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異世界料理バトル  作者: 東国不動
第二章「伝説の食堂編」
11/99

11 本日のお客様「神官」

「そう。俺は祖国を……日本を……愛していたんだ……。だが祖国がレバ刺しを裏切った日……俺は祖国を捨ててこのバーンの大地に流れ着いた……」

「かっこいい! ハヤトはかっこいいのじゃ! もっと話を聞かせろなのじゃ!」

 風の上級精霊ジンの背にハヤトと幼女と執事、赤原と西が乗っていた。

 完全に定員オーバーである。さらに解体したデスバッファローの肉の重さまでも加わる。

「俺の店に着いたらデスバッファローのホルモン鍋もやろう。新鮮だから美味いぞ~」

「ホルモン鍋、楽しみなのじゃ」

 精霊魔術でジンを使役している西はドンドン魔力を吸い取られていく。いや、すでに魔力は完全に尽きて生命力が吸われ続けていた。フェアリーが「西くん。死んじゃうよ。死んじゃうよ」と必死に警告している。

 妖精のフェアリーは死にそうになっている西を見て、初めて自分が西を愛していたことに気がつく。フェアリーは自分と西を魔力で使役されているだけの関係かと思っていた。しかしそうではなかったのだ。もう二度と西くんにいたずらはしません。創世神様……どうか西くんを……。

「ヒャッホーイ! ジンは速いなあ。西!」

「気持ちいいのじゃ~!」

 ハヤトは幼女と風を切る感覚を楽しんでいた。

 一行はなんとか西が死ぬ前にイリースの首都セビリダに到着した。赤原が慌てて西を担ぎあげる。

「お、俺は神官の佐藤のところまで西を運んでくる!」

「赤原はホルモン鍋いらないのか?」

「いるか! そんなもん!」

 赤原は西を背負って神殿の寮に向かって走り去った。ハヤトがその姿を見ながら言う。

「忙しないヤツだなあ。ホルモン鍋がいらないなんてもったいない」

「もったいないのじゃ」

 ハヤトは自分の店に幼女ブリリアントと執事アッタモスを案内する。

「オッサーン。どうだった?」

「あ、店長。特に問題もなくなんとか。店長が作ってくれた料理のマニュアルもあるしね。ところでこの人たちは?」

 元冒険者のオッサンは高貴そうなお嬢ちゃんとその執事らしき人物を見て、この人たちはどういう身分の人で、どうして飲食店の店長であるハヤトについてきたのかと聞いたつもりだった。

 ちなみにそのお嬢ちゃんは魔王と呼ばれることもあり、その飲食店の店長は魔王を倒す救世主とも呼ばれていた。

「同志さ!」

「同志なのじゃ! 政府と戦うレジスタンスなのじゃ!」

 返ってきた言葉はオッサンにとってまったくもって意味不明だった。そして幼女の髪には可愛いリボンがついていた。それはいい。しかし、その可愛いリボンは老執事の頭にもついているのだ。

 元冒険者のオッサンは突っ込みたかった。なんで老いた紳士の頭にもリボンがついているのかと。でも止めておいた。聞くと痛い目を見る気がしたからだ。実際それは正しい。

 実はこのリボンは魔力を抑えるためのリボンである。覚醒した魔王の巨大な魔力であれば、抑えることはできないが、今のブリリアントと年老いたアッタモスには効果は十分で、魔力を隠すことができる。変化の術と合わせれば人間の姿を装うことができるのだ。

