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異世界料理バトル  作者: 東国不動
第三章「風雲の料理人ギルドランク試験編」
37/99

35 激突! 伝説の山の山菜 前編

12月28日に第一巻が発売されます。よろしくお願い申し上げます。

なんとメディアミックスも!? 近いうちに活動報告で発表していきます。

 シュヨウ山には伝説がある。

 その昔、とある狼型獣人の小国に二人の王子がいた。兄をハクといい、弟をシュクといった。

 ハクとシュクは母親が違った。

 王はシュクの母親を強く愛したため、シュクを跡継ぎにしたいと思っていた。

 王は死ぬ前に弟のシュクを王子とすると遺言を残した。

 王の死は急だったため大臣たちは二人の王子をそれぞれ立てて、まさに血で血を洗う後継者争いが起きようとした。

 しかし、当人のシュクは兄の上に立つのをよしとせず、兄のハクを王とするようにと言い残して国を去った。

 ハクも父の遺言に逆らって王になることはできないと国を去った。

 二人は故郷の国を出た先で再会した。


「ハク兄さん、二人で理想の国に住もうよ」

「弟よ、そうしよう」


 しかし、時代は折しも戦国。

 二人は旅を続けたが、どの国も侵略戦争や内戦に明け暮れていた。二人が理想としているような平和な政治がおこなわれている国家はどこにもなかった。

 二人は争いの世を嫌い、シュヨウ山に隠れて山菜を採って生きた。

 ハクの詩が残っている。

 ――今日も山菜。明日も山菜。

 ――世界が平和になれば、肉を食べることができるのに。

 ――でも肉を食べたら誰かを殺すことになるから争いになってしまうか。

 こうしてハクとシュクという二人の狼型獣人の王子はシュヨウ山で餓死することになり、バーン世界の伝説となった。


◆◆◆


 シュヨウ山に向かう道中、団長が目に涙を溜めながらバーン世界の聖人の逸話を語った。


「どうだハヤト。感動しただろう?」

「つうか狼型獣人って言うからには肉食なんですよね?」

「まあ主食は肉だな。本物の狼と違って植物も食えるようだが」

「じゃあ死んじゃうじゃないか」


 団長はしかめっ面になった。


「だから命を捨ててまでも平和を求めた兄弟の話だろうよ」

「え? シュヨウ山には山菜がたくさんあるって話じゃないの?」


 同じ伝説でも二人の感想はまったく違った。


「確かにシュヨウ山には山菜が多い。ワラビ以外にもいろいろあるらしいぞ」

「へ~どんな山菜が?」

「ん~わからんが、ワラビはワシも子供のころに山のように採ったよ。ちょうど今ごろの時期だ。ワラビ餅が当に美味かったぞ」

「団長が子供のころだって……それって何年前の話?」

「えーと、もう四十年以上も前になるのか。ワシも年を取るわけだ」

「四十年以上前だって?」

「そうだが」


 ハヤトは慌てる。


「四十年以上前って。そんな昔だったら生えているかわからないじゃんか!」

「生えてるだろ~、あんなに生えてたんだから」

「ともかく急ぎましょう」

「まあ料理時間もあるからな。近いが……急ぐか」


 二人は話すこともやめ、シュヨウ山に向かう。


「はぁはぁっ。あったあった。ワラビだ。日本のワラビと変わらなさそうだぞ」

「だから言っただろう。自然は変わらんものだよ。ハクやシュクの時代から変わっていないだろう」


 団長の言う通り、シュヨウ山はハクとシュクの伝説の時代からずっと同じ姿を保っていた。

 異世界バーンでは山が削られてアスファルトの道路が通ったり、ダム湖ができたりすることはないのだ。


「この辺のワラビは特に有名でな。おひたしにしても団子にしても美味いぞ」

「へ~団子かあ。ワラビ餅みたいなもんかな~」


 二人は夢中で茎の太いワラビを採っていく。

 ハヤトは途中で笹林があることに気がついた。


「ひょっとしてアレがあるかも」

「ん? ハヤト、どこにいくんだ」

「あった! あった!」


 笹林からハヤトは何かを摘み取る。


「小さい竹の子か。でもこれは小さすぎるだろう」

「いや、これはネマガリタケっていう笹の竹の子だよ。これで十分大きいよ」

「そうなのか」

「こっちにはゼンマイもあるぞ」


