01 異世界に転移したけどありふれた料理人が適職でした
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クラスメートが混乱して騒ぎ立てるなか、葛城隼人だけは違った。
「本当に異世界に転移してしまったのか。だとしたら…………………………………………………………最高じゃん!」
魔法のある異世界にクラスごと転移。これぞ高校生男子の本懐!
白亜の大理石によって造作された美しい神殿の中で、神殿騎士団の団長と名乗る中年男性から、
「君たちは未来の英雄だ。どうか魔王を倒して欲しい」
といきなり言われてもハヤトは動揺することもなく、むしろワクワクとした高揚感を抱いていた。
ハヤトは子供のころから食べることが大好きで、それが高じて料理好きになったこと以外はいたって普通の高校生だ。歳相応にアニメを見ることもあれば、ラノベを読むこともある。だから異世界転移は望むところだ。
しかし、それも三十分前までの話だった。
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葛城 隼人 17歳 男 レベル:1
適性職業:料理人
体力:11
筋力:07
耐性:08
敏捷:05
魔力:03
魔耐:10
スキル:味記憶LV?・味分析LV?・刀工LV07・火工LV06
食材鑑定LV03
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この異世界では、魔導具と呼ばれているマジックアイテム『ステータスプレート』を使うと適性のある職業がわかり、また能力も数値化して確認できる。それを見たハヤトは強い疑問を感じた。
神殿騎士団団長のオッサンの話によれば、俺たちが現時点でどれぐらい強いのか、どういった方向へ鍛えていけばいいのか、このステータスプレートが表示してくれるということだった。
しかしハヤトは自分の能力の数値が低い気がしている。まあ能力の数値はレベルが上がれば強くなるのかもしれない。
でも適性職業が『料理人』ってどういうことよ。
確かに俺は食にはうるさいし、美味いものを食べるために幼いころから料理だってしている。
親が作ってくれた料理だけでは納得出来ないと包丁を持ったのは幼稚園、鍋を握ったのは小学生の低学年だ。
だが俺たちは人類を脅かす魔王と戦うために召喚されたはずだろ。料理は関係ないはずだ。料理人って戦うための職業じゃないだろとハヤトは誰かに尋ねたかった。
魔王と魔王が率いる魔物の軍隊と戦うんだよね?
そのために俺は異世界へ召喚されたんだよね?
俺TUEEEEEEできるんだよね?
「お! 俺は『退魔士』だってよ! 強そうじゃん!」
「え~俺は『夜盗』かよ。でもスキルに罠解除とか罠感知とかあって便利そうだな」
「私は『神官』だって。回復魔法が使えるみたい」
クラスメートの楽しげな声が聞こえてくる。
やはり……おかしい。あいつらのステータスプレートを見ているわけではないけれど、戦闘に有利そうな適職ばかりを口にしている。すでにハヤトの心は疑問から焦りに変わりはじていた。
そのようなことをハヤトが考えていると、学級委員の清田光からステータスプレートを見て欲しいと頼まれる。
「皆はゲームに似ているからわかりやすいとか言っているが、俺はゲームをまったくやったことがないから強いんだか弱いんだかわからん。葛城、俺のプレートを見てくれないか?」
清田は現代に生きる武士。アナログの守護者だ。量の大小はあっても、今どきゲームをまったくやったことがないという高校生はいないのではないか。だが何事にも例外はある。清田はゲームをする時間があるなら、自らを鍛えるために滝に打たれているようなタイプなのだ。
もちろんハヤトはすぐに見てやった。自分のステータスと比較するために。
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清田 光 17歳 男 レベル:1
適性職業:勇者
体力:113
筋力:091
耐性:084
敏捷:069
魔力:072
魔耐:093
スキル:剣術LV01・天魔法LV01・限界覚醒LV01・勇者補正LV01
対魔族補正・勇者専用装備可能
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「……」
「どうなんだ? 強そうなのか?」
清田が不安そうに聞いてくる。ハヤトはぶっきら棒に答えた。
「チート持ちの主人公はお前みたいだよ。スキルに『勇者補正』って書いてあるだろう」
「意味がサッパリわからんが、俺は強いってことでいいのか?」
「ええ、そりゃーもう強いと思いますよ。ってかなんだよ。勇者補正って。俺だって知らねーよ」
ハヤトは知らないと言いながらも清田の勇者補正は主人公補正と同じようなもんじゃないかと思った。どうやら英雄譚の主人公補正を持っているのは自分ではないようだと。
早くも異世界に来たときの夢をハヤトは諦めはじめていた。チートで魔王を倒し、異世界を救ってハーレム生活を送るという夢を。
そもそもこの異世界はどういう世界なのか。ハヤトたちを召喚した神殿の騎士団長ヴォルフの説明によれば、この異世界はバーンと呼ばれる世界であった。
バーン世界には人間の他にも知的生命体がいる。亜人族、竜族、魔族などだ。
亜人族はエルフ、ドワーフ、獣人などに代表される人間に似た種族。竜族は言葉通りドラゴンだ。ただ、竜人というドラゴンから人間のような姿形に変身できるものもいる。魔族は角や尻尾や羽が生えているがそれ以外は人間と同じである。
亜人族、竜族、魔族などは個体数が少なく、自然環境が厳しいところで細々と暮らしているが、個体としてはいずれも平均的な人間よりもはるかに強い。
その他にも地球には存在しない生物としては、知能を持たない魔物がいる。魔物は魔力を持つ野生動物であると定義されている。
猪や熊はバーン世界にもいるが、魔力を持たないそれらはただの野生動物になる。
魔物は人間を食料として襲うこともあるが、群れて街や村を襲うことはない。山や森などに住んでいて、人間とは生息圏が重ならないために、住み分けもできていた。
これがバーンという世界の平和な姿だった。
しかし、百数十年に一度、魔族の中に魔王を名乗るものが現れることがある。
魔王は集団で人間を襲うことのない魔物を統率し、人間を殺戮しながら村や街を侵略してくると歴史書に記載されている。
魔王に統率された魔物の軍隊は強力で、魔王が現れる度に人間は絶滅の危機に瀕してきた。
それに対抗する人類の手段は、異世界から救世主を召喚することだった。
魔王がいない百数十年の間に神殿に貯めた聖なる気で、異世界から若者たちを召喚する。召喚された若者たちは聖なる気によるものなのか強力な適性職業(=適職)を持っていて、戦闘のエキスパートになるものが多いと伝承されていた。
ところが聖なる気で召喚された若者の中にも例外はいるようだ。もっとも、この段階でそれに気がついている人物は当事者のハヤトしかいない。
神殿騎士団長のヴォルフは満面の笑みだった。
「諸君はどうも想像以上に強力な適職を持っているようだな。この中から魔王を倒す英雄もきっと現れてくれるはずだ」
ハヤトは小声で団長に突っ込んだ。
「それは料理人の俺じゃないだろうけどな」
魔王とか言ってるけどシリアスな戦闘などは(ほとんど)ない予定です。
料理ものです。