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異世界料理バトル  作者: 東国不動
第二章「伝説の食堂編」
15/99

15 本日のお客様「妖精と精霊術士」

 妖精や精霊は現界と幻界のハザマでのほほ~んとなにも考えずに漂っている仲間が多い。私もそうだった。

 魔力が強い場所では人間のいる現界に、少しだけ実体化できる。なにも考えずに幻界のハザマに漂っていてもいいんだけど実体化している間はハッキリと思考ができるし、魔法も使うことができる。実体化するようになって知ったことだけど、なにより美味しいものも食べられる。

 でも実体化の楽しさを知らなかった私は漂っていた。ある日、現界から強い魔力が流れてきて、それを使って実体化してみると狐のような眼をしたちびっこい人間の男の子がいた。

「へ~これが妖精って言うのか」

 これが私と西くんの出会いだった。


◆◆◆

「西くん。西くん。起こせって言った時間だよ」

 昨日の夜に「暗黒樹海にいくから明日の朝は早く起こせ」と言っていたくせに西くんはまったく起きようとしない。西くんがよく言う朝のまどろみを邪魔するなとかいうことだと思う。睡眠をとることのない妖精の私には気持ちがわからない。

 西くんは耳元にいる私を払おうと手を振る。軽くやっているつもりなんだろうが、こっちはチビの西くんよりさらに小さい手の平サイズなので当たるとかなり痛い。

 そういうことなら私はアレをしちゃう。私は西くんがくるまっているタオルケットに潜り込む。首元から入って胸、お腹とドンドン下のほうへと突き進む。目的の部分にたどり着いた。

「これこれ。朝は特に元気になっているんだよね」

 ひっひっひ。私はそれに噛み付いた。

「ぐあああああ! トンボめ~!」

 西くんは起きたようだ。これが一番効く。暴れだす前にベッドから飛び出る。西くんをからかうのは面白い。人間にいたずらすることを趣味にしている妖精仲間がいるのもわかる。

「テメー幻界に帰すぞ!」

「私は小さいから喚ばれていなくても西くんから漏れでている魔力でずっと実体化できるもーん」

 けど私は知っている。西くんがその気になれば私の実体化を解除できるということを。それでも西くんは私を幻界に戻したことはない。

「くそ~面倒臭え……」

 西くんの朝は文句からはじまる。朝でなくても文句ばかりだけれど。まず顔を洗って歯を磨いてからのろのろと着替える。その間もずっと文句を言っている。

「王女様がレバ刺しを食べたいって言うから取ってくるけどハヤトの料理狂いめ。だいたい、神殿の奴らも奴らだ。召喚とかただの拉致じゃねえか。その上、戦争させようとか。どっかの国よりひどい奴らだぜ」

「西くん。西くん。それ精霊を召喚して使役する精霊術士が言うことじゃないから」

「うるせー」

 最初はうんざりしたものだが、今は西くんの文句を聞いているのも楽しい。西くんは朝食も摂らずに外でジンを呼び出した。

「わりーんだけど暗黒樹海まで飛んでくれ」

 ジンは上級の風の精霊だ。五メートルほどの巨人で背に乗って移動することもできる。

 というか本来は一瞬だけジンを幻界から現界に召喚して、風の魔法を使わせるのが一般的な使い方だ。

 ところが西くんの友人のハヤトが、

「こいつでかいし空飛べるから背に乗って移動できるんじゃね?」

 と言った。以来、ジンは空飛ぶ絨毯になったんだけど私のような小さい妖精と違って魔力消費が激しい。

 西くんは頭を押さえながら必死に我慢している。

「があああああ。気は失わなくなったけどキツイぜ。くそ」

 私は西くんの肩に乗りながら言った。

「なんだかんだで優しいね」

「ハヤトと取引したからな。仕方ない」

 西くんはこめかみを揉みながら言った。取引? なんの取引だろう。

 西くんは暗黒樹海で初めて魔王と会った場所にジンを飛ばす。執事姿の老魔族とゴスロリ姿の魔王が待っていた。

「それでは西様。ブリリアント様をよろしくお願いします」

「はいはい」

「爺やにもレバ刺しのお土産を持って帰るのじゃあ」

 西くんはまた魔王と一緒に行動するようだ。

「西くん。西くん。私は妖精だからわかるけど、この子は本当に魔王なんだよ」

「ハイハイ、魔王、魔王」

 私の話を信用してくれない。魔王がその気になったら殺されちゃうかもしれないんだから!

