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異世界料理バトル  作者: 東国不動
第三章「風雲の料理人ギルドランク試験編」
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68 ユミのサポート

 ブラックアイスとハヤトは試験がはじまる日の未明もラーメン屋にいた。

 ハヤトはブラックアイスの指導で急速に料理の技術を磨いていった。


「こ、この……野菜炒めなら……どうだ?」


 朝になればブラックアイスもハヤトも試験会場にいかなければならない。

 ハヤトはブラックアイスから最後の課題を受けていた。

 野菜炒めを作ってはダメ出しされ、作ってはダメ出しをされている。

 それでもハヤトは技術が急速に上がる充実感を覚えていた。


「うん……野菜の切り方も火の通し方も……ギリギリ合格点だ」

「うぉしやぁぁぁあああああああああっ! やっとだよ!」

「喜ぶな。ギリギリだ。裏にはこの程度の野菜炒めを作る奴はゴロゴロいるぞ! 学んだことを忘れずに磨けよ」

「マジかよ……やってることは滅茶苦茶だけどやっぱ裏って料理は凄いんだな」

「まあ、とはいえだ。私が十数年かけて学んだ裏の技を二日でとよくここまで身につけたな。それに……」

「それに?」

「それに……お前の野菜炒めは裏のギルドで試食を繰り返したものよりなんだか暖かい味だよ。やはり料理は技だけではないらしい」


 ブラックアイスはそう言って笑った。

 ハヤトはなにか言おうとしたが、その笑顔があまりにも純粋に見えて固まってしまった。


「どうかした?」

「い、いや別に……」

「さて、もう少ししたら夜が明ける時間だろう。私は試験があるから帰って少しだけ寝る」

「あ~そうだよな。俺もお前も二日間ほとんど寝てないし。お前なんか試験まであるのにありがとな。俺も帰って少し寝るか」

「ダメだ」

「え!?」

「お前はただの判定員だろ。試験がはじまるまで技を忘れないようにここで反復しろ」

「お前って料理のことになると厳しすぎるぜ……でもいいぜ。詳しい事情をよくわかんねーけどそれがアイスティアのためだもんな」

「そうだ」


 もちろんハヤトはアイスティアだけでなく、この二日間まさに骨身を削って自分に料理を教えてくれた女の子も助けたいと思っている。

 そう思うと料理にも力が入った。野菜が鮮やかに切られていく。合格を貰った時よりも素晴らしい野菜炒めができそうだった。

 その野菜に火にかけて炒めだした頃。


「じゃあ、私は行くから」

「ああ。試験会場でな」

「うん」


 少女は鍋を振るうハヤトの背に別れの挨拶をして店から出て行った。

 ブラックアイスが外に出ると空の闇はわずかに白んでいた。

 雲ひとつなく快晴になりそうだ。


「あ」


 ラーメン屋の前に黒髪の美しい少女がいた。

 ブラックアイスはそれが誰かすぐにわかった。

 彼女はアイスティアからその少女の黒髪の美しさについてはよく聞いていたからだ。


「あ、あの……私……隠密が得意でハヤトが心配で後をつけていたんだけど……そ、そのなんていうか……ありがとう」


 なるほど性格においてもアイスティア様の言うとおりだなと少女は思う。


「い、いや、良いんだ。私もお前に会おうとしていた」

「え?」

「これを……」


 ブラックアイスは懐から封筒を取り出してユミに渡す。


「これは手紙?」


 ユミが封筒を開けようとする。


「待ってくれ。お前に頼んでいいものかと迷ったが、その手紙はハヤト宛なんだ」

「え?」

「今は開けないでくれ。もし、私が……ハヤトに……」


◆◆◆


「あ、あれ? ここは?」


 ハヤトが目を覚ますと目の前には切りまくった野菜や包丁や鍋が散乱していた。

 料理バカのハヤトは試作品作りや仕込みなどに熱中してしまい体力を使い果たして、たまに店の厨房で寝てしまうことかある。

 そういう時は決まってユミが優しく起こしてくれて家まで帰るのだ。

 厨房で寝ちまったのかな?

 ユミはなんで起こしてくれなかったんだろう?

 あれ、しかも『Kindly』じゃなくてラーメン屋の厨房だぞ。


「俺、なにしてたんだっけ? 確か……」


 自分が切った大量の野菜を見る。


「ああ、アイツから裏の技を教えてもらっていたんだ。すげえ切り口だ。本当に俺が切ったのか」


 料理人として自分の技術の向上に、ハヤトは驚きと昂奮を隠し切れない。

 窓からは晴れ晴れとした青い空と太陽が見えて、まるで自分を祝福しているように思えた。


「そうだ試合! 今何時だ!?」


 もう既に太陽は中天から傾いていた。

 自分があの後、疲れきって厨房で寝てしまったことにやっと気がつく。

 ハヤトは慌ててセビリダの料理人ギルドに走った。

 走りながらユミはどうして起こしに来てくれなかったんだろうかと考える。


「そもそも俺がラーメン屋に来ていることなど知らないか」


 ギルドに着くと、受付嬢に目で挨拶して素通りして闘厨場に向かった。


「す、すいません。遅れました」

「遅いぞ! ハヤトくん」


 ハヤトを出迎えて叱ったのはハリーだった。


「判定人も朝に来るように伝えていたでしょう。失格になりますよ」

「し、失格ですか?」


 恐る恐る聞いてみる。


「いや、君と同居しているホシカワくんが少しだけ熱っぽいから遅れると教えてくれたので特例で許しましたよ。 もう大丈夫ですか?」

「え? ユミがここに来たんですか?」

「知らないのですか? 今日はチキータさんの助手をやると。トキダさんって子と一緒にね」


 ユミがチキータの助手をやっている? ハヤトは驚いた。

 そんな話は一切聞いていない。


「ハヤトくん。本当に体調は大丈夫ですか?」

「あ、あぁ。はい。大丈夫です」


 ハヤトはハリーに挨拶して闘厨場の観戦席に座った。

 もうそろそろ試食の時間になりそうだった。

 すると時田がやって来た。


「はーい! 葛城くん。体はもう大丈夫?」

「ああ、時田。大丈夫だよ。お前もチキータの助手をしているって聞いて驚いたよ」

「うん。なんか納豆の発酵とか鯵の干物の天日干しを作るのに時間を進めて欲しいって頼まれちゃってさ。それだけしたらお払い箱ってわけ」

「そうだったのか」

「美味しいものが食べられるっていうから来たのに朝食対決なんて詐欺だよ~」


 ハヤトは起きてからなにも食べてなかったので朝食対決はありがたい。


「ただの朝食じゃないと思うぜ……」

「まあそうらしいね。対戦者のブラックアイスって人の料理って凄いんでしょ。観戦席にいる料理人たちもみんな噂をしてるもん。チキータさんを手伝っている私にも聞こえるぐらいだから凄いんでしょうね」

「いや……チキータどころかユミもただ事じゃない気迫だ。きっと凄い料理が出てくるに違いない」


 ハヤトはブラックアイスとチキータのみならず、料理を手伝うユミにもクッキングスピリットを感じていた。

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