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異世界料理バトル  作者: 東国不動
第三章「風雲の料理人ギルドランク試験編」
43/99

41 少年と少女の空

メリークリスマス!

ついに本日、早い書店では『異世界料理バトル』が売られると思います。

本当に本当にいつも応援してくださってありがとうございます。

読者の皆様のおかげでここまでこれました。

 二人が逃げ込んだ先は空き家だったようだ。

 ハヤトは石壁にもたれて座り込んでいた。右腕からは血が流れ続け、小さな血だまりができている。


「神殿の佐藤のところに行けば、回復魔法で……しまった……そういえばアイツは……国境にいるんだった……」

「まずい。意識が遠のいている。早く止血しないと!」


 ブラックアイスはマスクを外して、それをハヤトの右腕に巻く。

 ハヤトはもうろうとした意識で素顔を見る。


「あ……あれ……お前やっぱりアイスティアだったのか? アイスティアとはよく似ているけど料理の味が……少し違うと……思ってたんだけどな」

「しゃべるな!」


 ブラックアイスは手際よくハヤトの右腕に巻いたマスクを縛る。医術的な処置も心得ているようだ。


「立てるか?」


 二つの集団の決着が付けば、すぐにここにやってくるだろう。

 一刻も早く逃げなくてはならない。


「肩を貸そう」

「悪い」

「なにを言う。私をかばって受けた傷なんだろう?」


 ハヤトはブラックアイスの肩を借りて立ち上がる。

 だが隣の部屋に移動すると、そこは倉庫だった。窓もなく逃げ場はない。戻るしかなかった。

しかし、さらに悪いことにハヤトは自分の体を支えきれなくなって、ズルりと床に崩れ落ちてしまった。


「ハヤト!」


 ブラックアイスがハヤトに叫びかけたのと同時に、謎の集団が窓を開けようとする音が聞こえる。


「ど、どうしよう? 私の力ではハヤトの体を抱えられない……そうだ!」


◆◆◆


 包丁を持った集団が窓を壊して建物に入ってくる。

 ブラックアイスはハヤトを抱きかかえて、倉庫の空き箱の陰に隠れて息を潜めていた。


「血の跡があるぞ……。こっちだ!」


 ブラックアイスはハヤトを強く抱きしめて眼をきつく閉じる。

 だがどうやら謎の集団は明後日の方向に行ってしまったようだ。

 カランッ。

 床に金属が落ちた軽い音が響き渡る。血に濡れたナイフだった。

 ブラックアイスはほっと息を吐いて、ハヤトに話しかける。


「ハヤト! ハヤト! つらいと思うけど、今のうちに逃げるぞ!」

「……う、うん……ああ……でもお前も怪我してるじゃねえか……俺は置いていけ……」


 ハヤトはもうろうとした意識の中でブラックアイスの左の手のひらも傷ついてることに気がついた。

 ブラックアイスは手のひらを傷つけてダミーの血の跡を作ったのだ。


「馬鹿なことを言うな。一緒に逃げよう。早く!」


 ハヤトも肩を借りて力なく立ち上がる。

 ブラックアイスは入ってきた窓からハヤトを外に押し出す。

 次にブラックアイスも窓から出ようとした時に包丁を持った集団に見られてしまう。


「いたぞ! こっちだ!」

「ちっ!」


 ブラックアイスは素早く窓から飛び出て、道に転がるハヤトの腕を持って立たせようとした。

 だが少し持ち上げたところで、手のひらの血で滑ってしまい、ハヤトは再び道に転がってしまった。


「くっ……」


 それでもハヤトは目覚めない。ブラックアイスは手の熱さも痛みも忘れてハヤトを抱えて引きずる。しかし数歩も歩かぬうちに集団が建物の窓からゆっくりと出てきた。


「ブラックアイスだな。俺たちの仲間がかなり死んだぞ」

「ビッテン様には連れてこいと言われていたが……裏料理人はここで消すか」


 その時、ガシャガシャと鎧の金属音が近づいてきた。


「アイス!」

「ルーク!? ルーーーーーーーク!!!」


 金属音の出処はアイスティアの従者、ルークの鎧がぶつかり合う音だった。


「新手か!?」


 新手のルークを見ても集団は余裕の笑みを浮かべる。


「なんだ一人か……」


集団はまだ五人とも無傷だったため油断していた。

新手の男を殺した後にゆっくりと裏料理人ギルドから送り込まれたブラックアイスを殺すかさらえばいいと思っていた。

 だがルークは魔王を倒すために召喚された救世主たちのエース級にも引けをとらない強さなのだった。

 獣のような動きで五人の間合いに入り込み、剣を抜く。集団が「あっ」と思ったと同時に、三人が切り倒されていた。

 その後、恐怖で硬直した残り一人の首を斬り落とし、逃げようとした最後の一人を後ろから斬り伏せた。


「助かったよ、ルーク」

「まさか表の奴らがこんな強硬手段に出てくるとはな。お前の帰りが遅いってことで俺も部下と探し回ってたんだ。お前に死なれると俺が困るからな」

「……そうか」


 ルークはうつ伏せに倒れているハヤトを見る。


「こいつは?」

「あっ……その……」


 ルークはハヤトの肩を抱えて持ち上げる。顔を見るためだ。


「ハヤトじゃねえか」

「そうだ! 怪我をしているんだ」


 ハヤトはここで少し意識を取り戻した。ぼんやりと知っている人物の顔が見える。


「お……ルーク……最近……見なかったけど元気か……。ならやっぱ……ブラックアイスはアイスティアだったんだな……」


 ハヤトはなんだか声が遠くから聴こえるような気がした。


「表の……だぞ。試験の……だ。ここで消えたほうがお前にとって……」

「頼む……お願い……」

「……後悔は……なよ」


◆◆◆


「………………」 

「…………」

「……」

「……………………ハヤト! ハヤトッ!!!」


 ハヤトは気づくとベッドに寝かされていて、心配そうにユミが覗き込んでいた。


「よかった。意識が戻ったんだね」

「俺はどうしたんだ?」

「昨日、ルークが怪我をしたハヤトを店まで担いできたんだよ。神殿の神官の人に来てもらって回復魔法をかけてもらったの。でも佐藤さんよりも上手くなくて……」


 ユミの目尻には涙が浮かんでいた。


「そっか。心配させちゃったな。ごめんよ」


 周りを見ると、見慣れたハヤトとユミの家だった。

 朝の光が入ってくる。


「今、何時?」

「朝の9時だけど?」


 それを聞いたハヤトは、反射的に上半身を起こそうとする。しかし力が入らず、またベッドに倒れてしまう。


「ダメだよ。傷はほとんど治っているけど、かなり出血してたんだから。しばらくは無理しないで」

「そうみたいだな」

「お店はガーランドさんがやってくれるから、私はハヤトにおかゆを作ってあげるね」

「あ、うん。ありがとう」


 ハヤトはなにか大切な約束があったような気がしたが、貧血のもやがかかった頭では思い出すことができなかった。

 ベッドで横になっているハヤトが何気なく窓から外の景色を見上げると、どこまでも青い空が広がっていた。

 いや、青空になにか白いものが浮かんでいた。


「鳩……か」


 白い鳩が街壁の入り口のほうに飛んでいく。

 同じ時、街壁の入り口で同じ鳩を眺めていた少女がいたことは誰も知らなかった。

これからも応援よろしくお願いします。


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