハヤトは曖昧に笑うしかなかった。


「まあ、あんまり広めないでくれよ。恥ずかしいからよ」

「なにいってるんだ! この辺のやつはみーんな知ってるぜ!」

「マジかよ」


 ハヤトはここ最近忙しすぎて市場にあまり来れなかった。契約した食材を運送業者に運んでもらっていたのだ。

 だからそんな噂が広まってるなどまったく知らなかった。


「ユミちゃんが来てないけど、まさかハヤト。ちょっと有名になったら他の女に乗り換えたんじゃねえだろうな?」


 この魚屋のオッサンはハヤトのファンにもなってくれたようだが、それ以上にユミの大ファンだった。


「ま、まさか!」


 そもそもまだユミとはどうこうなっていない。

 ハヤトは本来の目的を聞くことにした。


「おっさん。今日もタコある?」

「タコ。珍しいもん探してるな。あるよ」


 食にうるさいハヤトですらイリースではあまりタコの話を聞かない。

 だがハヤトが屋台で売る食材を探していた時にこの魚屋にはタコがあったのを思い出したのだ。

 オッサンが魚を捌いていた包丁で木の箱を指し示した。ハヤトがこぶしよりも小さい蛸が何十匹か入っていた。


「こりゃ日本でいうところのミズダコか? にしては小さいな」


 ハヤトは早くもたこ焼きが一筋縄ではいかない予感を感じている。


「おっさんこのタコみんな買うから、ちょっと空いてる包丁とまな板貸してくれ」

「おう! 好きに使えや」


 ハヤトは早速タコの足を刺身で食べてみる。

 日本のミズダコはかなり大きくて十キロになる個体も珍しくない。そのタコ足を刺身で食べれば美味しいが、このタコは如何せん小さすぎた。足を一本丸ごと刺身にしてもタコの握りにもならなかった。


