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異世界料理バトル  作者: 東国不動
第三章「風雲の料理人ギルドランク試験編」
30/99

28 本戦進出!

 神殿食堂の料理長のハリーは、食都セビリダの料理人ギルド本部の建物に入った。本日も料理人ギルドの幹部たちとの会合があったためだ。

 議題はもちろん裏料理人ギルドの対策である。


「ハリーさん!」

「ああ、どうも、ヘルマンさん」

 ハリーはロビーで、ヘルマンという人物から声をかけられる。彼は予備試験でハヤトの監視員をした人物だった。


「ハリーさんは今日も会合ですか?」

「ええ。ヘルマンさんは?」

「ギルドのS級認定試験の監視員の手続き等で来ました」

「ありがとうございます。ヘルマンさんほどの料武両道の料理人にこんな仕事を頼んでしまいまして」


 ヘルマンにハヤトの監視を頼んだことへの御礼を言ったのだ。

 ちなみに料武両道とは文武両道をもとにハリーが作った造語で、料理と武道が両立しているという言葉である。イリースにもこんな言葉はなかった。

 こんな言葉を考えて、実際に使うあたり、ハリーの料理への入れ込みようも度が過ぎていた。

 ヘルマンは笑いながら答えた。


「いえ。私もハヤトくんに同行して、とても勉強になりました」

「そう言っていただけると助かります。ところで予備試験は通過したと聞きましたが、彼はどんな料理を?」

「キングフロッグを見事な唐揚げにしたのです」

「ええ!? キングフロッグって昔はその辺の沼にいた?」


 ハリーは驚いていた。美味しい料理は食材の命、そしてそれを捕ったり生産してくれる人がいてこそ作れる。

 パートナーの大切さを多くの料理人、特にハヤトに教えようと思って、あんな課題にしたのだ。

 ハリーは料理人というだけでなく武の実力者でもある。ユミの強さは見ればわかった。


「弓使いの女の子……ユミちゃんがいれば、キングフロッグ以上の食材を簡単に捕れるはずですが」

「ハヤトくんの助手は魔物を殺したことがないという神官さんでしたよ。なんでも故郷の学校の友達とか。キングフロッグはハヤトくんが泥んこになりながら仕留めたものです」

「そうでしたか」


 ハリーはヘルマンに挨拶して別れ、料理人ギルド本部の最上階へ向かった。

 キングフロッグは決して不味い食材ではないが、それで予備試験を通過したというなら、よほど料理のできがよかったのだろう。

 そして何より、ユミの他にもハヤトを助ける仲間がいることが、ハリーは嬉しかった。


「ハヤトくんはパートナーの大切さなど私が教えなくても知っていたようですね」


 ハリーが会議室に入ろうとすると、前からかつてのパートナーがやってきた。


「あ、エキドナさんも今来たんですか?」

「いいえ。ハリーさんを待っていたんですよ」


 悪魔のような美しさの女性からそう言われて、浮き立たない男がいるだろうか。しかもエハリーに対しての彼女の心は悪魔どころか天使なのだから。


「そうですか。嬉しいですね。では一緒に会議室に入りましょうか?」

「あら、あらあらあら。朴念仁のハリーさんが今日は優しいわ」

「パートナーを大切にしよう月間ですので」

「まだ私をパートナーと思ってくださっていたの?」


 ハリーはもちろんですよという笑みをエキドナに見せて、会議室のドアを開けた。


◆◆◆


 料理人ギルドの長老や幹部たちの議題は、やはり裏料理人ギルドの台頭である。なかでもS級ランクの認定試験に、裏料理人ギルドの息がかかった受験者がいるのではないかという噂に注目が集まっていた。


