26話/朝湯がお好きな誰かに
6/16 改稿
2/24 誤字修正
昨晩もゆったりできて良かったが、やはり朝の風呂は格別だ。地元に、朝寝、朝酒、朝湯が好きな男が身上を潰すという歌詞の民謡が地元にあるが、朝風呂にはそれだけの価値がある。もちろん朝寝と朝酒も魅力的だ。最近していないが。
「ふいー。いい湯だった。」
この世界に来てからというもの、早起きが非常に得意になった。教会でなど、朝の礼拝準備のためといって日の出と同時に起き出している。以前の自分が見れば大変に驚くだろう。
今朝も、その習慣のおかげか、日が昇ってすぐに目が覚めた。昨晩の酒も特に残ってはいない。爽快な目覚めで朝湯もゆっくり楽しめた。
湯で十分に温まった体を、タオルのような、糸がループ状になった織物で拭いていく。日本で使っていたものほど吸水性は良くないが、リダ村で使っている手ぬぐいよりはよほど快適である。これ、買って帰りたいな。
水気を拭き取り終わったら、手早く衣服を身に付けた。今日も、いつもと同じような、洗いざらしのシャツにゆったりした黒っぽい地のズボンという地味なファッションだ。教会での大会ということで、シャツだけは白いものにしてみたが……まあ、主役は勇人ではないので大丈夫だろう。ということにした。
浴場から出ると、廊下の角から出てきたミリアンと鉢合わせた。彼女は昨夜風呂に入れていないはずだから、今来たのだろう。昨日あれだけ飲んでいた割に早起きだ。
「あ、ミリアンさん、おはようございます。」
「わあ!……お、おはおゆございます……!そ、そうだ、ユート、あたし、あんまり覚えていないんだけど、き、昨日は迷惑をかけたみたいで……。」
「いやー気にしないでください。誰だって若いうちはそういうことありますから。二日酔いとか大丈夫ですか?」
「大丈夫だ。そう言ってもらえると少しは気が楽だが……本当にすまなかった。」
「あんまりしょんぼりしてると折角の美人が台無しですよ?」
「び、びじ!?」
思ったより元気そうで、ほっとした。飲みすぎて醜態を晒すというのは、稀によくあることだ。勇人も、若い頃には何度もあれとは比べものにならない惨事を引き起こしている。何度友人に怒られたかわからない。それにどうやらミリアンは昨日のことをあまり覚えていなそうな口ぶりだ。キスやらなんやらのことも含めて、事故として無かったことにするのがいいだろう。
「じゃあ、また朝ごはんのときに。男湯はいい湯でしたよ。」
「あ、ああ。」
* * * * *
浴場から部屋に戻る間に、年少の子どもたちと同室のお母さん方に会った。やはり普段早起きをしているせいか、出先でも目が覚めてしまったらしい。子どもたちも同様に起きているので、これからみんなで朝市を見に行こうかと、勇人に相談しようと思っていたそうだ。
父親たちはどうしているかと聞かれたので、「さっきはまだ寝ていましたよ」と言ったら、「しょうがないわねえ」と笑っていた。勇人も朝市に誘われたが、同室で寝ているお父さん方を置きざりにするのも憚られたので、待っていると伝えた。しっかり者揃いのお母さん方と一緒で、そこまで危険のなさそうな朝市である。
その後、タオル(仮)を置きに部屋に戻ると、2人のオッサンは未だいびきをかいていた。朝食まで1時間半ほどあるしまだ寝かせておいてやろう。
「あ、にーちゃんおはよー!」
「ユート兄、おっはよー。」
「はい、みんなおはよう。」
「あさいちいくんだよ~!いいでしょー!」
「ユートせんせはいかないの?」
「俺はみんなが行ってる間留守番してるから、楽しんでおいで。けがはしないようにな。」
「はーい!」
子どもたちの見送りに玄関へ行くと、ちょうど出発するところだったようだ。子どもたちはトキオンの朝市にはしゃいでいるらしい。お母さん方が一緒ということで心配はないだろうが、念のため無茶はしないよう釘を刺しておく。
宿から元気よく出て行く子どもたちに手を振っていると、先に外へ出ていたらしいエリィが、ぱたぱたと走り寄ってきた。
「おー、エリィ!おはよう!」
「おはよう、せんせー。」
なんだか元気がないように見える。何かあったのだろうか。
「どした?元気ないな。」
「……ゆうべは」
「ん?」
「……おたのしみでしたね?」
エリィは無感情にそれだけ言うと、くるりと踵を返して外で待つ子どもたちの方へと走っていった。勇人は一瞬ピシリと固まる。
「はあ!?ちょっ、エリィ、それはどういう!ちょ、待て、エリィーーッ!!」
(まさか、昨日のが見られていた?いやなんもやましいこどどごろかおたのしみなこどはしてねぇけんじょも!)
「待て!誤解だ、誤解だよエリィ!」
「エリィ、にーちゃんが呼んでるみたいだぞ?」
「いいの。いこ。」
「お、おう……。エリィ、なんか怒ってる?」
「べつに。」
勇人の叫びも空しく、子どもたちはお母さん方に連れられて朝市の方へわいわいと去って行った。ふと気配を感じてそちらを見ると、受付にいるおかみさんが笑いを堪えていた。勇人の視線に気づくと、そそくさと裏へ行ってしまう。
「つうか、誰だよ、エリィにあんなセリフ教えた阿呆は……!」
「よ、よう、ユート。また何言ってっかわかんねーが、朝っぱらからどうしたんだ?」
開け放たれた玄関扉の向こうから声を掛けられ、顔を上げると、そこには見知った人物が立っていた。
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