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異世界料理バトル  作者: 東国不動
第三章「風雲の料理人ギルドランク試験編」
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47 料理賢人ロウ

 料理人ギルドは異種族や亜人にも門戸を開いているとはいえ、その総本部は人間の国イリースの食都セビリダにある。料理人ギルドの幹部はやはり人間が中心である。

 そのためイリースと国境を面し、しかも人間に対して敵対的な行動をとるダークエルフの国が不穏な動きをしているというのは、料理人試験の開催を延期する十分な理由になった。

 しかし延期の理由の裏には料理人ギルドの幹部の一人が、力技で裏料理人ギルドの問題を解決しようとしたこともあった。

 ハヤトはそれに巻き込まれそうになったが、危ういところで難を逃れた。

ちょうどそのころ、ダークエルフはイリースの国境間際で軍事演習をするという不穏な動きを終わらせた。


◆◆◆


 ハヤトの家に料理人ギルドの使者が来た。ついにS級料理人認定試験が再開されるというのだ。

 けれども再開は一週間後だった。

 なぜなら受験者にはイリースの首都セビリダから遠い地に住んでいる者もいるから、それを考慮したものだった。

 試験は一週間も先なので、腕の傷もほとんど回復したハヤトは、自分の店の厨房に立っていた。今日も食材を切って、鍋を振るう。

 三時ごろ、ハヤトは休憩をとろうと店の外に出た。

 この時間になると、ピークタイムが過ぎて忙しさも和らぐ。ガーランドに厨房を任せて自分は屋台の食べ物屋で遅い昼食をとろうと思ったのだ。

 ところが店を出ると、あることに気がつく。

 頭から獣のような耳を生やしている女性が、他の建物の陰からハヤトの店のほうを覗いている。

 いや正確には覗いていない。なぜなら目を閉じているからだ。しかも何やら少し上を向いている。

 ハヤトはその顔に見覚えがあった。


「よう。お前、S級料理人試験の受験者のロウだよな?」


 ハヤトが話しかけると、そのロウはビクッとして目を見開く。


「ハ、ハヤト!」


 そう言うと、ロウはクルッと振り向き、一目散に逃げようとする。


「お、おい! なんだよ! なんで逃げるんだよ!!!」


 ハヤトが大声で呼びかけると、ロウも足を止めて叫んだ。


「なんで私が逃げないといけないんだ!!!」


 ロウは怒って地団駄を踏む。


「へっ? だって今逃げたじゃん」

「逃げておらんわ! ちょっと驚いただけだ!」

「そ、そうか。悪い」

「う、うむ。急に声をかけるな」

「ところでお前なにしてたの?」


 ロウがまたビクッとする。


「い、いや、そのな……」


 歯切れの悪いロウに、ハヤトが思いつく。


「あっひょっとして、俺の店に来たかったんじゃないの?」

「ち、違うわい。この近くを通ったらいい匂いがしたから」

「なんだよ~、そうならそうと言ってくれよ。さあ来いよ。俺が美味いものを作ってやる」


 ハヤトは休憩に出たことをすっかり忘れているようだ。


「え? えええ? 私はお前の敵だぞ?」

「敵って……そりゃ試験のライバルだけど」

「私が店にいったら、お前の料理の手の内を知ることになるだろうに、構わんのか?」

「え? うーん。そういやそうだな」


 ハヤトは少し考えてから笑った。


「でもよ。オーベルンやハルトラインも来てるぜ。変なフードとか被ってな」

「そ、そうなのか?」

「ああ。アイツらはメニューをできるだけ食おうとするし、客とは気迫が全然違うからすぐにわかる。挨拶すると、なぜか気まずそうに帰っていくんだけど」


 ポカンとしていたロウもついに笑った。

 それを見て、ハヤトのほうはビクッとする。


「プッ! ククク。お前それ、わざとやっているじゃろ?」

「まあな。でも俺としては、客として来てくれてる人になにを食わせても全然構わないんだけどな」

「なるほど。お前はそういう奴か。腹を空かせながら、二、三時間も匂いだけで悩んでいた私が馬鹿じゃったわ」

「そういう奴なんだよ。しかしお前、匂いって言ってもここからじゃわかんないだろ?」


 異世界バーンの文化レベルは魔法を除けば、せいぜい中世のようなものだとハヤトは思っている。

