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異世界料理バトル  作者: 東国不動
第三章「風雲の料理人ギルドランク試験編」
25/99

23 予備試験 課題「卵料理」後編

「チーサンショク! 合格!」

 ハヤトがどうしようかと頭を抱えて唸っているころ、ポツポツとワイバーンの卵を用意してオムレツを作った料理人たちがいた。

 チーサンショクもその一人だった。ワイバーンの卵は一個でも大きいのでオムレツを何個も作れる。他の料理人に溶き卵を回してもらったようだ。どうもベテランの料理人同士で協力をしあっているようだ。

 西はデスバッファローを狩ることはできるが、ワイバーンの巣の場所は知らない。S級試験の厳しさをつぶやく。

「S級料理人の受験はなんでもアリだったんだな」

「それも実力のウチってことなんだろう」

 わかったようなことを言ったハヤトに西が怒鳴った。

「腹押さえながら格好つけても遅えんだよ!」

 そのとき、会場に風が巻き起こる。大きな竜が舞い降りたのだ。ハヤトは風で吹き飛ばされそうになった。フェアリーが飛ばされないように西は前に手をかざしてやった。

 竜はしばらくすると赤毛、金眼の美少女に変化した。裸の姿だが手にはラグビーボールほどもある大きな卵を持っている。

 先ほどチーサンショクに教えてもらった竜人のチキータか、そして手に持っているのはワイバーンの卵に間違いないとハヤトは思った。

 その光景は太陽の陽を浴びて神々しいとも言えるほどの美しさだった。

 十八歳ぐらいに見える少女は完璧なプロポーションで、上下の毛はどちらも燃えるような赤だった。

 西の目はフェアリーの身体で遮られていた。

 しかしハヤトは料理のことになると美少女の裸も関係ないらしい。

「西。あの娘に溶き卵を分けてもらえないか聞いてくるわ」

「お、おい! ハヤト」

 誰も近寄ることができなかったチキータにハヤトは生まれたての子鹿スタイルでフラフラと近づいて話しかけた。

「ねえ。ワイバーンの卵を分けてもらえないかな?」

「あの……まだ私……裸なんだけど」

「ああああああああああ。すまん。これ」

 ハヤトは自分の上着をチキータに渡した。

「ありがとう。君は優しいんだね。でもマントも着替えもそこに自分で用意してあるから」

「あ、いや。優しいどころか配慮がなかったよ」

「それも嬉しいよ。君だけが私の裸を好奇の目で見ていなかったからね」

 確かにハヤトはチキータの持つワイバーンの卵に気を取られていた。

とはいえ、実際にはハヤトはチキータの肢体を少しは見ていた。それはあまりにも美しい光景だったからだ。

チキータはテキパキと着替えている。着替えながらハヤトに話しかけた。

「噂で聞いているけどハヤトだよね? 私はチキータっていうんだ。よろしくね」

「ああ。うん……ハヤトだよ。よろしく」

 少しだけ年上に見える竜人の笑顔を見て、今さら顔を赤めるハヤト。

「卵は分けられないよ。もしハヤトじゃない人がこうやって話しかけてくれたら卵を分けたかもしれないけど……。S級ランクのアンドレ氏に料理バトルで勝ったハヤトにはあげられない……私はどうしてもS級ランクを取りたいんだ。他の人にもやっぱり分けないから許してね。ごめん」