「小さすぎるし、歯ごたえが全然ねえな」


 そもそもミズダコはマダコと比べると柔らかい。


「おっさん、このタコってこれで大人なの?」

「なに言ってるんだハヤト。タコってそんなもんだろう。まあこのセビリダみたいな港がある街の人間しか食わないしな」


 ハヤトはショックで倒れそうだった。

 実際に仰向けに倒れそうな体を魚が陳列してある商品棚を手を後ろにして倒れるのを防いだ。

 もう日本で味わった酢ダコの食感が生涯味わえないかもしれない。その心の悲しみを吐露すればオペラが一曲かけそうだとハヤトは思った。

 ちなみにオペラが本当に心の悲しみの吐露であるかなどハヤトは知らない。

 ああ酢ダコよ、酢ダコよ、酢ダコよ。

 悲しんでばかりもいられない。


「オッサン。このタコって普通はどうやって食うのよ?」

「丸ごと茹でで食うに決まってるじゃねえか」


 茹でるのはここでは無理だとハヤトは判断した。

 ハヤトはカネを投げるように払ってタコの入った木箱を自分の店に担いでいった。


◆◆◆


 ハヤトの店ではガーランドが半泣きだった。


「開店間際なのに店長が来ない」


 ユミが少しだけ心配した声でいう。


「うーん。今日はブラックアイスのお見舞いに神殿に行ったからクラスの誰かに見つかって立ち話でもしてるじゃないかな?」


 ガーランドは料理狂のハヤトが開店間際まで雑談をするはずがないとは思う。

 可能性があるのは本当に不測の事態か……もしくは。


――店長はまた料理のことでおかしなことを言ってくるんじゃないだろうか。


 これまで、ハヤトがラーメンを作るとか試験を受けるとか新しいメニューを作るとか言い出す度に、ガーランドにしわ寄せが来ていたのだ。

 ただでさえハヤトの店は過酷な重労働なのだ。給料はどんどん跳ね上がっていくが、使う暇は一切なかった。

 気楽な冒険者に戻ろうかなと考えている時にハヤトが店にやってきた。


「あ、ハヤト。遅かったじゃない? なーにその木箱」

「タコだ」

「タコ? ウチにタコを使うメニューないよね。季節の新メニュー?」


 ガーランドは絶望した。また店を俺に任せっきりで新メニュー開発に勤しむつもりなのかと。

 でも今はチキータさんもいるから少しは楽かなと思った時だった。


「クラスの連中とタコ焼きパーティーをするんだ」

「えーホント? 楽しみ!」


 ガーランドはクラスの連中と聞いてゾッとした。

 ここがクラスの連中の会場に使われる度に散々な目にあう。だが、店のメニュー開発じゃないだけマシか。


「というわけで俺はしばらくタコ焼きの研究開発に入る。店はユミとチキータとガーランドのオッサンでなんとか回してくれ」

「はーい」


 ガーランドはもうどうにでもなれと覚悟を決めざるを得なかった。

 ユミの最後の提案を聞くまでは。


「タコ焼きパーティーには先生も呼んであげようよ」

「ああ、そうだな」


◆◆◆


「こりゃミズダコっていうよりイイダコの大きさ」


 ハヤトは厨房で茹でたタコを見てつぶやいた。

 こぶしより少し小さなタコは身がしまって更に小さくなってしまった。

 ピンポン球にひょろひょろと足がついている。そんな大きさだ。

 丸ごと口に入れてみる。


「美味いけど……柔らかいな。それに丸ごとタコ焼きに入れるわけにもいかない。やはり歯ごたえのある足だ」


 イイダコのタコ焼きもあるが、プリンプリンの足を使うのがタコ焼きの王道だろうとハヤトは思う。

 チキータが下ごしらえの野菜を切る手を休めて近くにやってきた。


「なんか新しいメニューを作るとか聞いたけどなにやってるの?」


 ハヤトは噛みごたえのあるタコの足が新メニューに必要なことを話した。


「噛みごたえのあるタコかあ。あ、あれってタコかなあ」

「思いあたることがあるのか?」

「海竜のバルバロッサくんがオクトーンっていうタコの魔物に絡みつかれたから食い返したって言ってたよ。なかなか美味しかったって」

「オクトーン?」

「人間の商船を襲ったりもするらしいよ。バルバロッサくんはまだ子供で小さいから間違えられたのかな? ちょっちょっとハヤトどこ行くの?」


 ハヤトはそれを聞くなり、市街の冒険者ギルドに走った。

 以前、訪問した時と同じ様に、冒険者ギルドでは相変わらずやる気のない受付嬢が爪を磨いてた。


「おねえさん!」

「ん? あー君はこないだの! えっとハヤトくん!」

「俺の名前、知ってたの?」

「冒険者ギルドは噂のたまり場だからね。あの時、キングフロッグを探していた少年が悪魔料理人を倒して伝説の超料理人になったって聞いたわ」


 この冒険者ギルドにたまっている噂は半分以上間違っている気がしたが、今はそんなものを修正する時間はない。


「冒険者ギルドには船を襲う魔物の討伐依頼とかもある?」

「もちろんあるわよ~!」

「ビンゴオオオオ!」


ハヤトは興奮しながら聞いた。


「オクトーンもある?」

「オクトーン退治なんて滅多にないんだけどねぇ。ちょうど今、商船ギルドから報酬が出たからいくつかの冒険者チームがオクトーン退治をしてるわよ」

「おねーさん。退治したオクトーンの肉なんだけどグラム千イェンでもいいから買うって伝えてくれないかな?」


 グラムとは百グラムのことだ。百グラム千イェンとは日本で言えば高級和牛にあたる。

 おねーさんはポカンとした顔で言った。


「オクトーンはでかいからグラム千イェンなんかで勝ったらかなり値が張るわよ」

「料理の開発研究費はケチらないことにしているんです」


 ハヤトは受付嬢に顔を近づけた。

 目から炎が出るようなハヤトの迫力に押されてギルドの受付嬢は首を縦に振った。


「わ、わかったわ。じゃあオクトーンが手に入ったら……あなたの店に連絡するわね」

「ありがとうございます! じゃあ他にもやることがあるんで」


 ハヤトは冒険者ギルドから飛び出し、鍛冶屋に走る。もちろんタコ焼きの用の鉄板を作ってもらうためだ。

また三日後ぐらいにお会いしましょう。

新作もよろしくお願いします!

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