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異世界料理バトル  作者: 東国不動
第三章「風雲の料理人ギルドランク試験編」
44/99

42 尾行失敗!

早い書店では『異世界料理バトル』が売られています!

もしよろしけれ是非、店頭でお手にとってください。

「どう?」


 ハヤトは右腕の傷を撫で、手の指を握ったり開いたりした。


「うん。だいぶよくなったぜ」


 クラスメートの佐藤が一時的に国境間際の任地から戻ってきたので、ハヤトは腕の治療を受けていた。

 ダークエルフの国境間際での演習という名の軍事行動が長引いているので、対抗して展開している救世主一行の課外授業は交代制としたらしい。


「私が最初からいれば、すぐに治せたんだけど、他の人が回復魔法を使っちゃうとね。古くなった傷は時間をかけて少しずつ治していかないと変なふうにくっついちゃって後遺症が出ちゃうらしいの」


 佐藤はイリースでも指折りの回復魔法使いになっていた。しかし回復魔法は意外と加減が難しい。例えば骨折を魔法で回復させた場合、変なふうに骨がくっついてしまうこともある。


「そうなのか。でもこれなら店に立つぐらいは大丈夫だよな?」

「大丈夫だと思うけど、念のため、しばらくは私のところに毎日来てね」

「ああ、ありがとう」


 様子を見ていた西がセビリダの都市の治安について口にする。


「しかし、ボーッとしたあの王様なら仕方ねーけど、首都なのにセビリダも治安が悪いな。また野盗か……」

「いやアイツらは美味い料理が食いたかったんだよ。料理人をさらおうとしてたし」

「お前は本当に料理馬鹿だな。犯罪者がそんなことで斬り合いの抗争するわけねーだろ」

「でもアイスティアをさらうとか俺をさらうとか言ってたんだぜ」


 呆れ顔の西が少し真面目な顔になる。


「アイスティアって昔よくお前の店に来てた黒装束の料理人か。試験に出てたブラックアイスってのは、やっぱりアイスティアだったんだな」

「ああ、夜盗に襲われた時に顔を見たら、アイスティアだったよ。微妙に料理の味が違うと思ったんだけどな」

「ふん。お前そういえば、馬車で襲われた時も夜盗は王宮料理人のアンドレのオッサンを探してたとか言ってたな」

「ああ、あの時も王女じゃなく、アンドレのオッサンをさらうって言ってたぜ」

「……そこまでいくとなにか裏があるのかもしれねえな。お前らなにか思いつくことあるか?」


 この場にいる面々は、アナログの守護神で勇者の清田、何事も善意にしかとれない仏の佐藤である。それに料理狂のハヤトだ。

 ハヤトの周りによく集まってくる他のメンバーの一人のユミは店で働いているし、赤原は国境の教練から戻っていない。


「このメンバーに聞いた俺が……」


 西が「俺が馬鹿だった」と続けようとしたところ、勇者が叫びはじめた。


「うおおおおおおお! 俺は感動したぞ! 葛城!」


 ハヤトと西には意味がわからない。


「「はい?」」


 清田は涙と鼻水を流していた。


「お前が夜盗から婦女子をかばって負傷するとは!」


 西が馬鹿を見る顔をする。


「そうじゃなくてよ。ハヤトやアンドレやアイスティアが狙われる理由を聞いてるんだよ。料理人ってことしか共通点はなさそうだけど、それで襲われるとかおかしいだろ」


 西は話を戻そうとしたが、清田には無駄だった。


「スライムにも勝てるかどうかわからんほど弱いお前が身を挺して!」

「うるせー! 余計なお世話だ!」

「俺もこうしてはいられん! 鍛えてくる!」


 清田は奇声を上げながら走り去った。走り去るスピードは車よりも速い。すぐに聞こえなくなった。


 ハヤトと西も保健室になっている神殿寮の佐藤の居室を後にする。


「やっぱり理由はどう考えてもわからないな。アイスティアからも話を聞きたい」

「また試験に来るだろうし、試験会場で話を聞けるぜ」


 西はハヤトの話を聞いて、アイスティアこそが怪しいのではないかと思いはじめていた。