 西くんは魔王を連れて樹海をうろつく。

「木の精霊ドリアード。デスバッファローをどっかで見なかった?」

 精霊魔術は汎用性が非常に大きい魔法だ。もし風魔法のスキルがあっても風魔法系列の魔法しか使えないけど、精霊魔術は風の精霊に風魔法を使わせることもできれば、火の精霊に火魔法を使わせることもできる。こうやって精霊の知識を借りることもできる。

 その分魔力消費が大きい。魔力が尽きれば生命力まで吸われる危険な魔術だ。西くんは少し投げやりなところがあって、自分の命である生命力まで簡単に使ってしまうことがある。

 私が止めないといけない。

 デスバッファローを発見する。デスバッファローは西くんを見付けると猛烈に突進をしてきた。肉弾系で重装甲の赤原なら正面から受け止められるけど西くんが受けたら即死だ。

「土の精霊ノームよ。土を槍として魔物の心臓を穿て!」

 西くんは迫るデスバッファローをギリギリまで引きつけて倒す。私はハラハラしてしまうけど平然としている。

「さてと。じゃあハヤトの店にいきますか。ジン」

「西~。ビューと超早く飛ばすのじゃ」

「ハイハイ。わかりましたよ。ちゃんとジンの後ろ髪に捕まっとくんだぞ」

 これから西くんはまた頭を押さえながらジンを使役しなければならない。ちょっとハヤトはひどいんじゃないだろうか。いたずらしてやろうか?

でも西くんのアレならいいけどハヤトのアレにはなぜか噛みつきたくない。なんでだろう?

 ハヤトの店の前にいくと清田が仁王立ちしていた。西くんが聞く。

「清田なにやってんの?」

「王女様をお守りするためにセキュリティチェックをする」

 清田は西くんの体を弄りはじめる。

「お、おい! よせ!」

「武器はないな。いってよし!」

 西くんは無理やり体を触られて「くそ! 気持ち悪い」とか言いながら店に入ったが私はなんだか楽しい気分になった。なぜか清田もっとやれと思う。

 なにかに目覚めそう。

「おうハヤト。店の裏にデスバッファロー置いてきたぜ」

「お。来たか。サンキュー」

「アレとアレを忘れんなよ」

「わかってるわかってる」

 西くんはさっき言っていた取引とやらの要求をハヤトにする。

 その後は疲れきったように一番端のカウンター席に座って突っ伏した。

「西くん。西くん。さっきのアレとアレってなに?」

 西くんは返事をせずに手でシッシと私を追い払おうとする。さすがに可哀想だから少し休ませてあげよう。今はアレもふにゃふにゃしているから噛みにくいだろうし。

 ハヤトの店に人が増えていく。気絶した状態で清田に運ばれてきた戦士系の人もいた。団長も追加される。

「アイツ狂ってやがる……。今日だけは異世界に来て精霊術士であったことに感謝するよ」

 いつの間にか起きていた西くんが言った。そうそう。感謝したほうがいいよ。私みたいな可愛い妖精がいつも一緒にいてあげるんだからと思っていると、いつもの皮肉がはじまった。

