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異世界料理バトル  作者: 東国不動
第三章「風雲の料理人ギルドランク試験編」
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64 意外な訪問者

 Aリーグの最終戦はハヤトの勝利で終わった。

 S級料理人試験の運営からBリーグの最終戦は三日後と伝えられた。

 ブラックアイスが戦うBリーグはさらに注目が集まっているために日を空けたのだろう。

 対戦者であるチキータとブラックアイスは話し合って対戦の条件を決めているようだった。

 ハヤトはチキータと一緒に帰るために西と彼女を持っていたのだが、その間に様々な幹部から〝誘い〟を受けることになった。


「ハヤト殿、是非ウチのチェーンに参加しないか? 君になら総料理長を任せてもいい。いや、是非任せたい」

「ありがたいんですけど……小さな店をやっているんで」

「なら君の店をウチのチェーンにしないか? その上で総料理長になってくれれば……」

「今のところこじんまりできればいいと思っているので」

「そうか残念だ。気が変わったら連絡してくれ」


 列を成していた幹部達もハヤトの素っ気ない対応に去って行く。

 西がうんざりしたように言った。


「まだS級料理人になっていなくても、最後まで生き残るとこんな調子なんだな。S級料理人を舐めてたよ」

「俺も驚いたよ。参ったぜ……」


 二人がそんなことを話していると、いつの間にかビッテンが近くに来ていた。


「いや、まだ準決勝でスカウトの列ができるのは聞いたことがないよ」

「あっビッテンさん」

「ユッケビビンバという料理は本当に美味かったよ。調理の技術も素晴らしかった。もはや俺よりも上かもしれん」

「まさか……今日はなんか調子が良くて」

「俺は既に勧誘しているが、ウチのチェーンにはいつ来てもいいぞ」

「ははは。まあ考えときます」


 長身のビッテンが腰を曲げてハヤトに顔を近づける。


「ところでチキータくんとブラックアイスへの投票はどうするつもりだ?」

「それは食ってみて……美味かったほうですよ」


 ビッテンは背を伸ばし、ハヤトの肩に手を置いた。


「そうか。君の信じる道を歩めばいい。俺も俺のやり方で戦うつもりだ」

「はい……」


 そう言ってビッテンは会場の外へ歩いていった。

 ビッテンが去った後に西が聞いた。


「ハヤト。あの幹部のオッサンが戦うっていうのは裏の料理人ギルドのことか?」

「ああ、ビッテンさんは積極的に裏と戦うみたいだな」

「そうか。お、チキータとブラックアイスの話が終わったか?」

「ん。みたいだな」


 チキータが二人のほうにやってくる。


「チキータ。条件は決まったか?」

「朝食対決になったよ」

「へ~朝食か。簡単なようで難しいな。ブラックアイスの要望?」

「ううん。私だよ」

「え? そうなのか。朝食に自信があるのか?」

「え? うん。まあね。フフフ」


 火鍋のチキータと称されているのに朝食? ちょっと変だなあとハヤトは思う。まあ帰り道で聞けばいいかとチキータや西と帰ろうとする。


「私、寄るところがあるんだ」

「え? こんな遅くに?」

「うん。ちょっと」


 試験の試食は日没と同時におこなわれる。もう夜だった。


「ハヤトは西くんと先に帰っててよ」

「あ、あぁ……」


 会場に残されたハヤトと西だった。


◆◆◆


「じゃあ気をつけろよ」

「ああ、大丈夫だと思うけど、サンキューな」


 西に借家の前まで送ってもらって、ハヤトは部屋に入った。


「ただいまあ」


 返事は無かった。誰もいないらしい。


「この時間ならオッサンに任せてユミはもう帰ってきていてもおかしくないんだけどなあ?」


 魔力灯を付けて一人ソファーに座る。魔力灯を付けてもユミがいないとハヤトには部屋が暗く感じた。


「自分で言うのもなんだけど今日の俺の料理は良かったな。ユミに作ってあげようかな」


 ハヤト自身は料理バトルの味見でお腹が一杯になっている。いつものようにどさくさ紛れでこっそりとロウのステーキも食べていた。