「テーブル席をパーテーションで個室にするか。俺は同志とレバ刺しとホルモン鍋を楽しんでるから店は引き続きオッサンが頼むよ」

「それはまあ。なにかあったら店長もすぐ呼べますし」


◆◆◆

「爺や、森ではわらわが全部食べてしまってごめんなさいなのじゃ」

「悪かったなあ。バッファローの肝はでかいからまだまだあったんだけど、持っていったごま油が切れちまってさあ」

 老魔族アッタモスの目の前には、あずき色の新鮮で角の立ったレバ刺しがあり、黄金色のごま油がかかっていた。

 早い話、魔王がイリースの首都セビリダの神殿本部の目と鼻の先に乗り込んだのはこの老魔族のためだった。

 しかし少年と幼女には、老魔族の……いや、幼女に仕えているただの老執事の悲しみがわかっている。レバ刺しを食えないという悲しみを。

「いえいえ。肝が食べられれば爺やは……」

 アッタモスはレバ刺しを口に入れ目をつぶり、静かに歓喜の涙を流した。

 少年(魔王を倒すために召喚された救世主)と幼女(人類を滅ぼすかもしれない魔王)は第三の同志の涙にニッコリと微笑みあった。もはや世界には争いも憎しみもない。

このときだけは厚労省への恨みも銀河の彼方へ吹っ飛んだ。

「さあ。ホルモン鍋も煮えた。これも美味いぞ~。同志たちは貴族だろうから牛ホルモンなんて食ったことはないはずだ。俺は貴族に生まれなくてよかったよ」

 ハヤトは二人を貴族かなにかと思い込んでいる。幼女と老執事にホルモン鍋をとり分けてやった。

「スープに浮いた、この白くてプリプリしたのがホルモンなのか?」

「ただの脂身のようにも見えますが……」

 幼女と老執事が恐る恐るホルモンを口に入れる。

「……美味いのじゃ」

「……美味いです」

 ハヤトはまた満面の笑みで、その言葉を受け取った。

「脂身みたいな味なんだけどなにか違うのじゃ。鍋の美味しい汁を吸ってプリプリジュワジュワなのじゃ」

「ブリリアントはまだ小さいのに、よく味がわかる奴だなあ。偉いぞ~」

 ハヤトは幼女ブリリアントの頭を撫でる。しかしブリリアントは幼女だが魔王だ。人間にとってはとてつもなく危険な生物。ハヤトはそれを思い知ることになる。

 老執事もホルモンの感想を言った。

「小腸と聞いたので臭みがあるかと思いましたが、まったくないですな」

「ああ、俺がよーく洗って処理したからね。肉は熟成させてからのほうが美味くなるけど、内臓系の肉はとにかく鮮度が命。西が頑張ってくれたからな。それにしてもアイツなんで食いにこなかったんだろう?」

 料理のこととなるとハヤトは周りが見えなくなる。ホルモン鍋のその他の工夫についてハヤトが解説していると幼女はハヤトの膝の上に乗って甘え出した。

「ハヤト~ハヤト~食べさせて欲しいのじゃ~」

「え? なんでだよ」

「いつも爺やに『あ~ん』ってやってもらっているのじゃ」

 歳に似合わない色っぽい目つきをしてブリリアントはハヤトにあ~んをせがむ。老執事は小さな声でつぶやいた。

「好き嫌いが多くてなにも食べてくださらないからやっているだけで、あんなふうに膝に乗られたことはないです……羨ましい」

 魔族は羽や尻尾や角が生えているが、それでも人間の基準で美男美女であることが多い。ましてや今、幼女と執事は完全に人間に変装している。

 ハヤトは焦っていた。おかしい。俺はロリコンではないはず。しかし、甘えてくる幼女になにか変な気持ちになってくる。

 確かに見た目は可愛いし、成長したら大変な美人になりそうな顔立ちだが、胸はつるぺったん、足は棒のようにストンとしている。だがその足が自分の太ももの上に乗るとなにか艶かしい。

「早くぅ。ハヤト~。あ~ん」

「あ、あぁ……。あ~ん」

 プルプルとしたホルモンを少女特有の綺麗な薄い唇の中に入れる。

「ん。あっ。んんっ!」

「ど、どうした。ブリリアント」

「バカハヤト……ちょっと熱かったのじゃ」

 もちろん別に熱くない。魔族は本能的に異性の人間をたぶらかすことができる。リボンで魔力をほとんど封じられていても最弱のハヤトの魔法抵抗力はゼロ。いろいろな意味で危険な状態だった。

「す、すまん」

「ちゃんと『ふ~ふ~』もしないとダメなのじゃ」

「あ~んだけじゃなくふ~ふ~も!?」

「そうじゃ~」

 幼女は妖しく笑いながらハヤトの体にさらに接近して、ふ~ふ~を追加注文した。

 しかも、先ほどまではゴスロリスカートをハヤトの太ももの上に敷いてベンチのような形で座っていたが、今度はハヤトの右足にまたがって対面になる形で座る。

 当然スカートを敷くことはできず、ハヤトの右太ももが幼女のおパンツと生太ももに挟まれていた。

「う、羨ましい」

 ハヤトにも老執事の声が聞こえる。しかしハヤトにはもうなにを言っているかよくわからない。正常な思考回路が奪われつつあった。

「ハヤト。はやく。ふ~ふ~」

「……ふ~ふ~。こ、これでいいか?」

「いい、いいが……口移しでもいいのじゃぞ?」

「な、なに言ってるんだ! な、なんでそんなことをする必要がある」

 さすがにハヤトは抵抗しようとするが、ブリリアントの瞳を間近で見た瞬間に完全にわけがわからなくなりつぶやいた。

「そ、そうか。これはポッキーゲームみたいなもんだ。俺はプリリアントとプリプリホルモン鍋のホルモンでポッキーゲームをするんだああああ。プリプリホルモンとプリプリの唇にいいいい」


◆◆◆

 元2年B組、佐藤愛サトウアイは怒っていた。誰に対してか。ハヤトにだ。

 彼女の適職は『神官』で得意魔法は回復魔法だ。彼女はそれを傷ついたクラスメートに使い続けているが、苦にはならない。

 なぜなら彼女は日本では『仏の佐藤』と呼ばれるほど、あらゆることに寛容で母性的な優しい女の子だからだ。

 佐藤は戦闘訓練でクラスメートが傷つけば治療にあたっている。

 だが、普通の飲食店であるはずのハヤトの店は戦闘訓練以上に怪我人を量産するのだ。

 しかもハヤトの店はコンビニだ。二十四時間、深夜でも関係なく怪我人を作る。睡眠時間を削られるが、それでも佐藤は文句を言わなかった。

 しかし、物事には限度というものがある。今日は西太一が死ぬ一歩手前で運ばれてきた。

 赤原に聞けば、ハヤトがホルモンは鮮度が命、とまくしたてて西に危険な精霊術を使わせ続けたというのだ。

 食に拘るのもいいが、友人を殺しかけるとはどういうつもりだろうか。仏の顔も三度までというものだろう。優しげな微笑みをいつも絶やさない佐藤は鬼の形相をして、早足でハヤトの店に向かっている。

