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異世界料理バトル  作者: 東国不動
第三章「風雲の料理人ギルドランク試験編」
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46 エルフ合コン 後編

 赤原と吉田の考えは杞憂ではなかった。

 ディートは、エルフは肉も食べると主張したが、やはり箸は進まない。

 ディートはまだ箸を動かそうとしてサラダを摘んでいるが、エルミアとララノアはレバ刺しとモツ鍋の前に完全に硬直していた。

 ちなみに異世界にも箸の文化を持つ国はあるようで、ディートたちは使い方をマスターしていた。

 彼らは料理のエキスパートなのだ。それでもレバ刺しとモツ鍋は経験がないらしい。地球にしかない料理だった。

 ハヤトはニコニコと笑いながらモツ鍋を皿に取り分けたが、赤原と吉田は頭を抱え込みたかった。

 ついにディートが意を決したようで、モツ鍋にゆっくりと手を伸ばす。箸で野菜とモツを同時に摘んだ。

 にこやかで優しげな笑顔も今はなく、料理バトルの時のようなシャープな美人顔に戻っていたが、やっとのことでモツとキャベツを口に入れた。

 一回、二回と噛んでいく。マジな顔がさらにマジな顔になった。美人すぎて見方によっては、神々しいとか凛々しいというレベルになっている。


「ディートさん。無理しなくてもいいですよ」

「そうですよ。吐き出しても……」


 赤原と吉田がディートを心配する。


「……美味い」

「「え?」」


 ディートは咀嚼したものを飲み込んでから静かに言った。


「ベーキャーが内臓肉を味付けし、内臓肉がベーキャーを味付けする不思議な味だ。臭みもまったくない」

「ああ、今日狩ったデスバッファローのモツをよく洗ったものだからね」

「内臓肉も美味いが、ベーキャーの甘みが鍋いっぱいに広がっている」

 エルミアとララノアもモツ鍋に箸をつける。

「ほんとだ。ベーキャーの甘みと内臓肉の甘みが凄くよくあってるわ」

「美味しいねー。普通の肉だったら逆に肉臭さがあったかも」

 ハヤトが自慢気に笑う。

「へへ。赤身より脂肪のほうが風味は柔らかいからな。キャベツの甘味とよく合うんだ」


 赤原と吉田は顔を見合わせ、ひとまずホッとしたが、まだレバ刺しが残っていた。


「つうか、そもそもこんなもの料理といえるのかよ」

「切ってごま油かけただけだしな」


 二人がブツブツ言っていると、ディートがレバ刺しも口に入れる。

 ドキドキしながら見つめる二人。

 ディートは目を閉じて天を見上げた。


「なるほどな……初めて本心から肉が美味いと思えたかもしれない……」


 エルミアとララノアも同じような姿勢になった。


「本当に美味しい」

「他に表現方法がないわね」


 レバ刺しの美味さは無双だった。


「俺は異世界に来て本当によかったぜ。料理人のスキルで、安全なレバ刺しが思う存分に食えるんだからよ」


 ハヤトの言葉に、赤原と吉田は「異世界に来れてよかった点ってレバ刺し?」「星川とくっついたことじゃないんかい!」と心の中でツッコミを入れざるを得ない。

 会は盛り上がりを見せていた。はじめはハヤトだけがエルフの三人と盛り上がっていたが、後から赤原も吉田も入れるようになっていった。


◆◆◆


「俺とコイツらの友達に清田って奴がいて、戦闘狂いで困ってるんだ」

「へ~、そういう人っているよね」


 赤原の発言にエルミアは相槌をうつ。異世界は剣と魔法の世界。エルフにも戦闘狂いはいるだろう。


「まあでもハヤトの料理狂いよりはマシかもしれないけどな」


 ハヤトはどうもこのエルフたちの中心人物であるディートに好かれているようだった。それは吉田も見ただけでわかった。

 だから吉田は、赤原はまた失言をしたと思ったが、それは間違いだった。赤原はちゃんと計算していたのだ。

