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外伝 断絶


「礼を言われても困るのだよ。私はお前の叔父の借りを返しているだけに過ぎないのだ」


 私の頭を下げた行為に彼女はよせと言う。

 あまりこういうことをされる事が好きではないのだろう。流石は王道と言う事なのだろうか、それとも卑下しているのか分りませんが、ただ思い返すように彼女は言いました。


「あいつとまともに話したのは実はその日限りだ。だが優秀なものだ、これから先も聞いておくか、あいつの事は色々と残しておきたい」

「ですが御時間が、あなたも随分と忙しい身でしょうし」

「気にするな、どうせそろそろ引退の身だ。引継ぎだけだ、そろそろ人生も半ば、結婚などもしておきたいしな」


 この人は随分と乙女らしい事を言いますがもう、適齢期過ぎていると思います。

 ただ彼女は今も枯れない花の美しさを保ったまま、今からが女盛りと笑って見せます。確かに私が女なら、挙手でもして候補の一人に加えてもらいたいお姉さまですが、あいにくと私は女なのでそういうことはありません。

 そんな事を言いながら、まだこの同盟が彼女なしで立ち行く筈はありませんから、相談役と言う形を取るのでしょう。彼女が根切りした王族や議会の妨害が無いのが唯一の救いだろうが、四つの国が全て違う文化を抱えているその中で色々な論争などもあるだろう。


 特に北方などは一度滅ぼされた国だ。最も軍神の性能が良すぎて、国の汚れが落とされて随分と良い国になったと聞きますが、その所為か復興後は国力を上げてしまい、若干だが力に差が出てしまった。

 どうしても発言力の強くなる北方は、同盟の主導権を得ようとしていると聞いていますが、阻んでいるのが王道であると言う事も有名な話です。実際彼女がここで隠居をすれば間違いなく戦争が起きるでしょう。


 聞いていて少しばかり私も困る話ですが、その程度の事を彼女が考えていないわけも無いので、安心しています。

 十年も過ぎれば軋轢が出ても仕方ありません。ここが踏ん張りどころなのでしょう。その辺りは一般人の私がどう言う事でもありません。彼女はもらしていい情報だからこそここで私に喋ったようですし、何もかも既に終わった事と言う可能性もあります。


「ならいくつかまだ質問を」

「お、案外めぐりは悪くないようだ。セインセイズ辺りだと、首を傾げる所だぞ、頭はいいが要領は悪いからな、反面教師になったか」

「いや叔父さんの事は良いですから」


 私は手を左右に振って、聞きたい事のいくつかを彼女に上げてみます。

 それを聞かれるとも思っていたのか彼女は随分と余裕の態度です。


「あの二腕の剣の後に起こったと言うより、前より起こったあの事件、その詳しい顛末を」

「あれか、簡単に言えばあいつの過去が起きて、王を脅したで終るんだよ。いや観客全てを脅したというべきか、あの戦いは奴にとっては何より許せない結末を迎えてるからな。

 それは随分と機嫌が悪かったよ。あの時は本当に怒っていたんだろうな、奴を拘束しようとした六十人が死んでいるわけだ。さらに観客も数名死んでるな、後は王の外戚の一人が殺されたか、その挙句に脅した。そういう話だ、後は伝えられてる事は変わらない」


 何を言っているのだろうと、胸が締められた。

 あの戦いを見たもの全てが賞賛した闘いの後は、そして前は随分と血生臭いものだった。私はそれを知っていた、彼が万人に嫌われている理由も知っていた。

 だが彼がその闘いの結末を認めていなかった事だけは知らなかった。


 誰もが賞賛した筈なのだ。彼はそこで認められた筈なのだ。

 私はそう思っていた。そして彼がそこで自分を、いやそれは私の勘違いなのかもしれない。その場を見ていない目に確証が持てるはずが無かった。

 元々当人でもないのだ、けれど確実にその闘いで何かがあったのだ。誰も気付かず、だが彼だけが気づく何かが、それを彼は憎悪に変えたのだろう。


「それは、ザインザイツのほうが詳しいだろうな。そうだなあいつもここに居るようだし、私の話が終わったら引っ張ってきてやろう。セインセイズには随分借りがあるからな、その姪に腹ってもなんら問題は無いだろう」

「叔父さん、一体どうやって。あの人も随分苦労してるのは分るんだけど」

「そう言うなアイシアス、男の過去など知るだけ無粋だぞ。最も剣神の過去をあさっているのだ、その次点で無粋なのかもしれんが」


 一応は偉人ですし、私は美人さんからそう言う事を言われると照れてしまいそうになるのですが、元々美人が好きだと言うのに、絶対私の顔は真っ赤になっていると思われます。美人というのは何をやっても絵になるからずるいです。

 しかしまだ聞きたい事はあるのです、時間があるといっても忙しい方ではある事には間違いは無いのですから。


「それはそれです、聞きたい事はまだあります」

「強引に話を逸らすものではないのだが、確かに今は私の方が無粋だったかな」

「それはいいですから、無理を押してくれているのは分っていますし、剣士として少しだけ聞いておきたかったんですよ。あの剣神はあなたから見てどのような剣を使っていたのですか」


 目を瞑って彼女は一度過去を思い出すようなそぶりを見せる。

 少しばかり汗をかいているが、随分といい思い出なのだろう。私なら思い出したくないが類の思い出なんでしょうが、少しばかり表情が引きつっているようにも見えます。


「断絶だな、ありとあらゆる意味でそういうべきだろう。全てを斬るだろうし、全てを防ぐだろう、だが絶対に全ての人間が使えない、そんな代物だった。全てが絶えていたあそこで、あいつの全ては在るがそれ以外は存在しない。

 そう例えるしかないようなそんな代物だ。だがヒルメスカもその域に至っていたように思える、あいつはそこからさらに踏み込んだのだと言うべきなのだろう。あの戦い、むしろ優勢だったのは、神童だったからな」


 断絶と聞いて私はなんとなくですが納得をしてしまいます。

 確かに相応しいと、彼はそう在るべきなのだとなんとなく思って、頷いて見せます。先ほど私は彼女を絵のように例えましたが、彼はそれ以外の絵を想像できないのです。

 孤独で孤高と言うよりは拒絶と断交、剣神に対して私が抱くイメージはそのようなものであり続けたのでしょう。


「なんて」


 そしてそれはきっと正解なのです。

 断絶、これ程相応しい彼を表す言葉はありません。その事に私は少しだけ寂しい気がしました。

 だってそれは彼が望まなかった事であり、彼がそうなった理由だからです。


「なんて報われない」

「それは本人が決める事だ。私たちが何を言っても変わらん事だ」


 ですが、と言う反論の言葉は私の口からは出す事が出来ませんでした。

 


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