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異世界料理バトル  作者: 東国不動
第三章「風雲の料理人ギルドランク試験編」
59/99

56 ビッテンの要求

挿絵(By みてみん)

第六試合勝者ロウ


挿絵(By みてみん)

第六試合勝者ブラックアイス



 試験会場のハヤトとチキータは完全に肩透かしを食らっていた。


「なんだって? 今日は試験がおこなわれない?」

「そうだ」

「なんでよ?」

「今年は受験者のレベルが高く、注目されている。そこで各国の料理人ギルドの幹部たちも視察することとなった」


 確かに視察する価値があるとハヤトも思う。自分の料理が、というわけではない。

 ブラックアイスの料理は、レベルが高いなどという言葉で表現できるものではなかった。


「またかよ……休みばっかりだな……気持ちはわかるけど勝手なこと言うなよな~。こっちは気合入れてきたんだぜ」


 実際、ハヤトとチキータの気合の入れようといったらなかった。

 しかし試験の進行役は、そんなことは意に介さなかった。


「今までの試験は日没までに調理した。だがこれからは一日以上の準備時間を使って調理できる条件に変わったと思え」


 勝手に日付を延ばされたなら文句も言えるが、運営側がS級認定を出すために様々な条件で受験者を見たいと言うなら文句も言い難い。


「はぁ~まあそれなら仕方ないか」

「よってAリーグの第七試合は二日後、Bリーグの第七試合は三日後とする」

「え? 同じ日にやらないの?」

「AリーグとBリーグの第七試合は日取りを別にする。お前たちの戦いは、すべての有名料理人に注目されているのだ」


 俺とロウの戦いも注目されているのか、それともブラックアイスの戦いだけに注目したいからなのか……。

 ハヤトがそう考え込んでいると、西と無理やり連れてこられた時田が、ブーブー言っていた。

 まあハヤトはどちらでも構わない。どんな状況だろうと全力で戦うだけだ。

 準備期間がある戦いも悪くはない。早速、対戦者のロウと料理条件を決めようとしたところ、先に声をかけられた。


「ハヤト」


 ロウだ。やはり美人だが牙がある。比喩ではなく、実際に狼のような牙が生えているのだ。


「お、おう!」

「なんだ?」

「……いや別に」


 ハヤトはロウに笑われると少し怖い。地球には歯が尖っている人間はいないからだ。


「私たちの条件はどうしようか?」

「別に俺としてはなにもないんだよね。自分に有利な条件やお前に不利な条件で戦うのも面白くないし、なにもなしでもいいんじゃない?」

「ハハハ。私もそれでもいいと思うが、準備期間がこれだけあるのになんの条件もなしでは面白くなかろう?」

「そう言われてみれば、そうだな」


 ハヤトはなにか条件をつけようとするが、なにも思いつかない。


「と言っても私も……そうだ! お前の店でよく使う食材はなにがある?」

「ん? あ~、そうだなあ。デスバッファローとか?」

「お前の店のレバ刺しもデスバッファローだったな。うむ、同じ食材を使うのはどうだろう。デスバッファローを使うのはどうだ?」

「同じ食材で戦う……か。料理の優劣がよりハッキリしそうだな」


 昔、日本の料理番組でも同じ食材で料理対決をする番組があった。

 ハヤトは自分も出たいと思っていた。今はもうやっていないことが残念だったが、異世界でそれができようとは!


