30話/3人の目立つ人
保護者のみなさんが確保してくれている聖堂の座席は、1階中央のやや後ろというかなりのいいポジションだった。辺りを見回すと、そこそこに客が入っている。アスク曰く、出場する聖歌隊の関係者が少し、ほとんどはトキオンの市民らしい。トキオンはほとんどが教会の信者の上、聖歌隊大会というと一大イベントらしく、しかも今日は休日だ。わずかだが入場料を取っているので、この人の入りならば第二教会は出場者たちに旅費を支給しても黒字だろうということだった。最後には金の話になるところがいかにもこの教会らしい。
「まあうちは司教のポケットマネーでもらっているので関係ないんですけどね。」
「はあ……。」
これだけの来場者ならば、まず第二教会としては成功だろう。あとは自信満々な聖歌隊を出して勝ちをもぎ取り、出世へのアピールにする、そういう目論見のようだ。この世界に来て何度か思っているが、この宗教組織はちょっと俗世的すぎる。
「エリィ!すごく可愛いよ!」
「ありがとう、おとーさん!」
エリィの機嫌もすっかり直ったようで、娘に口を利いてもらったエドワルドが目に見えて喜んでいる。そしてそれを見たお母さん方の勇人を見る目がなんだか、なんだろう、生温かくてぞっとする。母は怖し。
「ユートはエリィと仲直りしたみたいですね。」
「ええ、なんとか。エリィに『責任とってもいいよ』みたいなことを言われたんですけど、意味わかります?」
「ええっ!?……ちょ、ちょっと私にはわかりかねますねえ……。」
「ですよねえ。」
「あっ、そろそろ開会のようですよ。」
アスクが指し示す先を見ると、壇上に先ほど会ったヘルマン第二教会司祭が現れていた。主催者らしく、開会の挨拶をするようだ。お喋りをしている子どもたちをたしなめ、静かにさせる。壇に登った人の話は静かに聞く。それが勇人の知る常識だ。
ややざわつきが収まったところで、ヘルマンは話し始めた。
「皆様、本日はお忙しい中、当教会主催の聖歌隊大会へお越しいただき、誠にありがとうございます。本日は……」
先ほど聞いた限りでは、特に通りそうな声でも、声量がありそうでもなかったのだが、座席までよく声が聞こえてくる。なるほど、これが例の音響魔法の働きだろう。これはなかなかいいものだ。
「では、これより、第543回、聖歌隊大会を開催致します!」
543回もやってるのか。
* * * * *
リダ村聖歌隊の出番は7番目、トリのトキオン第二教会聖歌隊の1つ前だ。招待枠ということでこの位置に来たらしい。少しプレッシャーがかかるところでもある。これも第二教会司祭の差し金なのだろう。
現在は3つの聖歌隊による発表が終わったところ。子どもたちは多少緊張してきたらしく、言葉少なだ。
勇人にしてみれば、今まで出てきた聖歌隊はだいたい十人並みといったところで、確かに敬虔な雰囲気の中美しいハーモニーを奏でてはいたが、面白みに欠ける印象だった。聖歌隊として教会で歌うのならば文句なしにふさわしいが……今日は勝ち負けがある大会だ。こういう場で勝ちたいのなら、まずは衆目を集めて他との差別化を図る、工夫が必要なのだ。
そして、自分たちにはそれがある。その自信が、勇人にはあった。
そうして、4番目の聖歌隊の曲が終わった。そろそろ子どもたちは舞台袖へ向かい、準備をしなければならない。指示を出そうとしたとき、聖堂後方の入り口から派手な装いの老人と、これまた人目を引く男女が入って来た。
「坊!ユート!ガキども!見に来たぞ!」
「ミラぁ、ユートく〜ん、昨日ぶりねぇ。」
「約束通り、来ましたよ。」
相変わらず真っ赤な出で立ちのコミンズと、サリアとリュースの見目の良いカップルだった。
* * * * *
「遅れてしまってすみません。まだ出番は来ていませんよね?サリアちゃんったら、さっきまで全然起きなくて……。」
「リュースが本気で起こさないからよぅ。」
「そんなわけないでしょう!僕がどれだけ起こしたと思ってるの!?」
「まあまあ、まだ俺たちの出番はこれからですから。」
「本当に良かったです……。」
素面でもなかなかにうるさいサリアと彼女をたしなめるリュースに返事をしていると、その隣のコミンズ翁が話しかけて来た。どうやらこの派手な2人連れが気になるようだ。
「なんでえ、ユート、友達か?」
「俺のというよりは、ミリアンさんの友達ですよ。元パーティメンバーだそうです。」
「ほお、てえことはあんたがあの……」
「やぁねぇ、今はただの大人のおねえさんよ~。」
「おっと悪かったな。コミンズだ。」
「リュース・ミドリカワです。こっちがサリエステ・ポラリスフィールド。」
ミリアンの元パーティメンバーと聞いて、コミンズは何かにピンときたらしい。ミリアンたちはよほど名が売れていたのだろうか、それともカレーの勇者ミドリカワ関連か。どちらでも不思議はない。
「ユート、そろそろ準備しないと。」
「そうですね。よし、聖歌隊ー、行くぞー!」
「はーい!」
リダ村聖歌隊を引き連れ、座席の間を出口へ向かって進んでいく。白いワンピースの集団は客席でもそれなりに目立ったようで、通路付近の席からは「聖歌隊?子どもじゃん」、「かわいい」などという声がぽつぽつと聞こえてきた。生まれてからずっと平和で顔見知りばかりのリダ村で暮らしてきた子どもたちは、顔を見るだけで緊張しているのがわかる。かくいう勇人も、これだけのハコのステージは中学生の頃の合唱コンクール以来だ。子どもたちの緊張が少し伝染ってきていた。
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