死の惑星
「船長、例の星が見えてきました。」
「そうか。よし、メインモニターに映像回せ。」
オペレーターは短くはいと答え、目の前にあるボタンを押した。艦橋のメインモニターは外の風景を写すのをやめ、代わりに青い惑星を大きく映し出した。艦橋に居る全員、ひいてはこの調査宇宙船に居る全員が、その星を見て、唸った。
「諸君、とうとう、とうとうだ。遥か何万光年もの宇宙の旅の終わりだ。」
感慨深く、船長は艦橋に居るクルーに聞こえるよう声を上げた。皆船長を一瞥し、スクリーンに映った青い惑星、通称『テラ』に視線を移した。星のほとんどが液体に覆われ、両極には液体が固体化した大地がある。そして、液体の間を縫うように、陸地が顔を出していた。ぼそりと、一人のクルーがこんな星住めないなとこぼした。
「それでは、これより、惑星『テラ』に着陸、調査を始める!」
船長が大きな声を出した。操縦桿を握った航海士が、思いっきり腕を伸ばし、宇宙船は『テラ』へと向かった。
砂漠地帯にある、建造物の近くに降り立った宇宙船は、まず周りの様子を船外カメラで伺った。動くものはなく、砂埃だけが時々立ち上がった。
「全員、装備は持ったな。」
防護服を着込んだ船長が、同じく防護服を着込んだクルーたちに声をかけた。彼らは、それぞれ手に荷物を持っている。全員が再読人した後頷き、その様子を見て船長も満足そうに頷いた。
「では、行くぞ!」
ゆっくりと宇宙船の胴体部分が開き、階段を伝って船から降りた船長とクルーは、着陸時に見えた構造物へと向かった。
「これは、完全に人工物ですね。しかもかなり古いものです。…正確に三角錐の形に作られている点から、この惑星の生物は、知性が一定数あるようです。」
クルーの一人が、大きな石を何段も積み上げて作った構造物を調べ、報告をした。
「知性があるのは当たり前じゃないか。俺たちがわざわざここに宇宙船で来たのは、この惑星から人為的な電波を受信したからなんだぜ?」
別のクルーが、通信で茶々を入れる。船長はその言葉を聞き流した。また別のクルーから通信が入る。
「船長、ダメですね。住居跡らしき構造物がいくつもあるんですが、そのどれにも生物はいません。ですが、あきらめずに探してみます。」
「そうか。では、見落としの無いよう、記録を取りながら引き続き調査をしてくれ。…見つかると良いがな。」
結局、その日のうちに電波を出した生命体と出会うことはなく、日没を迎えた。クルーはがっかりしていたが、同時に興奮もしていた。船長は自分も浮き足立つのを抑え、クルーに一喝を入れると宇宙船の自室に戻った。
それから、何日もかけて惑星の各地を回り、調査を重ねた。
「この星の生命体をかたどった大きな像、数多くの彫刻が刻まれた遺跡、真四角の高い建物など、多くの場所を探索しましたが、その、生命反応はどこにも…。恐らくは、絶滅してしまったのかと。」
報告するクルーの声はだんだんと小さくなり、あからさまにがっかりとした様子だった。
「折角、われわれ『地球人』以外の知的生命体に合えると思ったんだがな。残念だ。いつまでも残って調査を進めたいが、物資の関係で帰還をしなければならないからな。」
椅子に深々と腰かけた船長も、心底残念そうに言葉を紡いだ。結局、その日のうちに宇宙船は『テラ』を出発し、『地球』を目指し宇宙空間へ飛び出した。
艦橋では、クルーたちが様々な話をしていた。
「やっぱり駄目だったな。」
「あぁ。俺たち『地球人』以外の知的生命体がいるかもと思ったんだが。」
「無理だろうな。どうやってあんな高度な文明を築いたかわからないけど、惑星の殆どが毒なんだぜ?」
「確かにな。でも知ってるか?学者の間じゃ、『テラ』の住人はその毒である『水』を飲む生物がいるはずって話なんだって。」
「そんな生物、居るわけないだろ?大体、生命体ってのは、石と砂を食べるものを指すんだから。…あぁ早く『地球』で砂を腹いっぱい飲みたいよ。」
クルーたちはそう言いながら、鉄分を多く含む石をがりがりとかじり、遠くなっていく死の惑星『テラ』をちらちと見た。