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こんな夢を観た

こんな夢を観た「新発売の肉まん」

作者: 夢野彼方
掲載日:2014/09/29

 日が暮れると、涼しい風が吹き始める今日この頃。暑いうちは敬遠していたほかほかの食べ物に食指が動き始める。

「久しぶりに、肉まんでも買ってこようかな」わたしは財布を持って、近所のコンビニへと出かけた。

 店の前では、なぜか店長がのぼりを担いで、宣伝活動をしている。

「新商品が出たよーっ! ほっかほかの新食感、その名も『はぐれ肉まん』だよーっ!」


「こんばんは」わたしは声をかけた。

「あ、どうも。いつも、ありがとうございます」

「あの、『はぐれ肉まん』、まだありますか?」

「ええ、たっぷり売れ残――いえ、在庫がありますよっ」店長は嬉しそうな声を出す。

「じゃあ、買おうっと」わたしは店に入った。

 レジのそばの蒸し器には、オーソドックスな肉まん、あんまん、ピザまんと並んで、何やらいぶし銀のような色をした商品が入っている。

 アルミの粉をまぶしたようなそれの前には、「はぐれ肉まん」というポップが貼ってあった。

 これか、新商品というのは。ぺしゃっと押し潰された肉まんにしか見えない。


「この『はぐれ肉まん』って、蒸し過ぎてこんなに潰れちゃってるんですか?」わたしは店員に尋ねた。

「いいえっ、とんでもない!」学生のアルバイトだろうか。わたしの問いに、大慌てで否定する。「もともと、こういう形をした肉まんなんですよ。本当なんです、信じてください」

「なんだか、かえってすみませんでした。そんなつもりで聞いたんじゃないんですけど。じゃあ、2ついただけますか?」見た目から食欲が失せてしまったけれど、申し訳ない気持ちになって、買うことにした。

「はい、毎度ありがとうございますっ」元気にそう答える店員。案外、今日が初めての売り上げかもしれない。あんな肉まん、普通の人は買わないだろうしなあ。


 店員が紙袋に詰めようとしたその時、「はぐれ肉まん」はいきなり逃げ出した。思いがけない素早さだった。

「あ、逃げた」とわたし。

「逃げちゃいましたね」店員までもが、あっけに取られて「はぐれ肉まん」の後ろ姿を見送る。

 「はぐれ肉まん」は、たまたま来た客と入れ違いに、開いた自動ドアから外へ飛び出していった。

「逃げた分のお代は結構ですから」そう言って、店員は次の「はぐれ肉まん」をトングで掴む。

「あ、待って」わたしは言った。「きっと、また逃げ出しますよ。今度は逃げられないよう、慎重にいきましょう」

「そうですね。ええ、そうしましょう」店員は「はぐれ肉まん」を一旦、蒸し器の中に戻すと、奥から縄を持ち出してきた。

「それで縛るんですか?」わたしは聞く。

「はい、そのつもりです。奴め、今度こそは逃がさないぞっ」


 店員は縄で輪を作り、そっと蒸し器の扉を開けた。

「それっ、捕まえた!」

 「はぐれ肉まん」は縄に捕らえられ、じたばたともがく。それを見て、ますます食べる気がしなくなった。

「ふう。さあ、縄を掴んで離さないでくださいね」

 店員から縄の端っこを手渡される。まるで、躾のできていない仔イヌでももらったようだ。

「よっしゃ、次っ!」店員が別の縄でまた身構える。

「あ、えーと。この1個だけで、もういいですから。さっき逃げていったのも払います」面倒になって、わたしは断った。

「そうですかあ、面白くなってきたんですけどね」いかにも残念そうだ。


 わたしは「はぐれ肉まん」に綱を引かれるようにして店を出る。

 店の外では、店長が相変わらずのぼりを振って営業をしていた。わたしの「はぐれ肉まん」を見ると、笑顔を浮かべてこう言うのだった。

「足が速いので、すぐに召し上がった方がいいですよ」

 言われなくとも、もうわかってます。 

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― 新着の感想 ―
[良い点] なんだか、肉まんが食べたくなりました(笑)。 はぐれ肉まんの製造行程も見てみたいです。どうやって作ったんでしょう? それに出荷するまでも大変そうですね……。店長の気持ちがなんとなくわか…
[良い点] 流石です。 最後の一行に、笑わせてもらいました。
[一言] 足が早い肉まん…(笑) 腐りやすいのか、それとも文字通りなのか。 どんな味がするんでしょうね。食べてみたいです!
2014/09/29 21:18 退会済み
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