 その文化レベルで飲食店が他にもあるこの地帯の匂いは雑多な匂いが入り混じって決して良い匂いとは言えない。


「私は鼻がいいんだ。人間の数万倍もな。お前の店の料理の匂いも嗅ぎ分けられるぞ」


 ロウが耳をピクピクさせながら自慢する。自慢すると耳が動くのかもしれない。


「へ~鼻がいいのか。確か……お前って犬型獣人だったもんな」

「狼だ!!!」


 ロウがまた地団駄を踏んで怒る。


「す、すまん。でもよ。お前も鼻がいいとか手の内を教えちゃっていいのかよ」

「フフフ。私もそういう奴なんだ」


 ロウもニヤリと笑った。

 ハヤトはまたビクりとする。ハヤトはロウの笑顔が怖いのだ。


◆◆◆


 さすがのハヤトの店でも、この時間になると人が少なくなる。

 だからハヤトはロウを自分で案内して自分で注文をとって自分で料理を作って、それを自分で配膳して一緒に食おうとした。


「ウチの店は出せるものを出すって感じのお任せメニューもあるんだけど、客が今食べたいメニューを選べる形もとってるんだ。壁にメニューが書いてあるだろう。お前なにを食いたい?」

「ほう。面白いな。流行るわけだ」


 と、言っても初めての客は俺の店のメニューを見てもなにが出てくるかわからずに質問するものだとハヤトは思っている。

 当然だ。異世界にはない料理ばかりなのだから。ところが……。


「ほうほう。レバ刺しか。レバーの生の刺身を食わせてくれるんだな。レバーはデスバッファローの肝臓か!? それは美味そうじゃのう?」

「なに!? メニューを見ただけでわかるのか?」

「伊達に料理賢人とか言われてないわ」


 ハヤトは、ロウがチキータやチーサンショクに料理賢人と言われていたことを思い出す。


「けどレバ刺しってメニューを見てレバーの刺身だってわかっても、デスバッファローとどうしてわかるんだ?」

「やはり匂いじゃ」

「マ、マジか?」

「うむ。お前のパートナーがシュヨウ山にトリュタケがあったのかと驚いたことをディートから聞いたが、私も昔から知っておったぞ」


 なるほど。異世界の亜人は鼻がいい奴だらけだなとハヤトは感心する。

 料理人にとって匂いに敏感なのはとても有利に働くだろう。


「とりあえず、そのレバ刺しというのは絶対に頼まんとな」


 やはりこの店に来る客はレバ刺しファンになる〝宿命〟らしい。


◆◆◆


「いや~本当にハヤトの店は面白いの。料理賢人と言われた私ですら食べたことのない料理ばかりだ」

「だけどロウも凄いな。俺の店のメニューを見ただけで、どんな料理が出てくるのかわかるなんてよ」


 異世界人でハヤトの店のメニューを見てなにが出てくるかわかった奴は、ほとんどいなかった。

 しかしロウは全種類わかったのだ。二人は昼食を食べながらメニューの内容を当てるゲームをしていた。


「この焼鳥セットというのも面白いな。串ごとに鶏の肉の部位を変えて味や食感の違いを楽しむんだな。これは尾骨の周りの肉か」

「当たり。ぼんじりって言うんだ」

「ほ~美味いな。おっこれは首の肉じゃな」

「セセリって言うんだ。それも食ってくれよ」


 ハヤトは団子状の焼き鳥を指差す。


「これは! なるほど挽肉にしたものを団子状にして焼いたのか。パン粉や卵も入っていてふわっと。甘いタレによくあっている」

「だろう? 自信作だぜ」

「うんうん。美味いな。子供も喜びそうな味だ」


 ロウはすべての料理を平らげ、別の話題に移る。

 二人がする話題と言えばS級料理人認定試験に決まっている。


「今日は本当にご馳走になったが、全力で戦わせてもらうぞ」

「当たり前だ。でもお前は俺と戦う前にハルトラインもいるぜ?」


 そう。ロウはハヤトと戦う前にハルトラインという料理人にも勝たなければならない。

 ハヤトが見たところハルトラインも強力な料理人だった。


「フフフ。必ず勝つよ。お前と勝負したいからな」


 ロウが笑う。ハヤトはやはりそれを見てビクッとした。

 ロウは美女だが笑うと狼のように口が少し裂けて、牙が見えるのだ。

 ハヤトは少し怖かった。

遅くなりました。すいません。

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