「いいね。それでいこう!」

「決まりだな」


 ハヤトは自分の対戦条件を決め終え、チキータを待つ。

 どうやらブラックアイスとの対戦条件を決めるのに少し時間がかかっているようだった。

 ハリーや運営の数人が仲裁に入っている。


「アイツ、どんな条件にするつもりなんだろう?」


 西と時田はいかにもつまらなそうだった。


「俺らが来た意味、なんもねえじゃねえか」

「そうよ~、今日の午後の授業は赤原くんとチームだったのにぃ~」


 ハヤトは笑って誤魔化すしかなかった。


「まあまあまあ~」


 西は魔物狩り要員、時田は時魔法で時間を早めてくれる。料理はほとんどできなくてもアシスタントとしては最高だった。


「俺は帰るぜ。しばらく呼ぶんじゃねえ」

「私も~」


 二人は文句を言いながら帰っていった。

 試験がおこなわれないのでは引き止める言葉もない。

 ハヤトが、チキータとブラックアイスはいつまでかかるんだろうと眺めていると、赤髪オールバックの男が近くに寄ってきた。


「やあ、ハヤトくん」

「あっ、どうも。ビッテンさん」


 相変わらず雄大な体躯でいかにも豪放といったふうだった。


「試験は明後日になったね」

「いや~それで友人たちが怒って帰っちゃいましたよ」

「すまんな」

「いや、ビッテンさんのせいじゃないですよ」

「俺も運営だからね。それでどうだろう? お詫びと言ってはなんだけど今日の夜、俺の店に来ないか? ご馳走するよ」

「マジっすか!?」


 この豪放な男がどんな料理を出すのか?ハヤトは非常に興味がそそられた。


「場所はセビリダ二番通りの……」

「行きます行きます! チキータと一緒に行きますね」


 試験が延期になったお詫びならチキータも当然誘われるものと思ったハヤト。


「すまんが、ハヤトくんだけで来て欲しいんだ」

「へ?」


◆◆◆


「ハヤト様ですね。こちらへどうぞ」


 領地を持っているセビリダの貴族の邸宅が並ぶ地区にビッテンの店の本店があった。

 若いメイドに個室へと案内される。

 可愛らしいがその挙措(きょそ)は洗練されていて、厳しい教育を受けていることがわかる。

 案内されたのは、セビリダの夜景が一望できる最上階の部屋だった。

 飾られたインテリアも、ハヤトにはよくわからないが工芸品ではなく、美術品という風格を持っていた。


「こりゃ高級店だな……」


 ハヤトが独りごちると笑いが聞こえた。


「フフ。この席に座ると、城の衛兵の給与の一年分ぐらいとられるらしいぞ」


 見ると席にはロウが座っていた。笑顔で。相変わらず牙が見える。


「マジかよ。そんなするのか。なんだか怖いな……」


 ハヤトはロウの牙を見ながら席に座った。


「タダより高いものはないと言うからな」


 異世界バーンにも日本と同じような格言があるらしい。

 しかし言葉の意味はわかっても、ここで使われる意味がハヤトにはわからなかった。


「えええっ? お、奢りじゃないの? 俺は帰るよ!」


 メイドがニッコリと微笑む。


「いえ、とんでもございません。主人のビッテンがハヤト様にお支払いをさせるなどということは一切ございませんよ」

「あ~、そうなんですか。驚かすなよ、ロウ!」


 ロウは手振りでヤレヤレという仕草をした。


「支払いはなくとも、なんの用もなく呼ばれることはなかろう?」


 ロウが側に立つメイドをチラリと見る。


「それについてはビッテンから」

「ほう。やはりあるようじゃの。しかもお前はそれを知っている」

「私はビッテンの……主人の命令に従うだけですのでなにも」


 ハヤトが二人の話に割って入った。


「おいおい! なんか要求されるのか? ビッテンさんは好きだけど、チェーンに入るのは嫌だぜ?」

「ハヤトくんがウチのチェーンに入ってくれるのはありがたいが、今日君たちを呼んだのはそのことじゃないんだ」


 仕切りの向こうからビッテンが現れた。どうやら話を聞いていたようだ。


「ホストは仕切りの向こうから登場か。盗み聞きとは人が悪いな」

「いやそうじゃない。隣で君たちに出す料理の最後の仕上げをしていたんだよ。あまり俺の部下をイジメないでくれ」


 ロウはビッテンにも微笑むが、ハヤトに向けるものとは違っていた。探るような笑みだ。

 しかし、ハヤトは美味しいものを食べる前に探り合いをしたくなかった。


「で、ビッテンさんは俺たちになにかさせたいことでもあるんですか? 煩わしいことは考えずに食いたいので先に言ってくださいよ」


 ロウとメイドはさすがにしかめっ面になった。

 ビッテンだけは笑っている。


「ハハハ。そりゃそうだ。なら俺も単刀直入に話そう。要は次の試合にハヤトくんとロウ氏のどちらが勝っても、Bリーグの対戦ではチキータくんに投票して欲しいのだ」

「ええ? なんだって?」


 ハヤトは驚いたが、ロウは要求をあらかじめ知っていたかのように平然としていた。

いつも読んでいただいてありがとうございます。

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