 まあ本人がそう思っているだけで、他の人から見れば普通の顔をして歩いている少女がいるだけなのだが。

 佐藤は店のドアを開けた。

「いらっしゃい。あ。アイちゃん」

「おじ様、お久しぶりです」

 元冒険者のオッサンの肩にユミの矢が刺さったとき、治療にあたったのも佐藤愛だった。

「矢が刺さった肩は大丈夫ですか?」

「うん。もうなんともないよ。本当にありがとうね」

「ところでハヤトくんはどこにいますか? ちょっと話したいことがあって」

「ああ、あのパーテーションの中でホルモン鍋パーティーをやるとかなんとか」

「ありがとうございます」

 佐藤は本人的にはちょっと怖い感じを出しすぎているかなと思っているが、元冒険者のオッサンは店長の知り合いの女の子が楽しく話をしにきたと思っている。

「アイちゃんは本当に天使のような子だな」

「オジサーン。明日は仕事ないんだから、お酒切れたらすぐに持ってきてって言ってるじゃん」

 元冒険者のオッサンが笑顔で佐藤を眺めていると、犬飼先生から酒の催促が入る。

「はーいただいま。それに比べてこのドワーフの先生はよ」

「なんか言った?」

「いえ、なにも」


◆◆◆

「ん~」

「ん~」

 パーテーションで作られた個室の中では、今まさに幼女の唇からホンのちょっとだけ出ているホルモンをハヤトの唇が受け取ろうとしていた。

 ポッキーは細く長い。端と端を食べれば唇と唇の距離はかなりある。

 しかし、ホルモンは太く短く生きている。確実に大変な事態が起きようとしていた。

 そのとき、パーテーションをずらして、佐藤が顔をのぞかせる。

「葛城くん。ちょっとお話が……」

「はっ! 俺はなにを!? げっ佐藤! な、なんだ、この状況は?」

 ハヤトが正常な意識を取り戻したとき、幼女の口からもホルモンは落ちて転がった。まあ転がったホルモンのことなどどうでもいい。

 問題は幼女と対面で抱きあっているかのようなこの状況である。ひょっとしたらキスをしているように見えてしまったかもしれない。あれはポッキーゲームならぬホルモンゲームだったんだで通るだろうか? 無理だ……。

 しかも佐藤は神官のメイスを持っていた。あれで殴られること必至だろう。ハヤトがそう思って身構えたときだった。

「なにこの子。超可愛いいいいいい。私にも抱かせてええええええ!」

「え?」

 佐藤はハヤトの足の上に乗っていたブリリアントを奪い取って頬ずりをする。

「うわあああ。この女はなにをするのじゃ。やめるのじゃあ~」

「しかも私の大好きなホルモン鍋まであるじゃない。私が食べさせてあげるわ! ハイ。あ~ん」

 佐藤はその人一倍豊かな母性本能をどうもブリリアントに爆発させたらしい。

 それに佐藤の辞書には性善説しか書かれていない。幼い女の子に邪な心を抱くロリコンという言葉は書かれていないのだ。佐藤はブリリアントの口の中にホルモンを入れた。

「ぶはぁ。あちちちち。今度は本当に熱いのじゃ! すぐに口に入れるのはやめるのじゃ~」

「は~い。じゃあ、ふ~ふ~してあげまちょうね。お洋服もフリフリで本当に可愛いわ」

 ハヤトはこの突然の闖入者によって完全に正常に戻った。

「お、おい佐藤。お前なにしに来たんだよ?」

「なんだっけ? 大事なことがあった気がするけど。まあいいわ。私もこの子とホルモン鍋パーティーに参加させてね」

「お、おう。そいつは構わないけど」

 実はハヤトは佐藤に普段から迷惑をかけすぎているのではないかと思っていた。ハヤトでも少しは自覚があったのだ。

 しかし今の佐藤を見るとまったく気にしてないようだ。

 うん。それならばいい。今まで通り食の道を邁進しよう! 怪我人を出しても佐藤に回復してもらえばいいのだから。

 どんな犠牲を払っても俺は食の究極にたどり着く!

 ハヤトは不死を追い求めすぎてマッドサイエンティストになってしまった錬金術士のように高らかに笑う。

「ハーッハッハ!」

 もはやハヤトを止めるものは誰もいないのだろうか。

本日のメニュー

『ホルモン鍋』


次回はついに料理バトル予定。(次の次になるかも)



幼女とホルモンゲームをしたい人は応援よろしくお願いします。


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