 しかし、きっとユミは満面の笑みでそれを美味しいと言ってくれるだろうと思う。

 試験会場に来ることができないユミに、ハヤトが試験で作った料理を提供するのは恒例になっている。


「よし、作るか」


 そう思った時だった。


「ただいまあ~」


 どうやらユミが帰ってきたようだ。

 玄関に顔を出すとチキータも一緒にいた。


「あれ? チキータも一緒だったの?」

「あははは。その、家の前で一緒になってね」

「そっか。ところでユミ。チキータから試験の料理の話を聞いているだろうけど、それを作ってやるよ」

「あ、えっ、うん。今日はいいかな」

「なんでお腹へってるだろう?」

「ごめん。今日はガーランドさんと賄いを食べちゃったんだ」

「そうなのか」


 ハヤトは少し残念に思いながら食材をしまうことにした。

 ユミが美味しそうにご飯を食べる姿は、料理バトルの勝利よりもハヤトにとって喜びなのだ。

 それが無いのはハヤトにとってはどこか物足りなかった。


「ごめんね。今日はご飯食べてきちゃって」

「気にすんなよ。明日の夜に作ってやるし。次のチキータの試験も三日後だから店にも立つか」


 ハヤトがそういうとユミもチキータも慌てて首を振る。


「いいよいいよ。ハヤトは休んでいて」

「そうだよ。試合で疲れているでしょ?」


 飲食店は肉体労働だ。ハヤトがこれぐらいで疲れるなんてこともない。


「な、なんだよ。別に疲れてなんかないぜ?」

「そ、そうだ。私が店に立つからさ」

「えええ? チキータが?」

「うん。私、ずっとハヤトのところにお世話になっているし」


 別にハヤトはそんなことは気にしていない。


「そんなこと気にしてないぜ。チキータは客らしくゆっくりしろよ」

「あー私じゃハヤトの店に立てないと思ってるんでしょ!」

「いっ!? いやそんなことねえよ」

「ならいいじゃん。ともかく明日はハヤトは休んでて」

「お前は試験対策しなくていいのか? 朝食対決らしいけどなにか案はあるのか?」

「ハ、ハヤトの店の厨房に立ったらなにかヒントになるかなあって」

「そ、そうか? でもなあ……ユミ……」


 ハヤトがユミに話を振れば、お客様は休んでてという流れになると思っていた。

 しかし……。


「わ、私もチキータさんとお店したいなあ」

「え? そう……」

「う、うん」


 ユミも久しぶりに俺と店に立ちたいのではと思うハヤトであったが肩透かしを食らってしまう。


「それじゃあ寝ようか」

「あ、あぁ」


 ユミとチキータはユミの部屋で寝てしまったようだ。

 ハヤトはもやもやした気持ちを抱きながら一人自分の部屋で寝た。


◆◆◆


 翌朝、ハヤトが起きるともう9時になっていた。


「あれ。もうこんな時間かよ」


 慌てて起きるとダイニングテーブルに置き手紙があった。

 昨日の夜と同じようにゆっくりしてくれということと店にはチキータも立つから心配するなということが書かれていた。


「なんだよ。せめて行く前に起こしてくれてもよかったじゃないか。まあゆっくりしろってことなのかもしれないけど」


 顔を洗って歯を磨く。

 一人、軽い朝食を取ったらやることもない。


「なんもやることないし、店にでも行こうかな」


 自分の店に行くのはなんのはばかりもないはずだった。

 けれども二人にああ強く「ゆっくりしろ」と言われるとどうも行きにくい。

 再び自分の部屋に戻ってベッドに大の字になる。


「朝食対決か。勝負としては面白いけど意外と難しいなあ。チキータが朝食って申し出たみたいだけどアイツはどうするつもりだろう?」


 天井を見上げながらそんなことを考える。

 すると窓になにかがコンッコンッとぶつかっていることに気がついた。


「?」


 ハヤトが近づくと小石が飛んできて窓硝子にぶつかっている。

 ハヤトの部屋は二階だ。

 近所のガキのイタズラかと思って窓から顔を出して見下ろす。


「ブラックアイス……」


 下の路にはブラックアイスが口元に人差し指を立てていた。

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