 そう言うとチキータは辛そうに料理をはじた。

「そうか。俺のほうこそ無理を言ってごめん」

「ううん。ドラゴンの私に人間のハヤトが気軽に話しかけてくれて嬉しかったよ。試験はお互いに頑張ろうね!」

 西のところに戻るハヤト。

 腹の調子が悪いこともあってハヤトは座り込んでしまう。西はすでに座り込んでいた。

「ダメか。お前ってやっぱ料理人の業界で尊敬されてないんじゃないの?」

「そうかもしれねえ……」

 二人が話していると「チキータ! 合格!」という試験官の声が聞こえてきた。

 そちらのほうを見るとチキータが走り寄ってきた。

「やった! 第一予選は通っちゃった!」

「お、おめでとう」

 トップクラスの常連と聞いていたチキータは、第一予選が通っただけで本当に嬉しそうにはしゃいでいる。竜は感情表現が豊かなのか。その姿は少し子供っぽくも見えた。

「ありがとう! ハヤトもそんなところで座ってないでさ。他の人の料理を見にいったら? 今回はダメでも次の参考になるよ」

「もうダメってか」

 チキータは正直な女の子だった。

 でもハヤトはその通りだなと思ったし、他の料理人に興味があったので、腹を押さえながら腰をあげた。西も立つ。西の肩に乗っていたフェアリーも飛び立った。

「それってフェアリー? 西くんは精霊術士なの!? 凄いね」

「お前もハヤトを騙して足引っ張るつもりじゃないんだろうな」

「私はそんなことしないよ。チーサンショクさんにやられちゃったんでしょ? 私も初めての時はやられたんだ」

「簡単には信用できないな」

 西はそう言いながらも、美少女に精霊術士であることを褒められて嬉しそうだった。フェアリーは西の顔の前を飛び回る。

 西がうざそうにフェアリーを追い払っている間に、会場には戻っているのに動いていない料理人が何人かいることにハヤトは気いた。

「あれは確か麺料理が得意っていうドワーフのオッサン。なんで料理をしないんだろう」

「自分の料理と技をギリギリまで見せたくないんだと思うよ」

 チキータの意見にハヤトはなるほどなと思うと同時にあることに気がつく。

「ドワーフのオッサンもワイバーンの卵なんて持ってないぞ」

 チキータはなにも答えない。代わりに大きくうなずく。

「そうか。腕を見せることができる最高の卵料理となれば、まずはプレーンオムレツが思いつくけど方向性を変えればいいのか」

 それを聞いたチキータは笑顔を見せて言った。

「あは! そこまでわかればハヤトならきっと大丈夫だよ。そもそも遠い国から来ている料理人は、ワイバーンの卵なんてすぐに用意できないしね。私は例外だけど」

 西は、チキータお言っている意味がわからずに尋ねた。

「どういうことだ?」

「誰もが思いつく料理でテクニックを見せることも一つの方法だけど、オリジナリティのある卵料理で戦うのも一つの手だろ?」

「そうか。俺にもわかってきたぞ。ならお前は有利じゃないか? 地球の知識があるんだから。アレを作れよ」

 西が言うとフェアリーも気がついたようだ。

「プリン! 甘いプリン作って~!」

 チキータが話に乗る。

「プリン? 私は知らない料理だけど凄く美味しそうな響きだね。甘いってことはスイーツなのか。私も食べたいなあ」

「よーし! それじゃあ市場で牛乳買ってくるか。チキータの分も作ってやるよ!」

「ホント!? 嬉しー!」

 一時間半後、急いで作ったプリンが完成する。西が言う。

「チキータさん。これ見たことある?」

「わ~食べてみないとわからないけどないと思うよ」

「だろーよ」

 甘党の西はバーンにプリンがないことを確認して満足そうに食べはじた。フェアリーも自分の身体ほど大きいプリンにかじりつく。

「美味い!!! 最高だな。プリンは」

 ところが西とフェアリーと違ってハヤトとチキータの顔は暗い。西はどうしたんだと思う。

「このプリン。ひょっとして美味くねえのか……? 俺は普通に美味いと思うんだがな」

「美味いよ……普通に」

「本当……こんなスイーツ初めてだよ。美味しいよ」

 ハヤトもチキータもプリンの味には美味いと判断しているようだ。

「ならこれを試験官に出せばいいじゃないか」

 西の言葉にハヤトは暗い声で返した。

「いやダメだ。これじゃあ落ちる」

「なんで?」

 ハヤトのかわりにチキータが答えた。

「このスイーツは美味しいし、私も見たことがないよ。でもこの料理をワイバーンの卵で作ったらと思うと」

「そうなんだ。あの濃厚なワイバーンの卵でプリンを作ったらもっと美味くなるはずだ。今、試験官は立て続けにワイバーンの卵のオムレツを食っている。それに気がつかないはずはない」