 吉田の予想通り、ディートは頬を膨らませたが……。


「こっちにも一人、料理狂いがいてさ」

「そうそう。困っちゃうのよね」

「え? え? それって私のことか?」


 赤原はエレノアと顔を見合わせて笑う。

 ディートの美しさはエルフたちの中でも抜きん出ていた。赤原も一度はディートに照準を合わせたはずだ。

 だが赤原の照準は既にエレノアに定まっていた。軍師の吉田は赤原の合コンにおける底知れぬポテンシャルに恐怖した。

 宴もたけなわのころ、ディートが立ち上がった。

 ディートは不器用なのかストレートだった。


「ハヤト、二人で話したいんだけど、ちょっと店の外に来てもらっていい?」


 赤原と吉田、エルミアとララノアは同時に思った。

 お持ち帰りか!? と。

 一人だけなにも感じていないハヤトだけが、トボけた返事をした。


「へ? なんで? まあ別にいいけど……」

「ホ、ホントか? ありがとう」


 カランコロン……。

 二人が店を出ていこうとする音が響く。


「お、おい。なんだよ?」


 ディートはハヤトの腕を取って店の外に消えた。


「い、いかん!」


 軍師の吉田がその暴挙を止めようと席を立とうとした。

 だがその時、何者かに吉田は腕をガッと掴まれる。赤原だった。


「あの二人は〝アガリ〟だ。追っても意味はない……。俺たちの戦いに集中しよう」


 鬼だ! この男は合コンの鬼だ! 赤原の気迫に軍師は戦慄した。

 吉田は星川のことが思い浮かんだ。しかし間違いを起こすも起こさないもハヤト次第なのだ。

 吉田は腕を組んで席に座り直した。


◆◆◆


 ディートはエルフとしては料理人の頂点を極めている。

 エルフはあまり料理をしないこともあって、国に彼女を超える料理人はいなかった。

 エルミアとララノアが彼女を料理バカというのにはちゃんと理由がある。ディートは自分より料理が美味いと思った男をすぐ好きになってしまうのだ。

 ディートはハヤトをセビリダを通る川のほとりに連れていった。少しだけ水の冷気が感じられて心地よい。


「ねえ。さっきちょっと言ってたけど、ハヤトは異世界から来たの?」

「ああ、そうそう! だからこの世界にはない料理を知ってるぜ。今度またお前にも食わせてやるよ」


 ディートはうっとりとハヤトを見つめている。しかし計算もしていた。異世界に来たならきっと寂しい思いもしているのではないかと。


「あ、あのさ。私もう少しハヤトと料理の話をしたいな。今夜ハヤトの家に泊まっていい?」

「俺んち? いいよいいよ。ユミって奴もいるけどさ。歓迎してくれるぜ」


 ディートの顔が夜叉に変わる。ハヤトは気がついていない。


「そいつも一緒に転移したんだけどさ。気があって一緒に住んでるんだよね」


 その瞬間、ハヤトは川につき落とされて水を飲むハメになった。


「ぶは! な、なんで!?」

「知らない!」


◆◆◆


 赤原と吉田は エルミアとララノアに絡まれていた。どうやらディートとハヤトを上手くまとめるために二人は協力していたらしい。

 二人がいなくなった今、ハメを外すという言葉がふさわしい態度だった。


「いやー、ディートはさあ。もう120歳なのに乙女でさ」


 赤原と吉田はその年齢に驚いて飲んでいるものを吹き出してしまった。

 赤原は机を拭きながら聞いた。


「お二人は何歳ぐらいなんですか?」

「いくつに見える?」

「二十ぐらいにしか見えないけど……」

「キャー赤原くん可愛いわね~。私、赤原くんより大きな子供いるのよ」


 赤原は再びむせた。


「っげほ、げっほ。ま、まじっすか……」


 イケメンの赤原をオトリにして、吉田は静かに席を立った。


「利のない戦いには興味はない。退こう」


 軍師の戦略的撤退である。

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