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異世界料理バトル  作者: 東国不動
第一章「炎の転移編」
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08 本日のお客様「勇者」

新章はじまりました。

ここまで読み支えてくださって本当にありがとうございます。



 バーン世界の食堂やレストランと言えば、どんなものがあるのだろうか。

 そもそもこの世界は魔法があっても科学技術レベルは中世並だった。もちろん電化製品や車などはない。

 食材の保存や流通においてはハヤトたちが元いた日本からは大きく劣っている。

 だから大衆的な食堂は、その日仕入れることのできた食材で料理を作るしかない。

それに地域性などが加わることになる。たとえばハヤトのいるイリース国ならば、パンやオートミール、特産のハム、チーズやワインなどの腐りにくい食材は常に置いてある。後はその日仕入れることができた食材を料理して供されるといった具合だ。

 つまり、日本のようにあらかじめ出せるメニューをリスト化している店は大衆店にはない。

 ハヤトの場合はイリースふうのその日仕入れた食材でできる料理も出すが、日本のように常に出せるメニューも工夫して作るつもりである。言わばイリースのスタイルと日本のスタイルのハイブリッドである。

 ちなみにバーン世界の高級なレストランがどうなっているかというと、専門の食材ハンターや冒険者から魔物やレアな食材を調達して料理するというスタイルが多い。

 たとえば、ドラゴンステーキなどは高級料理としてあまりにも有名である。それを食べるために要する危険は比べ物にならないが、日本でいうところのジビエ料理に近いかもしれない。

 当然このような高級レストランは、豪商や王侯貴族のような金持ちしか利用できなかった。


◆◆◆

「看板にもう少し角度つけられないっすか?」

 ハヤトは自分の店の工事に指示を出していた。首都セビリダのメインストリートにある神殿から遠くない場所にあるので、人通りが多いかわりテナント代は安くない。高級店というわけでもないので常に客が入らないと経営が厳しくなる。内装工事の段階から気合が入った。

 イリースでは店に固有の名前を付けないのが一般的である。看板はあっても食堂は食堂だ。ハヤトはその慣例に乗っ取って看板に食堂という意味の文字を大きく書いた。

 しかし看板の右下にはデザインされたKindlyという英文字がごく小さく書いてあった。これが店の本当の名前である。

 優しいとか思いやりのあるという意味の言葉。そう優美ユミの優からとった名前だ。

 これは誰にも教えていない。なぜなら恥ずかしいからだ。

 ハヤトは異世界で誰よりもユミに親しみを感じているのだ。最近は少し怖れてもいるが。

「この角度でいいかい?」

「オッケー! オッケーっす!」

 ついにハヤトの店『Kindly』は完成した。

「異世界に来て苦節数ヶ月。召喚のときは糞味噌に言われ、なぜか殴られてばかりいるが、ついに俺の城が……」

 ハヤトの目から熱い涙がこぼれそうになる。

「ほお。なかなか立派なものだな。と伝えろ」

「はっ。なかなか立派なものだな」

 おい。まさか? 振り向くと黒装束の女と鎧を着た騎士がいた。

「ぎゃああああああ! お、お前ら!」

 今度はハヤトの目から本当に涙がこぼれた。

「た、頼む。店はできたばかりなんだ。壊さないでくれ!」

「なんでお前の店を壊さないといけないんだ。そんなことするか」

 黒装束のお嬢様が騎士を通さないで直接ハヤトに言った。ハヤトはその意味を考える。

「わ、わかった。お前たちの正体は……」

「な、なにっ。私の正体だと!?」

 黒装束の女は動揺している。その様子を見てハヤトは確信を深めた。

「ヤクザだろ! お前たちは異世界ヤクザなんだ! こうやって新しい店ができると守ってやるからショバ代払えとか言ってカネを奪うつもりだな」

「ば、バカバカしい。最近お前が屋台を出していないから噂を聞いてきただけだ。ルーク」

 お嬢様がそう言うと護衛の騎士は後ろ手に持っていた花束をハヤトに渡そうとする。ハヤトは放心した声で言った。

「へ? 花か……」

 ハヤトが心ここにあらずといった様子で花に手をのばそうとすると。

「あ、いや。ルーク……私から渡そう」

 お嬢様はルークから花束を受け取り、あらためてハヤトのほうを向き花束を差し出す。

「開店おめでとう」

「あ、あぁ……」

 ハヤトはそう言えば、この黒装束のお嬢様が売れない屋台の最初の客だったことを思い出す。いつも文句ばかり言ってくる客だったが、この客のおかげで店を構えることができたんだよな。

 その思いがハヤトを油断させた。花束を受け取るときについ手が触れてしまう。

「キャアアアアアァ! またお兄ちゃん以外の男に触られたあ!」

 花束で往復ビンタをされたのは言うまでもない。

 こうしてハヤトの店は開店した。ユミはまた団長と交渉して実践訓練の休みを取り、その間ハヤトの店を手伝った。

 屋台の常連が全員来てくれて、クラスメートも黒装束のお嬢様も毎日のように来てくれる。

 店は順調なスタートだった。


◆◆◆

 ハヤトが食堂をはじめたころ、イリース国の料理人ギルド本部に各国の料理人ギルドの長老や有名シェフが集まっていた。数は二十人ほど。最高幹部たちである。

『料理人ギルド』は料理人の同業者組合だ。バーン世界で有名なギルドといえば『冒険者ギルド』だが、料理人も食材の仕入れや技能の継承、同業者の客の取り合いに対しての共通ルール作りなどの事案があるため組合が発達した。