 ハヤトは再び考えこむ。

「ね、ねえ。ハヤト。やっぱりワイバーンの溶き卵の余った分をあげようか? それでこのスイーツを作れば?」

「いや、それじゃあチキータに甘えすぎだよ」

「じゃあ、やっぱり私の卵でオムレツを……」

「同じじゃないか」

 技術で戦うのではなく、独創で戦うという光明は見えた。チキータはそう言うが独創で戦うというヒントも彼女から貰ったんだ、これ以上は料理人として甘えられないとハヤトは思っている。

 しかし、オムレツもプリンも料理の技術が同じならワイバーンの卵で作ったほうが上なのだ。

プリンを作るなら鶏の卵よりもワイバーンの卵のほうが上。

「ん? プリンならワイバーンの卵が上? そうだ! 西、ジンでラーメン屋に飛んでくれ!」

 ハヤトたちがラーメン屋にいって材料をかき集めて会場に戻ると残り時間はあまりなく、次々と予選突破者が出ていた。

「この料理はなんだ?」

「卵麺の油そば!」

「ふーむ。麺料理は私も食べたことはあるが麺のつなぎに卵黄を多くするだけでここまで風味が変わるのか。味も上々。ドワーフのハッサン! 合格!」

「山菜の天ぷらか。美味いが、なぜこの山菜が卵料理なのか?」

「これはタラの芽だ。イリースでは今の時期に生える木の芽。それを天ぷらにしたものだよ」

「なるほど……木の卵というわけだな。それに葉の広がっていない出たての新芽は丸くて卵のようにも見える。文句のない味。エルフのディート! 合格!」

 次々に強豪たちがその技と料理を見せつけて合格していく。

一方、ハヤトはラーメン屋から持ってきた材料を超速で仕込んでライバルの様子をボーッと見ていた。

 タラの芽の天ぷらは日本にもある。天然のタラの芽の天ぷらは非常に美味しい。

 山をよく知っているものだけが食べられる。ハヤトはユミにも教えてあげたいななどと考えていた。

 フェアリーがハヤトの顔の前を飛び回る。

「ハヤト。ハヤト。なにをボーッとしているの。もう後、二十分しかないんだよ」

「まあ待て。そろそろ完成するよ」

「え? なにか作っていたの?」

「ああ、あそこを見ろよ」

 ハヤトが指さした先には鍋が火にかけられていて、水蒸気があがっていた。

「いつのまに」

「さあ。完成だ!」

 皆が蒸気から出てくる料理を見る。西だけがその料理名を知っていた。

「茶碗蒸しか!」

「そう。これを作るのに一番大変で重要なのは、美味しい出し汁を作ることだからね。茶碗蒸しにも合いそうな出し汁の試作品が、ラーメン屋にたくさんあったんだよ」

「なるほどな」

「よし! とりあえずみんなで食ってみよう。チキータもどうぞ」

「わ~見た目はさっきのプリンみたいだけど、海老とかキノコとか鶏肉とかも入っているんだね」

 早速、みんなで試食する。

「甘くないけど美味しいね」

 フェアリーが言う。ハヤトと西もうんうんとうなずく。

 最後にチキータが語る。

「卵の味もするけどお出汁の風味を楽しむ料理なんだね。とっても美味しいよ。ハヤト」

「ああ、この料理は簡単に言えば、出し汁と溶き卵を混ぜたものに具を入れて蒸すだけの料理だからね」

「うん。もし、この茶碗蒸しをワイバーンの卵で作ったら卵の味が強すぎて、お出汁の風味が殺されちゃうね」

 ちょうどそのころ、試験官が残り五分と会場に伝えていた。

「おっとこうしちゃいられない。空いている試験官に茶碗蒸しを持っていかなきゃ」

 試験が終わるころ、会場には、

「ハヤトカツラギ! 合格!」

 という試験官の声が響いた。

 その声を聞いて、竜人の少女チキータは、飛び上がって喜んだ。ライバルが勝ち進んでいるとは思えないような笑顔を見せていた。

本日のメニュー

『茶碗蒸し』


十万文字に到達しました。

一つの目標でした。ありがとうございます。

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