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異世界料理バトル  作者: 東国不動
第三章「風雲の料理人ギルドランク試験編」
70/99

67 裏技伝授

第二巻、好評発売中です!

「……名前がないだって? ブラックアイスというのは?」

「試験で使っているだけだ。裏のギルドではアイスティア様の影としてアイスと呼ばれることもあるが」


 ブラックアイスはそれをごく当たり前のように話した。


「マジかよ……」


 ハヤトはやるせない気持ちでいっぱいになっている。


「どうしたんだ? そんな顔するなよ」

「なんでだよ! 理不尽だろ?」


 二人は抱き合った状態で見つめ合い、少しだけ沈黙する。


「今はお前の言うこともなんとなくわかるよ。でもアイスティア様の影になったことは私にとって幸せだったんだ」


 ハヤトは絶句する。

 しかし、あることに気がつく。

 ハヤトはブラックアイスから料理の奥義について聞かれた時に誰かのために作ればいいと教えたことがあった。それが誰かについても聞いた。裏のギルドにいる女性らしい。


「ひょっとして、お前にとって料理を作ってあげたい〝誰か〟ってアイスティアのことか?」

「そうだ。だから私はアイスティア様の影になれたことは嬉しかった」


 そういうことだったのかとハヤトは思う。ブラックアイスとアイスティアの関係はそれこそ姉妹のようなものかもしれない。

 けれどブラックアイスはどうして裏のギルドを否定しはじめたのだろうか。

 ブラックアイスが裏の技をハヤトに教えるというのは裏のギルドに対しての裏切り行為そのものではないのかと思うのだ。


「どうして俺に料理の技を教えてくれるんだ?」

「頼みたいことがある。お前にしか頼めない」

「頼みたいこと? 俺にしか頼めない?」


 ブラックアイスの目がじっとハヤトの目を見つめてくる。


「お前に強くなって……アイスティア様を守って欲しいんだ」

「え?」


 どうしてそんなことを頼むのか。

 アイスティアに危険が迫っているとでもいうのか。

 大食魔帝の娘として影を付けられるほど大切にされているのではないだろうか。

 ハヤトはそんな疑問を持ったが、ブラックアイスは違うことを答えた。


「ラーメンを食べてわかった。アイスティア様のことは、お前に頼む以外にはない」


 このラーメンはアイスティアと二人で作ったものだ。

 ブラックアイスがアイスティアのことを頼むなら、もちろん請け負う。


「確かにアイツにはでかい借りがあるからな」

「そ、そうじゃないよ。味で確信したんだが、きっとアイスティア様はお前のことが……」

「わかった! 事情はわかんねーけど、アイツのためならなんでもするぜ。だから安心しろよ」


 ハヤトはブラックアイスに笑いかける。

 詳しい事情はわからなくても裏のギルドからアイスティアを救うことを即座に決心する。

 口には出さないが、もちろんブラックアイスも救うつもりだった。

 それがハヤトだった。


「まったく……アイスティア様からお前のことは聞いていたが、本当に人の話を聞かない奴だな」


 ハヤトの顔を見上げていたブラックアイスは顔を赤くして、胸に顔を押し付けた。


「な、なんだよ?」

「これがアイスティア様の気持ちか……」

「は、はぁ? 意味がわからん」


 ブラックアイスは急にハヤトから手を離すと、キリッとした鋭い目でハヤトを睨みつける。


「調子に乗るな! お前ごときの腕でアイスティア様を救えるか!」


 その上、一発、拳骨をもらってしまう。


「え? えええええ!?」

「私の手助けを借りずに野菜を切ってみろ。覚えていなかったら今度はフライパンでぶつからな!」


 ブラックアイスがフライパンを振り上げる。


「ちょっ、ちょっと」

「早くしろ。十年以上かかって学んだものを二日で教えなくてはならないんだ」

 ◆◆◆


 深夜、ユミとチキータを起こさないように、魔法灯の明かりを点けないでハヤトはそーっと玄関のドアを開けようとする。


「ハヤト……? どこに行くの?」


 ダメだった。ユミは『森の守り手』というレアな適職で、感知スキルにすぐれている。

 別の部屋で寝ているとはいえ、『料理人』のハヤトがユミに感づかれないように出て行くのは至難の業だった。

 ハヤトは魔法灯を点けて言い訳をした。


「あ、ちょっとね。ラーメン屋にさ。いつでも開店できるようにしておくのが料理人の……」

「うん。わかるよ……なんだか顔がアザだらけだし……まあそれは珍しいことでもないけど……」


 ハヤトがもっとボロボロになっていることも珍しくはない。


「あははは。そうそう、よくあることだろ?」

「でもこないだみたいなこともあるし……心配で……」


 ユミも裏の料理人ギルドの関係で、ハヤトが怪我をしたことは知っている。

 だから今の状況をユミに話すことは難しい。

 それに正確に言えば、アイスティアの身がどうして危なくて、なぜ自分の料理の腕があがることが、彼女を守ることに近づくのかはよくわからない。

 あまり話を聞かずにブラックアイスに約束してしまっただけだ。


「い、いや……大丈夫だよ」


 ハヤトは嘘を吐くのも得意じゃない。ましてやユミに嘘など吐きたくない。

 ただ下を向いてゴニョゴニョと言うことしかできなかった。

 止められるかなとハヤトは顔をあげる。

 ところが……魔法灯に照らされたユミの顔は笑っていた。


「うん。心配はしてるけど信じてるよ。いってらっしゃい。気をつけてね」

「あ、あぁ! ありがとう! いってくるよ!」


 ハヤトは走ってラーメン屋を目指した。


「遅いぞ!」

「すまん!」

「裏の技を後一日で教えないといけないんだからな。さあ次は鍋をふるぞ!」

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