「……まあ、お前はなるべく、星川と行動をともにしろよ」

「そうする……か」


 皮肉を混ぜていない西の言うことは、ハヤトは素直に聞くことにしていた。


◆◆◆


 西はハヤトと別れると、フェアリーに言った。


「事件の現場に張り込んでいてくれ。そして怪しい奴がいたら飛んで後をつけろ。俺も後からいく」


フェアリーは小さい上に上空から目標を見ることができるので尾行には最適だ。


「うん。わかった」


 フェアリーを飛ばした後に西も事件現場に向かう。ハヤトの話によれば、事件現場は北地区で治安が悪いところだった。

 バーン世界の都市は戦争対策や魔物対策に四方を高い壁に囲まれているので日の当たりにくい北地区は地価が下がり、治安も悪くなりやすい。


「ここか」


 西が現場に到着した。もう二日経っているが、血の跡が残っている。


「フェアリーいるか? ……いないみたいだな」


 現場を見張らせていたフェアリーがいないということは、怪しい人物がいて、後をつけたのかもしれない。


「犯人は現場に戻ってくるって言うしな」


 西がそんなことを考えていると。


「兄ちゃん、いい服着てんなあ。カネも持ってるだろう? 出せよ」


 いかにもといった風体のならず者が数人現れた。西は面倒臭そうに土の精霊ノームを呼び出す。


「こないだの夜盗は歯をもらったからお前らは特別サービスで肋骨にしといてやる」

「なに言ってるんだ。お前。ひゃははは」


 一般人にもノームは見ることができる。しかし、そこいらのならず者が精霊術など見たことはなかった。小さい爺さんが西の陰にいたと思っただけだ。


「がひっ」


 石つぶてが飛び、ならず者たちのアバラに次々と命中した。


「ぐぐぐ……なんだ? お前なにをした! ぐへっ」


 西が一発喰らっても元気な奴には追加弾を食らわすと、蜘蛛の子を散らすように逃げていった。

 邪魔者がいなくなったので、さらに現場を検証しているとフェアリーが戻ってきた。


「西くん西くーん。アイスティア見つけたよ」

「本当か。ハヤトも正確にはアイスティアの宿泊場所を聞いてなかったようだからちょうどいい。どこだ?」

「ここを通って郊外の牧場に行ったよ」

「牧場? そう言えばハヤトが一緒に行ったとか言っていたが……」


 西はフェアリーに案内され、街の壁の外に出て牧場へと向かった。

 緑の丘陵地帯に黒い点はよく目立つ。

 西は林の木陰からアイスティアの様子を見る。


「なにもしないで少し離れたところから牛を見ているだけだな。アイツはなにやってるんだ?」


 問いかけに対してフェアリーの軽い声音で返事がくるかと西は思っていたが、実際はそれよりもはるかに太い男の声が自分の真後ろから聞こえてきた。


「さあな。俺もわからん。包丁も持たず、鍋も振らずに、食材を見ることが料理を磨くことになるんだと……」


 西がギョッとして振り向くと、すぐ真後ろに鎧の騎士がいた。

 コイツはいつもアイスティアのすぐ近くにいた従者の騎士だ。名前は確か、ルーク。


「ちっ。まったく気がつかなかったぜ……」

「ごめん……西くん。私も気がつかなかった」


 上空を飛ぶフェアリーでも気がつかなかったようだ。

 西は辺りにいる人間を含む生物を魔力感知しているが、ルークは魔力をほとんど持たないようだ。

 ルークの手は剣の柄に置かれていた。

 西の頬に冷や汗が流れる。

 魔法の発動にはタイムラグがある。そのため接近されると一般的に魔法系よりも戦士系のほうが有利とされる。

 もちろんレベル差次第だが、ルークの強さは西も肌でヒシヒシと感じる。

 剣を抜かれれば、そのまま斬られること必殺の間合いだった。


「……(くそ、強い! しかも、こいつ……人間との戦いに馴れてやがる?)」


 西は必死に挽回の策を考えるが、なにも思いつかなかった。

これからもハヤト達をよろしくお願いします。

活動報告にキャラの簡単なイメージを載せておきます。

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