「トンボに取り憑かれるのはうざいけどね」

 私は西くんの顔の前を飛び回った。

「うぜえ! ハエ攻撃か!」

 ハヤトが近くに魔王を連れてきた。西くんは文句を言う。

「貸し切りなのに、どうしてこんな奴まで連れてこいって言ったんだよ。帰しにいくのも大変なんだぞ」

「しょうがねえだろ。リリーは遠くに住んでいるんだから。なあ同志よ」 

 魔王はベッタリとハヤトに懐いている。魔王、本性を現すなら西くんと一緒にいるときじゃなくてハヤトと一緒にいるときにしてよね。

「ああ、ちゃんとお前の席をソフィア王女の近くにすればいいんだろう」

 ハヤトが言うと西くんはヘラッとだらしなく笑う。取引とはこのことか。私はまた西くんの顔の前を飛び回った。

「またハエ攻撃か!」

 パーティーがはじまったようだ。西くんの席は確かにソフィア王女がいるテーブルだったが、他にも団長やアンドレとかいう料理人もいた。プッ。西くんはハメられたらしい。

「こんないかちーオッサンが二人もガン付けてくるなら、クラスの女どもといたほうがマシだよ」

 私は西くんに言ってやった。

「西くん。西くん。店は狭いからもう他の席はないよ。それに西くんが来てもクラスの女の子たちも喜ばないから」

 西くんは私を睨む。本当は女の子たちの中には、西くんのことをカッコイイと言っている子も何人かいることを私は知っている。ちなみにどうでもいいけどハヤトにもいる。

けどあの女の子たちが西くんの本当のよさを知っているはずがない。西くんのよさを知っているのは私だけ。だから私だけがずっと西くんと一緒にいるんだ。

 でもソフィア王女みたいな人だったら私は譲ったほうがいいのかな……。

 パーティーの途中でハヤトが外の空気を吸いにいきたいと出ていった。その後、ソフィア王女もお花を摘みにいってきますと言って席を立った。

 こんな夜中にお花を摘むんだろうか。西くんが私に命令した。

「おいフェアリー、王女の後をつけろ。王女がもしハヤトと外で会っていたらすぐに俺に知らせるんだぞ」

 二人で花を摘みにいくのだろうか。ちなみに後で聞いたのだが、偉い人が花を摘むとはトイレにいくという意味だそうだ。

 ソフィア王女は店の裏口から外に出ていった。外にはハヤトと赤原もいて王宮の人っぽい人が馬車から降りて代わりに三人が乗り込んだ。

「西くんに教えたほうがいいかな? 教えなくてもいいよね。王女がハヤトか赤原と仲良くなれば西くんを取られる心配がないし……」

 私はすぐに教えろという命令を無視して上空から馬車を眺めた。アレ? 変な格好をした人たちが馬車を囲んでいる。

 大変! 西くんに教えなきゃ! 私は大慌てで店に戻った。

「西くんごめんなさい! 王女とハヤトたちが襲われているの! 私が早く教えなかったから」

 それだけ言うと西くんは立ち上がった。

「いいっ! いいから場所を教えろ!」

 西くんはすぐに外に出てジンを呼び出す。上空から馬車を発見。

「間に合ったみたいだな」

 と安心したようにつぶやくと、気だるそうに土の精霊ノームを呼び出して盗賊どもを蹴散らした。

 王女はなにもしないで泣いていて、ハヤトと赤原はヘラヘラ笑いながら助かったとか西くんに言っていた。

 私は三人に怒りたくなった。けれど、そもそも西くんは「すぐに教えろ」と言っていたのに、私がすぐに教えなかったのがいけなかったかな。

「王女様がいなければお前らが賊に襲われようと殺されようと放っておくんだけどな」

「スライムより弱い奴が護衛なんかすんじゃねーよ」

 西くんは怒るふうでもなく、いつも通り文句を言い続けるだけだ。王女を送ってハヤトの店に戻ると店内は大混乱だった。

 西くんとハヤトと赤原は混乱していてもどこ吹く風だったけど、清田が「王女がいなくなったのは俺の責任。腹を切る」とか言い出したときは少し慌てていた。

 ハヤトが西くんに魔王を送れとか言い出す。ハヤトはさすがにひどすぎる。西くんはもう明日にしてくれと言ってハヤトからなにかを受け取って寮に帰る。

 怪しい。それは蓋付きの陶器製のコップで中身は見えなかった。

「なにそれ。見せて」

「外ではダメだ。寮に帰ってからな」

 西くんはケチだったけど、今日は迷惑をかけちゃったからな。

 それにしても、面倒くさがり屋の西くんが今日はあんなに働いたのは、やっぱり王女のためなのかな……。近くの席に座りたかったんだもんね。

 寮についた西くんはベッドに倒れこんだ。

「も~風呂入る気もおこらねえ。明日も魔王を樹海に送らなきゃいけねえし、このまま寝るか」

「ええ? 西くんは魔王って信じてくれていたの?」

「お前がそういうんだからそうなんだろ? あんな樹海に住んでいる人間の貴族がいるわけねえし」

「……じゃあどうして」

 西くんは少し考えてから言った。

「まあ後ろからサラマンダーで燃やしてやろうかとも思ったけどな。そうすれば元の世界に帰れるかもしれないけどガキンチョだしな。別に魔王を殺さなくてもなんとかなるかもしんねーし。つうか魔王を倒したら本当に帰れるかも怪しいもんだしな。考えるのも面倒くせえ。魔王とか世界を救うとかはハヤトとか清田に任せるよ」

 西くん……カッコイイ……。今日は王女様のために働いたのだとしてもいい。いつかきっと私のために……。

「あ、それと机の上に置いたそのコップの中に入っているのはプリンだから食っていいぞ。お前甘いもんが好きだから日本のプリンの話をしたら食いたいって言ってただろ? ハヤトに作ってもらった」

「え? 西くん。ひょっとしてハヤトとした取引ってコレのことなの?」

「そんなこと言ったか? ううううう頭が痛え。俺はもう寝る」

 西くん……好き好き大好き! 私は西くんのベッドの中に潜り込む。

「だからベッドに入るなって言ってんだろ。お前がいると寝返りで潰しちまいそうでよく寝れねんだよ。そのせいで寝不足なんだぞ! がああああ頭痛え!」

 今日ぐらいは可哀想だからゆっくり寝かせてあげるか。プリン食べちゃおうっと。

 これがプリン……美味しい。

 ハヤトの作ったプリンは超美味しかった。本当は甘党の西くんに半分残してあげようかと思ったけど、美味しすぎたので全部食べてしまった。仕方ないよね。テヘ。

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