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異世界料理バトル  作者: 東国不動
第三章「風雲の料理人ギルドランク試験編」
33/99

31 ハヤトVS麺王ハッサン 後編 ■

「麺料理をパンと考えたらか……」

「なるほど。麺料理はパンなどと同じく小麦粉の料理じゃ。例えばハヤトの料理で似ているものと言えば、ピザがあるな」


 料理賢人と呼ばれるロウの言葉にブラックアイスがうなずく。ロウはハッサンの麺料理を支持している。

 バーン世界にもピザがあった。日本では、多くの具を入れて楽しむが、本場イタリアの伝統的なピザは生地の上にトマト、モッツァレラチーズ、オイルをのせて焼いただけといったような単純なものが多い。生地の味を楽しむ料理なのだ。小麦の風味を味わう料理とも言える。

 イリースもこのスタイルが多かった。

 日本の蕎麦、うどんも最終的にはこれにいき着く。本場ではプレーンな味を楽しむようになっていくのだ。

 ただしうどんを麺のなかの塩だけで食べさせることは、ハッサンの超絶技を以ってしてもやや極端だった。

 ピザにトマトやモッツァレラチーズを使うことは、やはり必然性がある。それを説明したのは山菜料理の女神と言われるエルフだった。


「食感や喉越しはハッサンのほうが上だが、小麦の風味はハヤトの麺料理のほうが楽しめる。トマトの酸味がそれを引き立てるからだ」


 ディートがトマトの酸味の効用について静かにつぶやいた。腕を組む麺王ハッサンの顔に汗が流れる。

 ロウと同じくハッサンの料理に投票したオーベルンもハヤトの肩を持った。


「ハッサンの麺料理の食感や喉越しは確かに見事だが、ハヤトの麺料理の食感や喉越しが悪いわけではない。だとするならば小麦の風味を最大限に引き出したハヤトのほうが上かもしれんな」

 三角形のケモ耳を少しだけ動かして、獣人のロウがハッサンに聞く。耳の動きは感情に対応しているのかもしれない。


「Aリーグの私がこのままお前の料理を支持し続けていると、何やらハヤトとの勝負を避けているように思われそうじゃ。ハッサン、投票先を変えてもよいかの?」


 ロウは、ハヤトとハッサンの勝ち残ったほうとAリーグでぶつかる可能性がある。麺としてはともかく、料理としてはハヤトが上とロウも認めたのだ。

 ハッサンは腕組みを解いて、ロウが少しだけ残していたハヤトのパスタの皿を指差す。


「それ食っていいか?」


 ロウは笑顔でハッサンに皿とフォークを手渡した。ハッサンはパスタを口に入れて豊かな顎ヒゲをモソモソと動かす。そして笑い出した。


「ハッハッハ! わかっていたよ。これが三十年……麺を打つことに取り憑かれた男の独り善がりの料理だってことは。いくらなんでも小麦だけで作り上げた料理が食えるわけないだろう?」


 静寂に包まれた会場に突如ズルズルという音が響き渡る。


「いや。美味いよ。塩味だけの釜あげうどんがこれほど美味いなんて」


 ハヤトは勝手にロウの釜あげうどんをすすっていた。


「ちょっ、お前、なんで勝手に食っとるんじゃ!」

「フッハッハッハ!」


 ロウがハヤトに抗議をしようとすると、ハッサンは笑いながらハヤトの手首を握って掲げた。


「勝者はハヤトだ! ロウ、構わないな?」

「うむ。その小僧と料理バトルをやってみとーなったわ」


 エルフのディートも微笑む。


「ハヤトが勝ち上がってくるとは限らないわよ。次にハヤトと戦うのは私なのだから」

「カカカ。そうじゃったな」


 試験官が最終確認をする。


「ハヤトの料理を支持する者六名! ハッサンの料理を支持する者四名! それでいいか?」


 異論を述べる者はいなかった。試験官が宣言をする。


「Aリーグ第二試合勝者! ハヤトカツラギ!」


 勝ったはずのハヤトが浮かない顔でハッサンに話しかけた。


「オッサン、ごめん。麺だけなら俺の負けだと思ったんだけど」

「いや麺の味をソースで引き立てたお前の料理の勝ちさ。食ってみてわかった。こいつらは味がわからんから同数なんてことになるんだよ」


 ハヤトとハッサンは再び握手をしあい、Aリーグの勝負は幕を下ろした。

 だが、まだBリーグの第二試合が残っている。

 剣神十二包丁の異名を持つガラハドと、チーサンショクのグループだが実力派の噂が高いショウサンゲンの戦いだ。


「どちらもダーイのかぶと煮か」


 ダーイは鯛によく似た味の白身魚である。そのかぶと煮は、イリースではお祝いの時などに食べられる。

 二人とも技術に自信があるのだろう。ダーイでかぶと煮を作るという真っ向勝負だった。

 ハヤトはその匂いによだれを垂らしそうになる。

 しかしAリーグの第二試合で勝負したハヤトは、判定人にはならないのでハヤトの分はない。


「この料理の勝敗はすぐにわかるよ。ハッキリとガラハドだね」


 中立の立場で品評できるようになったチキータが勝敗を語った。他の料理人たちもうなずく。

 ショウサンゲンはそんな馬鹿なという顔をした。


「な、なに! 俺のかぶと煮は煮汁までダーイの身の出汁でとったものだぞ。刺し身の勝負ならガラハドに及ばないが、煮魚の勝負で俺が負けるわけがない」


 金髪碧眼の美男子のハルトラインが口を拭いながら言った。


「かぶとを煮るための煮汁にダーイの身の出汁を使ったのは、お前だけではない。ガラハドもだ」

「な!?」

「しかもガラハドは鱗や内臓や血合いなどを包丁技術で完璧に取リ除いた身を使って出汁をとった。煮汁をスープとして飲んでも、上品で味に一切の雑味もない」


 ハヤトはその話を聞いてたまらなくなった。料理賢人のロウも講釈をはじめる。


「カカカ。さらにかぶとは細かい骨までも味を損なわずに取り除いているぞ。なっ、こら! なんでまたお前は勝手に私の皿を食うんじゃ……」


 うーん。ハヤトはダーイの身を食べながら唸っていた。バーン世界の料理人恐るべしと。

ハヤトは地球の料理の歴史についても勉強している。料理が発展するのはやはり生活が豊かになった近代以降である。


 それにもかかわらず、地球とバーン世界の料理の水準は変わらないかもしれない。

中世の文化レベルでなぜここまで料理だけが発展しているのか? それはバーン世界の成り立ちにかかわっているのだが、この時のハヤトにそれを知る由もない。

ただただ、異世界の料理人たちの腕に感心していた。


「お前はチキータと仲がよいのだからチキータの皿から食えばいいじゃろ! おい聞いておるのか!?」

「いや食べる者を喜ばせようとする料理人の心は、どこの世界だって変わらないのかもしれない」

「何を言っとるんじゃ、お前は! いいから私の皿からつまむのをやめろ!」


 ハヤトはハッサンの料理やガラハドの料理を食べて、クッキングスピリットを新たに燃やすのだった。


挿絵(By みてみん)

第一試合勝者ディート   第二試合勝者ハヤトカツラギ



挿絵(By みてみん)

第一試合勝者チキータ   第二試合勝者ガラハド

明日も投稿します。

画像は勝ち進みを赤くして差し替えます。

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