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異世界料理バトル  作者: 東国不動
第三章「風雲の料理人ギルドランク試験編」
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75 致命の一撃

 大食魔帝がウニを食べきる。

 戦いがはじまってからどんどん顔色を悪くしていた大食魔帝が笑った。

「ははは。ウニとは美味い寿司だな。だがワシが勝ったぞ! 小僧!」

「な、なに?」

「惜しかったな! あるいはお前の寿司のほうが勝っていたかもしれん! だが右手を見てみろ!」

「くっ! しまった!」

 ハヤトは首筋から嫌な汗が出るのを感じる。

「おそらくウニの殻を割る際に力が入ったのだろう。傷口が開いたんだな」

 ハヤトの右手の包帯から血が滲んでいた。

「お前が自分で食べたウニの寿司は、そんな味はしなかったかもしれない。だがワシに出されたウニにはホンの少し、本当にホンの少しだけだが、磯の香りのなかに血の匂いが混じっていたぞ」

 ハヤトももちろん気をつけていた。それに寿司の握りは、利き手の右手は人差し指と中指の腹を使う。

だから大丈夫なハズだった。

「くそ……ブラックアイスがあんなにも一生懸命に俺に料理を教えてくれたのに……」

 ブラックアイスによる料理修行はハヤトの実力を飛躍的に向上させた。

「……俺はなんてバカ野郎なんだっ!」

 しかし、連日連夜に及ぶ厳しい料理修行や出血は、ここに来てハヤトの集中力をわずかに奪っていた。

 ハヤトは負けを覚悟する。

 そして大食魔帝は勝ち誇ったように口のなかに残ったウニの寿司を咀嚼する。

 ハヤトと大食魔帝の左手の甲にある〝対決〟という意味の文字が光る。

「ははは! これでワシの腕が上がり、勝利が決まるのだ!」

 ハヤトは知らなかったが、『真料理バトル』が終わると勝者は〝対決〟の文字が〝勝者〟いういう意味の文字に変わり、左腕がボクシングのように自然に上がる。

 ハヤトは腕も頭も下がったままだ。上がろうとする気配はない。

 当然だと大食魔帝は思う。なぜなら自分の腕が上がるに決まっているのだから。この超絶レベルの料理対決の場でかすかにでも血の匂いがするウニの寿司を食わせたハヤトが勝つわけがない。

 大食魔帝はハヤトの命を奪わずに、なんでも従う奴隷として表のギルドと戦う尖兵にしようと考えていた。

 そして、その前に必ず命乞いをさせてやる。

 ……。

 ハヤトの腕は上がる様子はない。

 だから勝ったワシの腕は上がる! と大食魔帝は信じてきっていた。

 けれども大食魔帝の腕も上がらなかった。

 今までの『真料理バトル』で左手の甲にある文字が光ってから数十秒も腕が上がらないことなどあっただろうか?

「こ、こうなったら!」

 大食魔帝は自らの力で腕を掲げようとした。

「あ、上がらぬ!? そんなバカな!!??」

 まるで腕の上げ方を忘れてしまったかのように大食魔帝は左腕を上げることができなかった。

 頭を下げて負けを覚悟していたハヤトもここにきて異常に気が付きはじめた。

 会場もざわつきはじめている。

「バカな、小僧の腕は上がってないのだからワシの勝ちのはず」

 けれども大食魔帝の腕もまた上がらない。

 確かに小僧の寿司は凄まじかった……だが、ワシの寿司のほうが醤油は優れている。ウニの寿司などという変わりダネも美味かったが、かすかに血の匂いが香った! そこらの料理人にはわかるまい。だがワシにはわかったのだ! と、叫びそうになる。

「ワシの左手の甲には今、神代の文字で〝勝利〟と光っているハズ……」

 大食魔帝は自分で言いながら気がついた。

 左腕を天に掲げることはできなくても、時計を見るように左手の甲を顔の前に持っていくことは簡単にできた。

 そこはバーン世界の神代の文字で〝対決〟でも〝勝利〟〝敗北〟でもない言葉が書いてある。

 大食魔帝の脳が馴れない文字を検索して読む前に、意味を感づきはじめたまさにその瞬間! 会場で誰かが叫んだ。

「 引 き 分 け だ ~ !」

 大食魔帝はハヤトの目が見開いたのを見た。

 だが、自分の目も見開いていることに気がつく。

 そんなバカな。

 奴の醤油はワシがずっと前に作った醤油に数段劣る。

 そんなバカな。

 奴の変わりダネはかすかに、かすかにだが、確かに血が香った。

 そんなバカな。

 ワシは大食魔帝だぞ!

 それほどの有利がありながらワシの寿司は、小僧の寿司と互角だとでも言うのか?

 しかし、大食魔帝は血の匂いがついた寿司が一握りあったとしても、心の奥底ではハヤトの寿司を自分の寿司と互角と認めたのだ。

 なぜなら神によって裁かれる料理対決によって大食魔帝の左手の甲の文字も〝引き分け〟と光り続けているのだから。

大食魔帝編も架橋にはいったので夜にも更新します!

19~21時ぐらいです。

新作もよろしくお願いします、

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