 ハヤトは次々に山菜を見つけていく。


「おっ、こっちにはナラタケがあるぞ。でもキノコは山菜といえるか微妙だな」

「キノコは山菜だろう?」

「あ、そうですか。俺がいた前の世界だとキノコは山菜かどうか微妙なところだったので」

「うむ。少なくともこの地方ではキノコも山菜と呼んでいるぞ」

「それじゃあ、ナラタケも持っていこう」


 二人はさらに山菜やキノコを探した。

 そうこうしていると、凄くいい匂いが辺りに漂ってきた。


「なんか美味そうな匂いがしませんか?」

「ん? ああ本当だ。肉を焼いているのか? 美味そうな匂いだな……」

「こっちだ、行ってみましょう!」

「ちょっと待てハヤト! おい! 早く山菜を見つけて帰ったほうがいいんじゃないか!? ったく……」


 ハヤトが匂いを辿っていくと、ディートが焚き火をしていた。


「お、ハヤトか。この匂いに釣られてきたな」


 ディートはハヤトを見て微笑んだ。エルフの美しさは冷たささえ感じさせるほどだが、焚き火を見るその顔は柔らかかった。


「凄くいい匂いだけど何を焼いているんだ?」

「トリュタケだよ」

「これがトリュタケか~。噂通りいい匂いがするんだなあ」


 トリュタケというキノコの存在は、ハヤトもバーン世界の文献で知ってはいる。


「な、なに! トリュタケだって!?」


 団長が急に割って入って大声を上げる。


「え? なにどうしたの?」

「トリュタケって、そんなもんがこのイリースにあるのか……」


 トリュタケはフランシス国のヴァンス地方が名産の高級キノコだ。


「団長は食ったことあるの?」

「神殿の給料で食えるわけないだろう?」

「え? ないの?」

「こないだ見つかったデカイ菌株がオークションで六千万イェンしたとか聞いたぞ」

「ろ、六千万イェン」

「だってお前、トリュタケは地中に埋まってて容易には見つけられないんだ……豚のモンスターを使役して匂いで探させ……」


 二人の会話がトリュタケを見つけることの困難さに及んだ時、澄んだ楽器のような笑い声が響く。


「フフ。私の鼻は豚のようだな」

「え?」


 ディートは人差し指で鼻を軽く押し上げた。それでも美人だった。


「私の鼻で見つけたんだよ。でも匂いは合格でも美味いかどうかはわからないから、この場で少し食べてみようと思ってな」

「信じられん……」


 団長は幼いころ自分が遊びまわっていた山に、そんな高級キノコがあるとは信じられないようだ。


「なら、お前たちも食べてみるか? 間違いなくトリュタケだぞ」

「え? いいの?」

「お前、敵のものを食うのか!?」


 そう言いながらハヤトも団長もアツアツのキノコを受け取る。


「肉のような匂いがするが。どれ」


 団長が一口かじる。


「な、なんだこれ……肉だ! しかもこんな美味い肉食ったことないぞ。コレ本当にキノコか!? どうしてこんな味になる!?」

「団長、アミノ酸ですよ。キノコはもともとアミノ酸が豊富なんだ。だから地球でも出汁をとるのに使われる。けど……異世界にはこれほどアミノ酸が強いキノコがあるのか……美味い」

「なんだアミノ酸って?」


 ハヤトが団長に食材の薀蓄を説明していると、ディートは上機嫌で山を下りていった。


「うん。いいトリュタケだ。かなりの数が採れたから私は先に会場に戻るぞ」


 団長は地に膝を突いてがっくりと項垂れた。


「俺がシュヨウ山のワラビなんて言い出すから。ひょっとしたら伝説のハクもシュクも狼型獣人だったから肉の味がするトリュタケを採っていたのかもしれないな。す、すまん。ハヤト」

「いや大丈夫ですよ」

「お前もトリュタケ食っただろ? 王宮で食ったローストドラゴンと同じぐらい美味かったぞ」

「確かに美味かったですね」

「こっちはアクの強い山菜ばっかりだ。向こうはただ焼いただけなのに最高に美味い。勝機はないんじゃないか?」

「いや、勝機はありますよ。俺が勝てるかどうかは判定人次第ですよ」

「は、はぁ? 判定人次第って当たり前だろ? その判定人がトリュタケの料理を選ぶんじゃないか」


 ハヤトは自分が採った山菜を見つめていた。

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