 また料理は食、つまり命に関わっている。高い倫理観を持って業に当たらなければならないというのが、バーン世界の真っ当な料理人の考えだった。

 しかし、光があれば影もあり、表があれば裏もあるのが世の摂理である。バーン世界には真っ当な料理人とは異質な考えを持つ料理人もいた。裏料理人と言われる者たちだ。

 今日もバーン世界の食を守るための会議が幹部たちによって開かれていた。

大食魔帝ダイショクマテイが裏料理人ギルドを仕切って以来、裏料理人はますます増えている。これは由々しき事態だ」

「人数は関係ない。結局バーン八厨士が何人いるかで決まる。勢力は表が五人、裏が三人だ。我々が有利」

「どうかな。裏は新しい魔王と繋がっていると聞くぞ」

「なんと? 本当か。エキドナ殿」

 表の料理人ギルドの集会に参加していたエキドナと呼ばれた女性はとても美しかった。しかし彼女は頭に角を持ち、背中にはコウモリのような翼が生えている。つまり魔族であった。

「新しい魔王様は……そうですね。奸計をろうするというお方ではございませんわ。それに魔王様など我々にとって大した脅威ではありません。そうでしょう?」

「それは確かにそうだ。魔王を放っておいても最悪人類が滅びるぐらい。しかし、我々表の料理人が負ければバーン世界は……」

「最近、バーン世界のあちこちで地震が起きているしな」

「やはり創世神様に御供を捧げる時期が近づいているのかもしれぬ」

 幹部たちの懸念は裏料理人の台頭だけではない。バーン世界を創造したという伝説を持つ神にまで話が及んだ。なぜ料理人の同業者組合がそのような大きなことに頭を悩ませているかは、バーン世界の秘密に関わっている。

 エキドナは妖艶に笑って言った。

「ハリーさん」

「はい。なんでしょう?」

 エキドナが話しかけたハリーとは、ハヤトたちを召喚した神殿の食堂の料理長に他ならない。

「この間、面白い少年がアナタの食堂に入ってきたと言っていましたね」

「ああ、ハイ。裏料理人の精鋭との料理バトルも彼なら戦えるかもしれません」

 料理人ギルドの最高幹部たちは色めき立つ。

「おお! ハリー、本当か。その少年とやらは今なにをしているのだ?」

「最近、大衆食堂を開きました」

「えええええええ! ダメじゃん! なんで魔物料理とかレア食材の高級店をやらせないのよ」

 どこの世界でもそうなのかもしれないが、一級の料理は高級食材を使った高級料理という発想があった。実際に料理バトルにおいてはそのような料理で戦われることが多い。エキドナはまた笑って言った。

「まあまあ皆さん。ハリーさんにはお考えがあるんでしょう。実際に今は、ハリーさんの食堂で基本を学んだ料理人が裏料理人の精鋭に対抗しているというのが現状です」

「そ、そうだな。ハリー以外のところは後進が伸び悩んでいるのも事実だ。その少年に期待しようではないか」

 最高幹部たちも魔族で美人のエキドナには弱いらしい。

「ええ。彼は魔王を倒すための救世主として神殿に召喚された少年なんですが、きっと私たち料理人の苦境も助けてくれると私は信じていますよ」


◆◆◆

「へっくしょん」

 今日はもう閉店して、洗い物をしていたハヤトが盛大なくしゃみをした。

「大丈夫!? 開店で疲れたんじゃないの。風邪?」

「いや、そんなことないと思うんだけどなあ。誰かが俺を噂したのかも」

 ユミの心配にハヤトが答える。

「体温計もないからわからないしな」

「私が調べてあげるよ……」

 ユミはそういうと自分の前髪とハヤトの前髪をかき上げて、おでことおでこを合わせる。

「お、おい。ユミ。もういいよ。大丈夫だって」

「ダメ。まだわからない。わかんないよ。もっと……」

 ハヤトは心拍数が上がって顔が上気してきた。

「やっぱりあるかもしれない……」

「なら横にならないとね……体も温めたほうがいいかも……」

 カランカランカラ~ン!

 クローズという札が下げてあるにもかかわらず、店のドアが開いた。

「いや~夜に修業したら腹が減ってしまってなあ。なにか出せるものはないか。アハハハ」

 いつも最悪のタイミングであらわれる清田だった。その瞬間、清田の額には矢が突き刺さっていた。

「ぎゃああああ。回復の魔法が使える神官の適職どこだあああ。ヒーリングプリーズうううう」

 清田はもんどり打って店を飛び出した。

「あ、あそこまでしなくても。死んじゃったらどうする」

「清田が死ぬ? せばなしたっちょ?」

 ユミはクールな美少女に戻り、冷たい目をして言った。

 ハヤトは秋田弁が段々わかってきた。「清田が死ぬ? それがどうかしたの?」と言ったのだろう。

秋田弁解説コーナー

「せばなしたっちょ?」→「それがなにか?」


日刊一位という奇跡も起きました。

引き続きに成りますが応援よろしくお願いします。

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