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異世界料理バトル  作者: 東国不動
第三章「風雲の料理人ギルドランク試験編」
55/99

53 隠し味は甘い味

 そろそろ試食の時間である日没になろうとしている。

 しかし会場にはハリーの姿もチキータの姿もない。ハヤトは一人で対戦者たちの調理姿を見ていた。

 いつものハヤトなら、それを興奮して見ていただろう。

 今はそれを見てもいつものようには気持ちが乗らなかった。


「やっぱり、チキータを探しに行くべきだよな。日没になったら判定がはじまるんだし」

 ハヤトは闘厨場を出てチキータを探しに行こうとした。

 が、すぐに出入り口でチキータと出くわした。

「あ、チキータ」

「……どうしたの?」

「そろそろ判定がはじまるからさ。判定人でもサボったら失格になっちゃうかもしれないだろ?」

「そうだよね」


 どうやらチキータは素直に会場に戻ってきてくれるようだ。

 ハヤトはほっとする。


「ハヤト……」

「ん?」

「ごめんね。あんなことで怒っちゃって」


 急にチキータから謝られたハヤトは、少し戸惑いながらも自分の思っていたことをチキータに伝える。


「あ、いや……俺のほうこそ。トーナメント戦だってことなんか、頭のなかからすっぽり抜け落ちてたぜ」

「もう……ハヤトらしいけど、それぐらい覚えていてよ。でも私、絶対ハヤトと決勝で戦うからね。そう決めたから!」

「ああ、もちろん」


 チキータの目尻が少し光る。


「だから応援してね……ハヤト……」

「当たり前だろ! 応援するぜ」 

「絶対だよ」

「あぁ、約束するよ!」


 こうして二人は会場に戻った。


◆◆◆


 会場に戻ると、既にAリーグのハルトラインとロウの料理はできあがっていた。


「遅いですよ。二人共」

「あ、ハリーさん。すいません」

「ごめんなさい」

「さあ、早く判定席に着いて」


 ハリーからすぐに着席を求められる。

 チキータと一緒に判定席に戻れた今、ハヤトに憂いはない。

 本でしか知らないマンドラダイコーンという食材をどのように使っているのかということだけが、今のハヤトの関心事だった。

 そして審査席には二人の料理が運ばれた。

 ハルトラインの料理はマンドラダイコーンの千切りのサラダ、ロウのサラダは一見どこにマンドラダイコーンが使われているかわからない、レタスと茹でた豚肉の冷製サラダだった。

 三人はハルトラインの千切りサラダから試食した。

 ハリーがフォークを置いた。


「美味しいですね。ダイコンのみずみすしさがよく出ています。酸味の強いビネガーもよく合っている。そして……」


 驚くべきことに千切りのダイコンの半分は、小麦粉をまぶして揚げてあった。

 ハヤトもまた料理の感想を口にする。


「揚げたダイコンのサクッとした食感とシャリッとした生のダイコンのみずみずしさとのコントラストが素晴らしい。その上、揚げた衣が酸味の強いドレッシングをよく吸ってマンドラダイコーンの甘みを際立たせていますね」

 チキータは無言で食べていた。どこか上の空だ。ハヤトが心配して声をかける。


「おい。チキータ、大丈夫か?」

「美味しいよ」

「お、おいおい。大丈夫か? って聞いたんだぜ?」

「あ……うん……大丈夫だよ」


 あまり大丈夫なようにはハヤトには思えなかったのだが、試食は進む。

 次はロウの茹でた豚肉の冷製サラダだった。どこにもマンドラダイコーンが使われているような形跡はない。


「Aリーグの第六試合の条件は、サラダの他に魔物があるはず。どこに使われていますか?」

 判定人としてのハリーの質問に、ロウは不敵にニヤリと笑った。相変わらずハヤトはビクッとしてしまう。

 ロウは透明なガラス瓶を取り出した。


「ああ、なるほど。ダイコンおろしを使ったサラダですか」


 瓶の中を見ると、すりおろした野菜のようなものが入っているドレッシングのようだった。

 ロウは盛り付けもしてくれるようだ。

 盛り付けも楽しげにおこなう料理をするのが、ロウのスタイルだった。微笑みながらサラダを取り分けてドレッシングを振りかけた。

 ハヤトはその姿を好ましいとは思っているが、いまだに牙が慣れない。


「さあ。召し上がれ」


 笑顔でそう召し上がれと言われ、ハヤトはちょっとビクビクしながら食べる。

 しかし、その味にはすぐに感心してしまった。


「なるほど……こういう料理か……」


 マンドラダイコーンはそのまま使えば甘みがあるが、すりおろすと強烈な辛味を持つ薬味になる。

 そのダイコンおろしのドレッシングをレタスと豚しゃぶにかけた料理だった。

 しかもダイコンおろしの強烈な辛味のなかに、わずかに爽やかな甘みが感じられる。

 ハリーがその甘味について言及した。


「この甘味……驚くべき隠し味が入っていますね」


 ハヤトも笑いながら甘みについて話した。


「俺もこの甘味には驚きました。実は最近、初めて食べたんですよ」

「へえ。ハヤトくんはどこで食べたんだい?」

「この試験の予備選ですよ。ホラ、自分で取ってきた魔物が条件だったでしょう」


 そう。この料理のドレッシングはスライムが隠し味に使われていた。その甘みが豚しゃぶとレタスを絶妙に味付けしていた。


「じゃあ判定をしてもいいですか?」


 チキータとハヤトがうなずく。そして判定がおこなわれる。


◆◆◆


「勝者は3対0でロウ!」


 判定を聞いて、もちろんロウは笑顔だったが、ハルトラインも清々しい顔をしていた。

 持てる力を出しきれたのだろう。

 ハリーが勝負の総評をする。


「どちらも見事な工夫がされている料理でしたが、ロウさんのサラダは隠し味の甘みが絶妙でした」


 判定には関わっていないが、観戦席にいる幹部たちも料理を試食している。観客席から自然と拍手が湧き起こった。

 その拍手の中でチキータがこっそりとハヤトに聞いた。


「ねえハヤト。この甘味……隠し味ってなに?」

「え? チキータは食ったことないのか? スライムだろ」

「あ……そうね。スライムか」

「……チキータ」


 ハヤトはチキータが少し心配になる。

 チキータほどの料理人なら、一度食べた食材はどのような使われ方をしていてもわかるはずだった。

 チキータの目はもうオーベルンとブラックアイスの二人を追っていた。

いつも応援ありがとうございます。

スライムとダイコンおろしのドレッシングは作れませんが、フライド大根はめちゃめちゃ美味しいですよ。


本日、0:00の更新できませんでした。

代わりに賢者の転生実験を更新しました。

よろしくお願いします。

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