「いったい誰が裏料理人ギルドから送られてきた受験者なのか?」

「S級料理人は来るべき裏料理人たちとの戦いの重要な戦力でもある。そこを逆に狙われるとは」

「裏料理人がS級ランク試験に合格するようなことになったら、獅子身中の虫をわざわざ迎え入れることになる」


 表の料理人ギルドは大食魔帝率いる裏料理人ギルドにいつも後手後手に回っている。有効な手立てが取れないのが現状だった。


「ならばいっそのこと、今年は全員不合格にしてしまうというのはどうか?」

「それも致し方なし……か」


 後ろ向きな意見が通りそうになった時、それまで静観していたハリーがついに口を開いた。


「それはあまりに消極的というものではありませんか?」


 ハリーの意見に若手幹部の一人が安心したように声を上げる。


「なるほど。ハリー殿が推すハヤトカツラギが本戦に残っていますね」

「そうか! ハヤトカツラギを勝たせよう!」

「そ、そういうわけにもいきませんよ」


 意見があっちにいったりこっちにいったり。完全に表の料理人ギルドの面々は浮き足立っていた。そもそも彼らは真面目な料理人の長老や幹部たちであって、権謀術策に富んでいるはずもなく、抗争など苦手で当然だった。

 大食魔帝に押されてしまうのは当然である。


「もしハヤトくんが裏と戦える実力を身に付けるなら必ず勝ち上がってくるはずです。もちろん他の者かもしれませんが……料理の道を志し、勝ち上がってきた者を信じようではありませんか。邪道は必ず正道に敗れるはずです。ましてやそれが料理ならば」


 そうは言ってもという顔をしている幹部や長老たちもいたが、いつものようにエキドナがしめた。


「ではSランクの認定試験はこのまま例年通り続行ということでいいですね」


 エキドナの意見に特別反対を掲げる者はいなかった。


◆◆◆


 ハヤトとユミとチキータは同じ屋根の下で夕食をとっていた。

 食卓の上にはいろいろな料理が並んでいるが、ベヒーモスの串焼きとキングフロッグの唐揚げもある。


「チキータさん。この串焼きすっごく美味しいです~」

「でしょ~」


 ユミとチキータは楽しげに話しているが、ハヤトは何となく後ろめたくてユミを正面から見ることができず、窓の外を眺めるふりをして飲み物を飲んでいた。

拗ねていると誤解したのか、ユミがハヤトに声をかける。


「ハヤトの唐揚げも美味しいよ」


 ハヤトは自分の料理を褒められるのがとても好きだ。


「そ、そう!?」

「うん。チキータさんの串焼きのほうが美味しいけどね(笑)」

「うっせー!」


 ハヤトはムキになるが、代わりに後ろめたい気持ちは忘れることができた。


「カエル捕るの、本当に苦労したんだぜ~。クラスの奴らにいつも魔物捕ってきてもらってるけど感謝しないといけないよな」


 どうやらハリーの意図も少しは伝わったようだ。

 三人の話題は本試験へと移る。


「明日からは勝ち抜き戦だね。私と戦うまで負けちゃダメだよ、ハヤト」

「おう! チキータこそ負けるなよ!」


 ハヤトとチキータが料理人同士のクッキングスピリットを確かめ合っていると、ユミもその間に割って入った。


「明日は私もハヤトの助手をするね」

「え? 店はどうするのさ。ガーランドのオッサン一人じゃ大変だろ?」

「ほら、こないだ料理人ギルドに行った時にウチに採用されたいとか言っていた女の人いたじゃない? ルシアさんって名前だったんだけどね」


 ハヤトは思い出す。そういえば履歴書の裏にキスマークつけとくとか言っていた豊満なお姉さんがいたなあ。あの人がルシアさんかな。


「面接してみたら料理も美味いし、意外と真面目な人だったから手伝ってもらうことにしたの」

「あ、そうなんだ」


 ハヤトはもともと従業員を増やすことには賛成だった。


「だから明日はガーランドさんとルシアさんに任せて、私もハヤトを手伝うよ」

「そっか。ありがとう! 頼むぜ!」


 見つめ合うハヤトとユミにチキータは頬をふくらませた。


「あーもう見せつけられてムカつく! 私、ハヤトとユミのコンビには絶対に負けないからね!」


 ハヤトとユミは顔を赤くして、そうじゃないと否定したが、チキータが笑うのを見て二人も笑った。

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